「霞が関の赤っ恥」井手農水次官

2009年8月号 POLITICS [ポリティクス・インサイド]

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農林水産省の井出道雄事務次官が後ろ指をさされている。金融筋では、井出氏が農林中央金庫に、農水省元次官の小林芳雄氏を「厚遇」するよう圧力をかけたことは周知の事実だ。農中理事長は長らく農水次官経験者の指定席で、小林氏は前理事長の上野博史氏の後釜と目されていた。ところが、米金融危機の難を受けた農中は09年3月期に巨額赤字に転落。引責辞任する上野理事長の後任が再び次官OBの天下りでは持たないため、生え抜きの河野良雄副理事長を昇格させた。これに腹の虫がおさまらないのが井出氏。「理事長に代わるポストはないのか」と揺さぶりをかけ、副理事長に小林氏をねじ込もうと画策した。農中は全国農業協同組合中央会(JA全中)の向井地純一専務理事を副理事長に起用し、井出氏のゴリ押しを封じた。

それでも井手氏は諦めない。今度は農中傘下の農林中金総合研究所に目をつけ、その理事長ポストを要求。農中側が譲歩し、総研が定款変更をして社長の上に理事長を設け、小林氏を迎えることで話がつきかけた。ところが、このあまりに露骨な天下り劇がマスコミに報じられて最終的には官邸からストップがかかり、白紙撤回となった。

事情を知る関係者は「農中を見下した井出氏の態度は恫喝まがいだった」と憤る。井出氏は「我が省から働き掛けは一切していない」と会見でシラを切ったが、「官邸の手を煩わせながら開いた口がふさがらない」(内閣官房筋)と、政府筋からも批判された。

井出氏は前任の白須敏朗氏が汚染米事件で更迭された後を受け、昨年9月に次官に就任。石破茂農水相の下で同省の信頼回復を図る役回りだが、まじめな志が感じられない。

話は昨年12月19日に遡る。「思い出したくない宴会だった」(省幹部)。場所は農水省3Fの「農政クラブ」。井出氏を囲み、午後6時半に始まった酒盛りは日付が変わる頃まで続いた。クラブといっても夜の盛り場のそれではなく、新聞、テレビの記者が詰める省内の記者室だ。部下である幹部職員やホステスならぬ女性記者に囲まれ井出氏はヘベレケ。自らの出世話に酔いしれた。

この日、政府は緊迫していた。日本が農業分野で孤立した世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンド閣僚会議の年内開催に向け、外交交渉の大詰めに入っていた。同日午前、全国の農家3千人が日比谷公会堂に集結し、「安易な妥協はするな」と怒声を上げていた。外務省は深夜まで情報収集に追われ、経済産業省は状況説明のレクを開いていた。ところが、当の農水省は、事務次官が記者と酒に興じていたのだ。

石破農水相が目指す減反緩和も自民党農水族の猛反発で先送りになりそうだ。掛け声倒れの改革論議を振り返り、ある政府関係者は「A級戦犯は農水族ではなく、むしろ井出氏」と批判する。

石破農水相は信頼を置く針原寿朗総括審議官にプロジェクトを一任。「チーム針原」は農水族の罵声を浴びながら減反緩和を目指したが、井出氏は助け舟を出すでもなく高みの見物を決め込んだ。議論に加わった他省の幹部は「前線部隊が火だるまになっているのに本隊から応援がなかった」と批判する。

さらに、井出氏の政治的センスは驚くばかりだ。6月18日の記者会見で、民主党の農業政策を「スピード感が足りない」「現実的でない」などと批判、民主党を激怒させた。「この時期に、なぜ」。「殿、ご乱心か」。省内からも不信の声が上がったが、井出氏は想定問答を見ながら話しており、振り付けをした事務方のセンスも尋常ではない。

トップの体たらくを見透かすように、省内では労組のヤミ専従や秘書課長による文書改竄、米麦調査での虚偽報告など不祥事が続いている。引責辞任や更迭の続出で幹部人材が払底し、今夏の異動もままならない有り様だ。

本来なら真っ先に井出氏が引責しそうなものだが「今は無理。政権交代した時に差し出すクビがなくなる」と、多くの幹部が真顔で言う。首筋が寒いのは井出氏だけではなく彼らも同じだ。改革派の元次官は「次官も局長も民間公募にしたらいい。農水省はとうに終わっている」と切り捨てた。

   

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