ENEOSは事務系見送り。新潮流。「新卒いらない」。知らぬは当の新卒ばかりなり。
2026年4月号 LIFE

合同会社説明会がリクルートスーツの学生で溢れたのは昔の話だ
Photo:Jiji
かつては学生が就職する第一歩だった合同会社説明会に足を運んでみた。友達と一緒に会場へやって来てワイワイおしゃべりしている集団もいれば、2人で来場し、企業ブースを見回るだけのカップルもいた。こう言ってはなんだが“意識低い系”の学生が目立つ。
10年ほど前の合同説明会は違った。真新しいリクルートスーツに身を包み、緊張した面持ちの学生が集まっていたが、その雰囲気は一変している。
最近の就活生の様子を就職支援会社幹部に尋ねてみると、「両極化が顕著になっている」という答えが返ってきた。熱心な学生は大学に入った時点から企業とのコンタクトを取り始め、4年生になる年の3月時点ではすでにインターン先などから内定をもらっている。
この種の学生は合同会社説明会に足を運ぶ必要がない。今回見かけた「おしゃべり集団」や「冷やかしカップル」は出遅れ組なのだろう。
もっともここ数年の就活事情は、「おしゃべり集団」や「冷やかしカップル」を許した。就活戦線は「超」が付くほどの売り手市場だからだ。
「就職活動が楽になりすぎている。売り手市場が長く続き、学生側はたいした努力をしなくても、それなりの成果を得られると知ってしまった」と就活情報誌を手掛ける会社の幹部は嘆く。確かに昨年の説明会会場では、その場でエントリーした学生にクオカードを配ったり、即席の「ガチャ」が引けたりなど、ニンジンをぶら下げることで、母集団に加わる学生をあの手この手で増やそうとする企業まで登場していた。
しかし――。
採用戦線に異変が起きている。特に衝撃が大きかったのはクボタが3月に発表した2027年卒の新卒採用計画だ。大卒・大学院卒の採用予定者数を今年4月の入社予定者数より75%少ない60人にとどめる。一方、中途採用を拡大。26年の採用予定者数は280人で、新卒からの切り替えが鮮明だ。
ENEOSホールディングスの主要子会社も事務系などの職種で27年卒学生の採用を見合わせる。両社とも現場職が多い高卒や高専卒の採用を維持しながら、大卒・大学院卒の「ホワイトカラー」を削減する方針だ。
昨年は大和ハウス工業やTOPPANグループなどの採用者数減が話題になったが、今年も次々と新卒採用の縮小を宣言する企業が出てきたことで、長く続いた売り手市場の変容が明確になってきた。
先の就職情報誌を手掛ける会社の幹部は「就職活動のあり方が本質的に変わり始めている。クボタやENEOSのような会社がどんどん増えるだろう」と指摘する。原因の一つはビジネスのスピードが速くなっており、企業には新卒の学生を大量に受け入れ、一から教育する時間が無くなっているからだ。
こうした採用計画は業界の有力企業だけに見られるものではない。地方の中堅レベルの企業にもその流れが広がり始めているようだ。
ある地方の従業員100人程度の中堅広告会社は来年度入社から新卒採用をしないことを決めた。代表を務める人物はこう語る。
「うちぐらいの規模で新卒採用をしても満足な質の学生が入ってこなくなってしまった。しばらく人数あわせで採用してきたが、入ってもすぐに辞めてしまう。幸い人材の流動性が高まっている。他社で経験を積んだ人材を中途で採った方が即戦力を採れるし、リスクが少ない」
クボタやENEOSなどの大手が新卒よりも中途の採用を重視するようになったのは転職市場が充実してきたからでもある。一人前になるかどうか判然としない新卒者を無理して採用するより、入社時点で「計算ができる」人材を積極的に採用しようという動きは中堅企業にも広がっているのだ。
新卒採用が絞られ始めている原因は、ビジネスのスピードが速まっているという企業側の事情ばかりではなく、そもそも学生のレベル低下もある。あるマスコミ関連企業の採用担当者はこう語る。「毎年20人ほどの新卒を採用してきたが、目的意識が薄く、長続きせず退職するケースが目立つ」。この会社は現在進めている活動で採用する人員を減らし、代わりに経験者採用を重視するという。
企業の相次ぐ新卒離れの動きについて、首都圏の複数の大学で講座を持っている講師はこう指摘する。
「『日東駒専』なんて言われた時期があったじゃないですか。昔はあのレベルの学生でも教えがいがありましたが、今は期待できませんね。少子化で入試が楽になっているからです。最近は日東駒専よりも偏差値が高いとされる、いわゆるMARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)の学生も心もとない。基礎学力がないんです」
こうした傾向に拍車をかけているのがAIとDXだ。オフィスで必要とされる人材は大きく変わり、専門知識や高度なノウハウを持つ人だけが必要とされる時代は遠からずやってくる。デジタル技術による仕事の置き換えの最前線にいる富士通が従来型の新卒一括採用を廃止し、労働市場から即戦力人材を選ぶ方向に大きく方針を転換したのはその典型だろう。
北日本のある電子部品会社の人事担当幹部はこう語る。「事務作業でDXが進展し、さらにAIを積極的に取り入れたことでホワイトカラーの必要数は極端に減った。でもクビにはできないから新卒採用を止めることで帳尻を合わせようとしている」
一方で介護や福祉、建設業などは慢性的な人手不足に頭を抱えている。ある社会福祉法人は
2月に開いた企業説明会で今年4月入社の学生を募集していた。
大手デベロッパーの幹部はこうぼやく。「大手ゼネコンにデータセンターの建設を持ち掛けたら『着工は早くて4年先になりますよ』と言われた。ゼネコン自身はどうにかやりくりが付けられるが、専門性を持つサブコンが手配できないらしい。我々も頭を抱えているが、ゼネコンも頭を抱えている」
冒頭の就職支援会社幹部はこう語る。「DXが浸透し、オフィスでパソコンに向かってする仕事は減り始めている。希望していようといまいと、新卒の就職先が現場職に限られる時代が来るのではないか」。クボタやENEOSなどの方針は採用活動を巡る潮目の変化を象徴する話なのかもしれない。