井上陽水の不思議
2007年7月号
[硯の海 当世「言の葉」考 第15回]
by 田勢康弘(政治コラムニスト)
井上陽水は不思議な字を書く。字にはその人の人柄が出るというが、陽水の字はいかにも陽水でなければ書けないような字である。手元にある陽水の字は、作家、海老沢泰久が書いた『満月 空に満月』(文藝春秋)の裏表紙に記した自署である。食事をした席で私が持っていた本に陽水が署名してくれた10年前のものだ。彼が書いた「田勢様」という字は、字そのものが陽水の不思議さを表している。
不思議なのは字ばかりではなく、彼の書く詩も、そして彼自身も実に不思議なのである。テレビのCMで昔、「お元気ですか」と陽水が車の窓から声をかける場面があったが、あれと同じように心地よく響く高い調子の声で、「どうも」といって照れる。なにしろいつも照れている人なのだ。いつだったか、成り行きでカラオケをすることになり、一緒にいた小室等は石原裕次郎の『錆びたナイフ』を歌ったが、陽水はなんと自 ………
