「脱炭素」を掲げつつ、実態は補助金を奪い取り、地域の利益を吸い上げる強欲ビジネス。
2025年12月号 DEEP

何の冗談? 山崎氏が栄えある受賞
前号で報じた山陰合同銀行グループの再エネ事業。その実態は、地方銀行が脱炭素政策の制度の盲点を突き、公的補助金と公共インフラを囲い込む構造だった。地域金融を標榜しながら、地域経済の循環と安全を損なう――。その象徴が同行100%子会社「ごうぎんエナジー」である。
環境省の「脱炭素先行地域」制度は、自治体と地元企業が協働し、再エネ導入を通じて地域内で資金を回す仕組みとして設計された。だが、米子市・境港市の申請書には「ローカルエナジー(本社・米子市)および山陰合同銀行で新会社を設立予定」とあるだけで、FS(事業化検討)や系統連携に知見を持つ企業の記載はない。地元企業を外し、銀行自身が制度の中核に入り込む――これは「制度設計の意図的改変」に等しい。

看板には事業者、ごうぎんエナジー(松江市)と広島市の企業名が記載され、地元の企業名はない。
両市が先行地域に採択されたのは2022年4月。ごうぎんエナジーが設立されたのはその3カ月後だ。つまり、脱炭素事業の受け皿を自ら設立した格好である。中立的金融支援者という本来の立場を逸脱し、制度を自社利益に結びつけた「構造的利益相反」と言わざるを得ない。
この戦略を主導したのは、当時山陰合同銀行頭取で、現在は会長を務める山崎徹氏である。山崎氏は2023年、「ベストバンカー賞」(金融ジャーナル社)を受賞した。表彰理由には、経営の健全性や収益性の確保に加え、脱炭素社会への貢献、地域企業のカーボンニュートラル支援、そして再エネ事業への参画が挙げられている。実際にその象徴として、ごうぎんエナジーの設立と事業展開が高く評価された。だが実際は、制度の隙間を突いて補助金を銀行グループ内に取り込む構造であった。
この仕組みは、金融庁と環境省の制度の狭間を突いた「二省庁跨ぎスキーム」である。銀行法改正で認められた「他業銀行業高度化等会社」は地域支援を目的とするが、補助金事業を想定していない。一方、環境省の「脱炭素先行地域」は自治体と地元企業を対象とし、銀行子会社を補助対象としていない。ごうぎんはその空白に滑り込み、銀行子会社が補助金を直接受け取る「制度ハック」を成立させた。
結果として、地域からは経済的果実が失われた。米子・境港両市の主要PPA事業の総事業費は52億円。そのうち国の補助金は約35億円だが、約33億円が松江市に所在するごうぎんエナジーに吸収され、地域への還流はわずか2億円にとどまる(蓄電所の新設補助金8億円も同社が取得すると推定)。
公開資料では、同社が設備を所有し、O&M(運用管理)を広島市の企業に委託している様子が写真に写り込んでいる。地産地消の電力だが、資金は地域外に流出。米子市民と境港市民への補助金の殆どが松江市の企業に吸収された。それでもごうぎんエナジーは地産地消と謳って地域や環境省を誤魔化している。
当初提案書における「地域還流」は、米子市・境港市に拠点を持つ企業による再エネ供給を指していた。しかし中間報告では、ごうぎんエナジーが設置した蓄電池・太陽光設備を地域内施設と見なし、その売上を地域内資金循環に含めている。
環境省は「脱炭素先行地域として選定されたエリアを拡張する、又は取組を新たに加える場合には、先行地域に係る計画の変更を申請することができる。」としている。
これは、地域循環をさらに強化するために、合理的な範囲でエリアや参加者を広げられるようにするためという前向きな制度設計のはずだ。これもごうぎんは悪用した。松江市の子会社を地域内資金循環に含めたのだ。
それだけでなく、ごうぎんと共同提案者のローカルエナジーが専門事業者を排除した結果、市民の命を危険に晒す事業を行ってしまった。
米子市上下水道局敷地で実施された太陽光併設蓄電池事業は、一級河川・日野川沿いの家屋倒壊等氾濫想定区域に立地し、最大浸水深5メートルが想定されるにもかかわらず、嵩上げはわずか1~1.5メートル。防災計画や住民説明は一切されていない。
設置されたのはHuawei社製コンテナ型リチウムイオン蓄電池で、防水等級はIP54。冠水すれば電解液が流出して短絡・火災・爆発を引き起こす。電解液は水と反応して少量でも致死的な毒性を持つ。救助隊には防護服が必要になり防護服無しで触れると死亡する可能性がある。地域住民の生命、地域のインフラ(水道)、および広域な環境に対して致死的な連鎖被害が発生する事が予想される。Huaweiの技術資料にも「浸水区域での設置禁止」と明記されている。しかし脱炭素先行地域計画提案書には「水道施設は市民生活に不可欠なライフラインであるため、地震や水害などで商用電力が停止した場合でも、太陽光発電と蓄電池の電力で施設の機能を維持し、断水を防ぐことを目指しています。」と記載されている。ごうぎんとローカルエナジーは冗談でも言っているのだろうか?
この計画の事業費は18億円で、補助金は12億円、調査にも1300万円の補助金が出ている。計画と事業の囲い込みを行ったごうぎんとローカルエナジーの罪は重い。2社には公共性のある事業を行う資格がない。
またこの事業の協議会には鳥取県、米子市、境港市が入っている。それにも関わらず、地域からの資金流出になんの指摘もしていない。何の疑問も持たずに事態を見過ごしているのはどういう事なのか――。資金流出と問題を放置した自治体にも市民への説明責任がある。
本誌が倉吉市の危険立地を指摘した際も、ごうぎんエナジーは回答を拒否し、隠蔽に走っている。本誌の取材を受け、同社は同じ蓄電池を使う別の施設、米子市水道局の蓄電池についても地域を壊滅させるリスクがあることを把握したはずだが、何の発表もしていない。補助金を奪い取りながら市民を死の危険にさらしている。ごうぎんのバリューの1番が「誠実」だそうだが、これも冗談なのだろう。
「脱炭素」を掲げつつ、実態は補助金を簒奪し、地域の利益を吸い上げる銀行ビジネス。制度を改変し、参加資格のない子会社をねじ込み、危険区域に蓄電池施設を建て数々の隠蔽を行い、市民の命と環境を破壊する。ベストバンカーが率いたこの事業は「地域金融の成功例」ではない。地域を疲弊させる「信頼の犯罪例」である。
ごうぎんの判断基準は違法かどうかであり、コンプライアンスという概念を理解できていない。ただのブローカー思考でありこの企業が金融という地域で最も重要な役割を担う事が地域の衰退に繋がっている。
金融庁は、このような構造や利益相反を監視する前提で、銀行業高度化等会社を許可したはずだが、3年間何も把握せず、放置している。
いま議論されている「地域金融力の強化」は、政策の前提そのものから見直すべきだ。
そもそも誠実さがあれば、この構造は生まれなかった。専門FS企業を紹介し、融資と支援に徹していれば、補助金は地元に還流したはずだ。35億円の補助金が見えた瞬間、銀行グループの倫理は消え、制度は「銀行のビジネスモデル」に書き換えられた。これは脱炭素でも地域貢献でもない。制度の隙間を突いた、金融機関による「自己利益設計」に他ならない。
※ごうぎんエナジーへの補助金は「脱炭素先行地域計画提案書」p29に記載の非FIT太陽光発電PPA事業、米子市水道局施設用地、荒廃した農地、再エネ需給調整蓄電池事業の合計金額より試算(蓄電池事業以外はすべてごうぎんエナジーが受注)。 非FIT太陽光発電PPA事業、公共及び民間施設事業については除外して試算した(本誌特別取材班)