国民新党の有力スポンサーと噂され、脱税容疑で東京地検に告発された怪人物の正体。
2008年7月号 DEEP
東京・九段の靖国神社から徒歩数分の住宅地にリゾートホテルと見まがうような超高級マンションが建っている。上品な色調の高い外壁、エントランス前の人工滝。ホテルのフロントを模した受付にはスーツ姿の若い女性が立ち、他のマンションにはない高級感を漂わせている。
5月21日、新聞・テレビは、この超高級マンションに住む不動産会社社長の番場秀幸氏(59)が東京国税局から所得税法違反容疑で東京地検に告発されていたことを一斉に報じた。番場氏はダイエット食品会社の合併・買収(M&A)で得た所得約9億円を隠し、所得税3億3千万円を脱税したとされる。
東京国税局が番場氏を脱税容疑で調べ始めたのは2年前。故・金丸信自民党元副総裁の脱税事件を摘発した通称「査察の30」と呼ばれる査察班が、この事件を担当したことで「東京国税局の本当の狙いは政界ではないか」との観測が流れている。
一般にはまったく無名だが、永田町筋では、番場氏は与野党の国会議員のタニマチ的存在として以前から知られた存在だという。政界関係者によると、番場氏は与野党の保守系国会議員数人と懇意にしていたようだ。「番場氏自身が周囲に『オレは自民党だけでなく野党にもパイプがある』『オレが金の面倒を見ている国会議員は何人もいる』と豪語していた」(政界関係者)。一方、脱税資金のうち数千万円の使途が不明になっているらしく、「永田町では『脱税資金の一部が政界に流れている疑いがあり、東京地検特捜部が捜査に着手するようだ』といった憶測が絶えない」(同)
東京国税局の告発を受け、東京地検は、夏の検察人事が終わる7月にも捜査を本格化させる見込み。脱税金額が3億円と大きい上、番場氏が脱税を否認していることから逮捕される可能性もある。容疑の対象となったのは04年のM&Aで得た仲介手数料。番場氏は、人気ダイエット食品「ボウズ」を販売していた健康食品販売会社「バリアスラボラトリーズ」など2社を「三泰」と「ツーザトップ」に売却する仲介交渉をした。
三泰とツーザトップを経営するW氏は米国系企業の子会社社長を名乗る金融ブローカー。番場氏の知人の女性が経営し、番場氏が実質的に支配する「インフォート」がバリアス社とM&A契約を結んでいたため、W氏はインフォートからM&A契約を譲り受けた後、当時のバリアス社の社長から同社など2社の株式を40億9500万円で買い取った。W氏はM&A契約譲渡に基づき三泰からインフォートの口座に手数料として9億500万円を支払っている。
これについて東京国税局は、インフォートは番場氏のダミー会社で同社には仲介の実態がないとし、三泰から振り込まれた資金は番場氏個人の事業所得と認定。番場氏がこの所得を申告していないことから、赤字のインフォートを利用して個人所得を隠したとして脱税容疑で告発した。関係者が言う。
「確かにインフォートは番場氏のダミー会社だった。番場氏は不動産会社などいくつもの会社のオーナーだが表舞台に出ることを極端に嫌がる人物で、一部の社を除き役員に入っていない。番場氏とW氏は以前から懇意な間柄。W氏は日米の大手証券会社出身と自称していたが経歴不詳の人物だった」
W氏はバリアス社の将来性などを担保にLBO(レバレッジド・バイアウト)で購入資金を調達しようとしたが、いくつかの銀行に断られた末に、新生銀行から融資を受けることに成功、バリアス社を買収し、番場氏に報酬を払ったという。
その後、06年4月にW氏は埼玉県に本社のあるコンピューター関連会社にバリアス社の営業権を売却。現在のバリアス社は番場氏やW氏と何の関係もない別の会社だ。
番場氏は問題の所得について「インフォートの所得である」と主張し、容疑を否認しているというが、東京国税局関係者はこう話す。
「関係者から証拠類を提出してもらっており、カネの流れはつかんでいる。番場氏は受け取った報酬を預金したり、生命保険などを購入していた。ただ、報酬の一部、数千万円分の使途がよく分かっていない……」
番場氏とはいかなる人物か。
不動産関係者はこう話す。
「本人は『昔、右翼の大物の児玉誉士夫のボディーガードをしていた』と話していた。記憶力は抜群。馬車馬のように働くやり手だが、総会屋や暴力団との関係も取り沙汰される、いわゆる“スジ悪”の人物で、主に地上げやM&Aで財を成した。三番町以外にもいくつかマンションを持っている。美人のロシア人女性と再婚したのも彼の自慢の一つだ」
別の不動産関係者もこう語る。
「彼の本業は地上げだよ。主に東京など大都市圏の商業ビルを地上げし、外資系投資ファンドや同和関係の投資家などに売って大儲けしてきた外資の先兵だ。右翼や総会屋、暴力団関係などを含む人脈が地上げに役立ったということだろうが、その半面、彼は地上げがらみでトラブルを起こして一時、姿を隠していたこともあったようだ」
こんなスジ悪の人物が、なぜ政界のタニマチと呼ばれるようになったのか。番場氏と面識のある政界関係者は、次のように証言する。
「番場氏が周りに話していたところによると、野党の中では郵政選挙で自民党を離党した国民新党代表の綿貫民輔元衆院議長と親しいそうだ。同党の亀井静香代表代行とも近いような口ぶりだったというし、通産官僚出身の自民党代議士、佐藤剛男氏とも親しかったようだ。国民新党の結党資金の一部を出した有力スポンサーだという噂も流れているよ」
この政界関係者によると、番場氏は政界の人脈を駆使して複数の大手ゼネコンなどに情報網を広げ、地上げやM&Aがらみの情報を吸い上げてはビジネスに活用していたという。
最初の不動産関係者もこう話す。
「番場氏は綿貫氏を尊敬していて、国民新党に期待していたようだ。番場氏と話すと、よく綿貫氏の話題が出るからね。国民新党の亀井氏の名前が出るのは綿貫氏との関係からでしょう。番場氏は警察庁出身の亀井氏と懇意になれば危ない筋と揉めたとき助けてもらえると期待していたようだが、本人が言うほど親しくなかったのではないか。自民党の佐藤代議士とは近かったはずだ」
本誌は番場氏に脱税容疑の事実関係や政界との関係などについて、同氏がオーナーの不動産会社に電話で取材を申し込んだが、社員は「番場はこちらには出社していないので取材を申し込まれても対応できない」と話した。番場氏のマンションを訪ね手紙も投函したが、締切日までに連絡はなかった。
一方、亀井氏の事務所は「亀井本人も秘書も番場氏と面識がない」、佐藤代議士の事務所は「わからない」と回答。綿貫事務所は「昨年もパーティーでお会いした。古くからお付き合いのある不動産会社の社長さん」と答えてきた。
番場氏から政界に金は流れていないのか。東京地検の捜査の行方が注目される。