公正取引委員会委員長 竹島一彦氏

公取はまだ強くない新聞は「言行不一致」

2006年7月号 BUSINESS [インタビュー]
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 ──独禁法改正でパワーアップした公正取引委員会が談合を摘発していますが、産業界から「強すぎる」と批判されています。

 竹島 その答えは、日本の公取はまだ十分に強くないということだと思うんです。ある程度近づいたとはいえ、アメリカやEU(欧州連合)の競争当局と比べると、まだまだパワーも制度も同等とは言い切れない。

 大事なのは競争法に対する経済界の認識ですよ。今の公取が「やりすぎだ」と言われるのは、残念ながら競争ルールに対する経済界の認識がその程度でしかないということ。まともな競争こそ結局は、業界のためにも企業のためにもなるのですから。

 ──米欧当局に比べて何が足りない?

 竹島 日本は課徴金減免(リニエンシー)制度が入ったばかりです。反則調査(強制調査)権限も行使できるようになって、一応の道具立てはそろった。あとは国際カルテルのような大型事案を扱えるか、そして違反企業へのペナルティが十分か、ですね。米国では違反企業の役員が実刑をくらう。日本では一応、刑事罰はあっても、従来すべて執行猶予が付いてきました。罰金も海外では500億円を超える例もあるのに、日本では平均数千万円。絶対値にこだわるわけではないが、抑止力の働く水準は必要だと思います。

鉄鋼はケースバイケース

 ──課徴金減免は事実上の密告奨励で、アンフェアという反感があるのでは?

 竹島 容疑者本人が容疑を認める代わりに罰を軽くしてもらうアメリカの司法取引とは違うんです。容疑者が誰かわからないときに最初に情報をもたらした人から順に課徴金を減免していくので、適正手続き上も何ら問題はない。世間の反感がそう強いとは思っていません。言葉は悪いけれども「タレコミ」を使うんだが、正確な情報を得るのが目的なんであって、そのまま右から左に証拠として使うわけじゃない。国際カルテルなんて、減免で端緒をつかむケースが圧倒的に多いが、きっかけでしかないということです。

  ──それにしても「談合は必要悪」という考えは日本の経済社会では抜き難い。

 竹島 精神的、文化的なムラ社会意識は悪いことじゃないが、経済取引の馴れ合いは百害あって一利なし。弱肉強食の世の中を目標にしているわけじゃない。最適な資源配分とか生産性を向上させるには公正な競争が必要で、そのよさを日本も享受しなければ。

 ──鉄鋼生産世界一のミタルが2位のアルセロールに買収を仕掛ける時代です。海外勢の脅威の前で競争至上論は影が薄れ、むしろ新日鉄、住金、神戸鋼のような「持ち合い」復活の兆しがありますが、調べますか。

 竹島 鉄鋼はもう国際競争場裏から抜けられない産業ですよ。日本と欧米の鉄鋼業がまるで違う環境のもとにあるとは思えない。いろいろな製品をつくっているわけだから、それぞれにケースバイケースで判断し、寡占が生じるなら、分割なり何なり問題解決の措置を命じればいいと思うんです。

 ──不服審判の制度も手直ししましたが、公取が検事と判事との両方を兼ねていることに無理があるという指摘があります。

 竹島 理念としては分かります。しかし、透明性や公平性、効率性や迅速性などを総合的に考えた場合、審判を公取から分離独立させて現実にうまくいきますか。日本の弁護士はいくら増やしたって2万数千人、そのなかで独禁法の訴訟ができる人はそういない。裁判官もそう。そのための人間を養成すると言ったって時間がかかるわけで、日本の司法のインフラが十分でない現実問題がある。

 それに審判が最終じゃない。不服があれば高裁、最後は最高裁までいって司法の判断を仰ぐことになっていますから、裁かれる権利が侵害されているわけではありません。むしろ独禁案件をいろいろ知っている公取だからこそ丁寧な審判が可能になり、効率的だと私は考えています。運用次第で検事と判事を兼ねる“実害”は相当程度回避できるんです。

 ──公務員5%削減が叫ばれているなかで、公取などは例外的に純増ですね。

 竹島 近年は毎年30人程度純増が認められていて、現在は737人。これからますます定員事情は厳しくなるが、ちゃんと説明して必要な定員をつけてもらう努力はしていかなければなりません。

 ──委員長はメディアの寡占問題と孤軍奮闘してきました。問題は新聞とテレビが系列化し、大手広告会社も癒着して批判を許さない“カルテル”を形成していることです。弊誌も電通の調査報道を始めたのですが。

 竹島 電通というのは、ある意味ではすごいビジネスモデルを構築したと思うけれども、それに関わる広告主と広告会社と媒体の3者が緊張関係にあるのが望ましいのに、そうじゃない。

 公取の調査では、テレビ局が払うコミッションは広告会社によって5~20%と15%も差がある。当然、広告会社間の競争力は段違い。それを解決するのは広告主だと思うが、これが「モノ言わぬ広告主」で、私は不満なんです。欧米ではコストパフォーマンスにシビアで、丸投げ的なことはしていない。彼らはフィー(手数料)形式だが、日本は大手広告会社と媒体が持ちつ持たれつの関係で、コミッションの中身も不透明です。広告主はあまりにもお任せじゃないですか。

 ──その超過利潤にどの新聞・テレビ局もあぐらをかいている。

 竹島 メディアは国民の「知る権利」にかかわる大事な仕事をしている分野なので、いろいろな特典、例外的な扱いもあり得ると思うが、メディア間の競争もあるし、あるべきでしょう。いくらメディアでも、競争をしないとか、既存の各社がみな存在価値があるんだという考え方は間違っています。

「特殊指定」は問題提起

 ──「新聞の値引きは独禁法違反」という特殊指定を守ろうと、新聞業界は政界を巻き込んで反竹島包囲網を敷きました。結局、公取は見直しを断念しましたが。

 竹島 残念ですね。新聞が特殊指定維持のキャンペーンを張ったのは、言葉はきついけれど非常に醜いことだと思います。社会の公器なら原理原則をわきまえてものを言い、やってもらわなきゃ困る。無代紙が横行して特殊指定が守られていないことくらい、知る人は知っています。同一紙同一価格を唱えるのは自由だが、現実には言っていることとやっていることが違う。特殊指定がなくなったら宅配制度がつぶれるなんて、論理的因果関係がない。独禁法がない戦前から宅配はあったので、どう考えても理屈に合いません。

 少なくとも問題提起はきちっとしたつもりだし、この話が消えてなくなることはもうないですよ。

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