号外速報(12月5日 19:15)
2025年12月号 BUSINESS

「Yamauchi-No.10 Family Office」(ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス)のHPより
11月18日、電池メーカーとして知られる東証プライム上場のマクセル(本社・東京都港区)が、発行済み株式15.9%の自社株買いを発表した。
東京証券取引所のTOSTNET―3(自己株式立会外買付取引)を使って買い取った。市場関係者は「マクセルはどうしたのか?」と訝しがったが、理由はほどなくして判明した。
翌19日、マクセルの大株主である米タイヨウ・パシフィック・パートナーズが大量保有報告を提出。保有していたマクセル株13.11%分を全て売却したことを明らかにした。
「要はタイヨウの出口をマクセルが用意したのだ」(前出関係者)
今年に入ってタイヨウの保有株売却が続いている。マクセル以外にもラクーンホールディングス(HD)、アルバック、ネクセラファーマ、NISSHA、ペプチドリームなどの株式が売られた。なぜか? 事実上、解散したからだ。
すでにリミテッド・パートナー(LP)と呼ばれるファンドの投資家に対して「手じまい」が周知され、40人超いた社員の大半がリストラされた。ピーク時に4500億円の資産を運用していた名門ファンドが消えたことで金融界に衝撃が走っている。
米国西海岸ワシントン州に本拠地をおくタイヨウは「対話型ファンド」として知られた。村上ファンドのように「自社株買い」といった要求を突きつけるのではなく、経営者に寄り添う運用会社として、設立当時は「資本コスト経営」といった新しい企業財務のコンセプトを指南する手法に特徴があった。
「投資家からの資金調達のマーケティングや投資先企業とのリレーションシップ・マネジメントに優れていた。経営者に痛いことを言わないから日本企業の受けがよく、日本の年金基金からも投資を募ることができた」(国内証券大手幹部)
2003年設立のタイヨウは、13年に始まったアベノミクスの波に乗った「運の良いファンド」(米投資銀行幹部)でもあった。

「大洋」の看板を掲げているが、実態はYFO(タイヨウ・パシフィック・パートナーズのHPより)
転機となったのは2021年ごろ。米西海岸では珍しい共和党員で、タイヨウの創業者であるブライアン・ヘイウッド氏が米議会選挙への出馬を検討し、タイヨウの身売りを模索した。
旧日本興業銀行(現みずほ銀行)出身でタイヨウの日本人パートナーであった伊藤寛氏の仲介で、ヘイウッド氏はヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)の代表・山内万丈氏を紹介される。任天堂の中興の祖・山内溥氏の孫として生まれた万丈氏は、スタートアップへの投資などを手掛けるYFOを2020年に設立。タイヨウの身売り交渉はとんとん拍子で進み、翌22年2月に決まった。
その後、タイヨウに苦難が襲い掛かった。不幸だったのはタイヨウのLPとその社員。YFOは日本株の運用ノウハウがなかったため、ファンドの運用利回りが日経平均株価などのインデックスを大幅に下回った。
「運用成績の悪化に不満を持ったアブダビ投資庁(ADIA)といった大口のソブリンウエルス・ファンド(政府系ファンド)が投資を解約すると、櫛の歯が抜けるように続々とLPが離脱した」(米証券会社幹部)。
栄枯必衰の金融界だが、大型ファンドの解散は珍しい。
今後もYFOは、議員への転身を諦めたヘイウッド氏と共同で日本企業の買収を続ける方針。11月には旋盤メーカーであるスター精密の買収を決めたが、株式取得資金の出し手はYFOとヘイウッド氏自身が大半。「タイヨウ」の看板を掲げているが、実態はYFOである。