「骨肉の西武騒動」が火を噴くか

2009年3月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]

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04年に発覚した西武鉄道による有価証券報告書の虚偽記載事件に絡み、同社株主が株価下落による損害の賠償を求めて起こしていた2件の裁判で、東京地裁は1月30日、被告である西武鉄道とプリンスホテル(現在はいずれも西武ホールディングス〈HD〉の子会社)、堤義明・元コクド会長の責任を認め、3者に総額約20億5千万円の支払いを命じた。

原告の株主はゆうちょ銀行(旧日本郵政公社)など6社と日本私立学校振興・共済事業団。西武鉄道や堤元会長らに対する同種の株主訴訟は16件(賠償請求額合計約430億円)起こされており、これまでに全日本空輸(07年9月に地裁判決で6億7800万円の賠償認定、その後和解)、個人株主289人(08年4月地裁判決で176人に2億3千万円の賠償認定)、信託銀行4行(同、請求棄却)などの判決が出ている。信託銀行以外の訴訟ではいずれも賠償責任が認められており、西武HDも、その庇護下にある堤元会長も事件の呪縛から逃れられていない。

主力銀行のみずほコーポレート銀行が送り込んだ後藤高志・西武HD社長の苦境も相変わらず。1月19日、西武HDは貨物運送子会社の西武運輸(東京都豊島区)をセイノーホールディングスに売却すると発表した。西武運輸の08年3月期営業損益は2億円の赤字。記者会見で後藤社長は「厳しい状況下で西武運輸が継続・発展するにはセイノー傘下で強みを発揮するのが最善」とコメントしたが、子会社の経営に手を焼いた親会社が放り出した格好だ。また、1月8日には子会社の西武不動産流通(東京都新宿区)を3月下旬に解散し、不動産仲介事業から撤退すると発表。この会社も08年3月期は2億円の営業赤字だった。

ほかにも西武ゴルフ(08年3月期最終赤字2億6千万円)、西武ライオンズ(同12億4千万円)など、傘下には赤字企業がごろごろしている。その最たるものは国内外62カ所のホテルや26カ所のゴルフ場、12カ所のスキー場を経営するプリンスホテル(東京都豊島区)。08年3月期の営業赤字は32億円、最終赤字は156億円に達している。

「鉄道が稼ぐ黒字をグループ会社が食い潰す構図は堤時代と変わらない。鳴り物入りで登場した後藤さんだが、今や誰もがその経営センスに首を傾げている」とグループ関係者は嘆く。なかでも苛立ちを募らせるのが筆頭株主(持ち株比率約32%)の米投資会社サーベラス・キャピタル・マネジメントだ。金融危機の影響で、本国では出資先のクライスラーやゼネラル・モーターズ系の金融会社GMACが深刻な業績不振に陥り、日本でも50%超出資しているあおぞら銀行が09年3月期に2千億円弱の最終赤字を計上する見通し。資金繰りのため「虎の子」の西武HD株の売却を検討している模様だが、堤元会長の実弟である堤猶二・東京テアトル会長らが旧コクド株の所有権確認などを求める複数の訴訟を起こしており、成り行き次第では一連のグループ再編が無効になる可能性もある。「裁判リスクが災いして西武HD株は売るに売れない状況」(金融関係者)という。

昨年末、サーベラスが堤元会長の異母兄である堤清二氏(作家の辻井喬氏)に西武HDの役員就任を打診したという噂が流れた。これは「猶二氏を支援する清二氏に近づき訴訟を取り下げてもらいたいサーベラスの窮余の策」(西武グループOB)と解説する向きもある。猶二、清二両氏は後藤社長を目の敵にしており、もしサーベラスが「後藤更迭」を提示すれば「両氏の強硬姿勢が軟化する可能性もある」(同OB)。

サーベラスも、肝心のホテル事業の業績が一向に改善しないのに、古巣の金融界にいい顔をして借金返済を優先させる後藤社長にウンザリしている様子。「プリンスが09年3月期も赤字ならサーベラスは後藤氏を見限る」との観測が、グループ内でも囁かれている。

猶二氏らが起こした一連の西武関係訴訟の最初の判決が3月30日に予定されており、「骨肉の西武騒動」が再び火を噴きかねない。

   

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