2025年10月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
しばらく会ってなかった独り暮らしの母親と連絡が取れなかったため、様子を見に行った。最初は「物忘れがひどくなったな」と感じる程度だったが、何度も同じ質問をしてくる。病院で検査をしてもらったところ、案の定、認知症と診断された。
本を何冊か読み、区の認知症サポーター養成講座を受講してわかったのは、だれでもなり得るとても身近な病気だということだ。軽度認知障害を含めると65歳以上の高齢者の4人に1人、約1千万人が発症している。90歳以上だと認知症の有病率が64%に達するという研究報告もある。
そして発症すると、治ることはまずない。レカネバブなど新しい薬が開発され治療現場は進歩しているが、進行を遅らせるのが主眼で薬には副作用もある。国は以前、運動や食生活の改善など「予防」に力点を置いていた。それが24年に施行された認知症基本法で「共生社会の実現を推進する」に変わった。認知症になったら終わりなのではなく、尊厳を保持しつつ希望をもって暮らせることを目指す。
行政のサポートも手厚くなっている。母の場合も、市町村が設置している地域包括支援センターの職員が最初に異変に気付いて訪問してくれた。病院での検査と同時に介護保険の申請を手配。利用できる施設(小規模多機能型居宅介護事業所)を紹介してくれ、安否確認と本人の気分転換につながっている。
ただ、1分前のことを忘れてしまい外出するにも時間がかかる。こちらはついいらいらして声を荒げたくなるのだが、それがいけない。「驚かせない」「急かさない」「自尊心を傷つけない」が重要だという。
「わがこととして考えよう」と刷り込まれたためか先日、今年が西暦何年かわからなくなる夢を見た。長生きすれば、いずれ自分も認知症になるのだろう。9月21日は「認知症の日」。
(ガルテナー)