全国に広がる地元農協の「貸し剥がし」批判

2008年8月号 連載 [LOCAL EYE]

  • はてなブックマークに追加

売上高が日本最大の農業協同組合「JA愛知みなみ」(愛知県田原市)で今年4月、満期のJA共済金350万円を着服したと見られる29歳の職員が自殺したことをきっかけに、農家の農協への不満が高まっている。地元紙は報じたが、農協は警察に被害届も出していなかった。

この程度の「事件」なら珍しくないが、農家の怒りが収まらないのは、同農協が債権回収を強化し、貸し剥がしをしているからだ。農業は天候に左右されるなど不安定な要素が多いため、返済も大目に見られることが多かったが、「最近は容赦なく土地を売って金を返せと迫り、今の農協に農業を育てる気などさらさらない」(同農協元幹部)。地元の農家は「協同組合だから皆で助け合う組織なのに、農協は自分さえよければよい保身の組織に堕している。こんな農協ならいらない」と怒る。

温暖な渥美半島に位置する田原市は農業産出額が全国1位。キクやキャベツ、ブロッコリーが全国でトップ。キクは「電照菊」として教科書に紹介されるほど有名。個人経営でも売り上げが1億円を超すところが多く、機械や設備に積極投資しているため、3千万円程度の借入金もザラ。これまでは余裕で返済できていたが、キャベツ相場の長期低迷に加え、温室栽培のキクも暖房用燃料の重油が約3倍となり、しかも肥料の高騰で、生活がやっとの農家も増えた。「棄農」する人も現れており、6月の愛知県議会は農業政策への一般質問が相次ぐ異例の事態に。

いま、農家の農協不信は全国に広がっている。北海道の酪農家は「農協経由で割高の資材を購入することを条件に金を貸し付けるなど、自分たちの利益だけを考えている」と不満を募らせる。公正取引委員会も農協をターゲットにしている。かつて近代経営と称賛され、立花隆氏の『農協』でも紹介された士幌農協(北海道河東郡士幌町)は、公取委から警告を受けた。

農協の上部組織で、商社的機能を持つ「経済連」についても、手数料を取るだけの中抜き組織なら不要との声も。「郵政改革の次は農協解体だ」と息巻く農家も少なくない。

   

  • はてなブックマークに追加