2025年11月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
米国のボーイスカウトアメリカ連盟(BSA)は今年2月8日、設立115周年を迎えたのを機に名称を「スカウティング・アメリカ」に変更した。女子隊員の増加とジェンダーフリーに対応するため、名前から「ボーイ」を外した。1910年発足のBSAは2013年に同性愛の少年、17年にはトランスジェンダーの若者を受け入れた。18年に11~17歳の隊員が属する隊の名前を「ボーイ」抜きの「スカウツBSA」に改め、女子の受け入れを段階的に始めた(日本のボーイスカウトは1995年から女子も受け入れ済み)。現在は会員約100万人のうち約18万人を女子が占める。
ボーイスカウトは1907年に英国人のロバート・ベーデン=パウエル(B・P)が、野外活動を通じて少年たちの健全な成長を促そうと考えて創始、これが世界に広まった。1909年に少女たちがB・Pのもとを訪れ「私たちもスカウト活動がしたい」と訴え、ガールスカウトが組織された。116年間、両団体は併存してきたが、実は軋轢も生じている。BSAが男子と女子を対象に勧誘を始めると、米国のガールスカウトアメリカ連盟(GSUSA)は女子隊員を奪われるとの危機感を抱き、「スカウツ」の名称はBSAの専有ではない、と2018年に商標権侵害でマンハッタン連邦裁判所に提訴し、歯止めを図ったことだってある。
性差別に起因する裁判は枚挙にいとまがないが、ジェンダーフリーに対応しようとしても裁判を起こされる時代。さらに極端な状況も出現している。「欧米のある海軍で研修を受けたら艦艇のトイレに男・女・ジェンダーフリーの区分けがなく1種類に統一されていた」と海上自衛隊幹部は明かす。
今でもガールスカウトは女子と女性だけで活動するのが決まりだ。YWCA(キリスト教女子青年会)だと男性は会員になれず、会員集会での議決権がない会友になる。性差の壁が一律に消えた訳ではない。まだ過渡期なのだろうか。LGBTQ+(性的少数者)問題の着地点はいずこ。
(松果堂)