ああ、日本から夕刊が消える!

共同通信加盟49社の過半数が朝刊単独紙に。夕刊廃止が記者の雇用問題に火をつける。

2009年4月号 LIFE

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日本から夕刊が消えようとしている。昨年8月末の「毎日新聞北海道版」に続き、9月末に「秋田魁新報」、10月末に夕刊紙「名古屋タイムズ」と夕刊の廃刊ラッシュが続き、今年2月末には「沖縄タイムス」「琉球新報」「南日本新聞」の3紙が夕刊をやめた。夕方以降の情報源の主役の座をテレビやインターネットに奪われた結果だ。

全国紙で夕刊廃止の先鞭をつけたのは「産経」だ。2002年3月末で東京本社の夕刊(約25万部)を廃止した。新聞社は朝夕刊をセットにして月極めで売る「セット売り」を基本にしてきたが、近年は読者から夕刊を切られる「セット割れ」が急増しており、産経の東京本社では実に7割がセット割れに。やむなく夕刊を廃止した。夕刊の収入(広告料と購読料)が記者、営業担当者らの人件費や設備費、材料費などの発行コストを下回ったためだ。

下のグラフをご覧いただきたい。1978年以降の、過去30年間の朝夕刊セット部数、朝刊単独部数(非セット、朝刊専門紙を含む)、夕刊総発行部数(同、夕刊専門紙を含む)の推移だ。

深刻な若年層の夕刊離れ

夕刊の総発行部数は「セット+夕刊単独」部数ではじき出されるが、セット部数はこの30年間で最低でも1572万部(08年)あるのに対し、夕刊単独部数は最高で231万部(79年)とほぼセット部数の1割以下で推移している。このため、夕刊の総発行部数はセット部数に依存する。グラフで両者の動きが完全に同期しているのはその表れだ。

セット部数はこの30年で19.2%、375万部も減少。日経や毎日の1紙分を上回る部数が市場から消えたことになる。90年の2062万部をピークに急減し、08年にはついに1500万部台にまで落ち込んだ。

次に夕刊単独部数も30年間に224万部から137万部へと40.8%も落ち込んだ。この結果、夕刊総発行部数も90年(2263万部)をピークに以後、釣瓶落としだ。01年に2千万部を割り込んだ後、加速度的に落ちており、09年は1700万部を大きく割りこむ情勢だ。この30年間に21.2%、460万部減った。

一方、朝刊単独部数はこの間に2258万部から3440万部へと52.3%も増えた。その最大の要因は若年層の夕刊離れである。ある男性会社員(30代)は「大学卒業までは夕刊をよく読んだが、今は通勤電車で読む朝刊だけ。家に帰った頃にはニュースの旬が過ぎている」と言う。営業職の女性(20代)は「昨年末から読んでいない。夕刊の方が読みやすく楽しいが、毎日帰りが遅く、読まないままゴミになるので、年間契約を解除した。夜はテレビのニュースで済んでしまう」と、テレビへの情報源シフトを認める。

日本の将来を担う学生たちは、もっと冷淡だ。ある女子学生は「夕刊は(一人暮らしを始めた)19歳から読んでいない。多忙なうえ、テレビのニュースで最低限カバーできる。節約もしたいし」と説明する。男子学生は「夕刊はずっと読んでいない。時間がないし、情報を得る手段はテレビ、ネット、朝刊で十分」とみる。

こうした夕刊離れの結果、共同通信から大量に情報を買っている「加盟社」では日経、産経、ブロック・県紙など49社(ほかに朝日、毎日、読売も「契約社」として共同から一部配信を受けている)のうち、沖縄タイムス、琉球新報、南日本新聞の3社が2月末で夕刊発行を打ち切った。結果、朝夕刊セット発行の社は27社から24社に減り、逆に夕刊のない朝刊単独が22社から25社と過半数を占めるに至った。一説によると80年ぶりの逆転という。共同加盟49社の総発行部数は3大紙(朝・毎・読)を足した部数より多いため、日本新聞史の重大なエポックでもある。共同から配信を受ける新聞社が支払う料金はその発行部数に比例するため、夕刊廃止は共同の懐を直撃する。関係者によると、もし夕刊が全廃されると、共同が受け取る年間加盟料、つまり売上高は20~30%減る。夕刊廃止は当該新聞社だけでなく、共同にとっても死活問題となる。

では、現在の朝夕刊の頁数はどうか。「朝・毎・読」縮冊版で頁数を拾ってみると、今年1月の総頁数は朝日が前年同月比11.3%減、読売が7.1%減、毎日4%減とすさまじく落ちている。

さらに、5大紙の今年2月の平均頁数(小数点以下四捨五入、別刷りを含まず)を多い順に並べると、首位が日経で朝刊36+夕刊17=53頁。次いで読売が朝35+夕15=50頁、朝日が朝32+夕14=46頁、毎日が朝29+夕11=40頁、産経が朝28+夕12=40頁となる。夕刊の頁シェアは日経で約32%、読売、朝日、産経が約30%、毎日が28%と、およそ3割だ。

この「3割」部分が空洞化している。主因は読者と広告主の夕刊離れの悪循環だ。読者の夕刊離れに伴い、広告主は告知効果の薄い夕刊を敬遠する。その結果、広告出稿減少→広告料下落→頁数減少となり、読者がますます夕刊から離れる。

朝日では2割が「余剰記者」

その中でにわかに顕在化しつつあるのが「社内失業」だ。減頁に加え、ここ10年来、各紙が活字を拡大した結果、記者が書くスペースはどんどん減っている。新聞の活字は長らく1行15字の時代が続いたが、現在は朝日、日経で11字と15字時代より27%も縮小。毎日に至っては10字と33%も縮小している。この結果、朝日では2割ほどの記者が「社内失業」状態に陥り、今年から本社で余剰となった記者を地方の拠点総支局に配置転換させ始めた。新聞社は歴史的に労組が強く、解雇は難しいため、地方記者を増やす形で総人件費を抑制し、かろうじて雇用を維持している。

だが、めぼしい産業・企業の少ない地方では、広告減少は都市部よりも顕著で、地方版の執筆余地は乏しい。このまま夕刊が減頁を続ければ、産経、毎日以外の全国紙も夕刊廃止は不可避となる。夕刊の頁シェア3割に照らせば、夕刊廃止後の社内失業者は少なくとも3割、朝刊の減頁分も含めると4割に跳ね上がる社まである。夕刊廃止は新聞社の雇用削減の引き金となるのである。

すでにその兆候は表れている。2月末で夕刊をやめた南日本新聞は整理記者の減員、配転を実施。琉球新報も「整理部など内勤部門の一部部員の配置転換を行ったうえ、夕刊専門の配達員だった約950人の一部も朝刊配達に振り向けたり、昨秋から受託印刷している『日経』夕刊の配達に回したりした」(経営企画局)。雇用調整はすでに始まっている。

広告激減に伴い、各紙は4月以降、さらに減頁を進める見通しだ。このため、夕刊を廃止する地方紙の中には、記者のワークシェアリングを検討している社もある。例えば、記者の給料を半分にする代わりに勤務日数を半分にして副業を許すという考え方だ。社内外の記者と特ダネを競う環境で育てられる記者に、単純なワークシェアリングはなじまない。しかし、そうでもしなければ大量解雇は避けられない。夕刊を廃止した地方紙の経営者の中には「現在の給与水準では記者の半分が過剰」と言い切る人もいる。

思えば、世界で朝夕刊を出し続けている国は日本と韓国だけだ。新聞の祖国イギリス、新聞大国のアメリカやロシア、中国でも、朝刊か夕刊の単独発行だ。収益拡大を狙って朝な夕な新聞を出し続けてきた日本の新聞が、テレビとインターネットという後発媒体に押されて世界標準に回帰しつつある。歴史の必然とはいえ、わが国の新聞界にとっては深刻な事態と言わざるを得ない。

   

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