2025年10月号 BUSINESS [リーダーに聞く!]
1962年生まれ。神戸大経営学部卒。伊藤忠商事入社。岡藤正広氏(現会長)が率いる繊維部門でキャリアを積み、薫陶を受ける。執行役員第8カンパニープレジデントを経て、2021年より現職。
――前期は日販、加盟店利益とも過去最高を記録しました。8月まで既存店日商も48カ月連続で前年超えですから、上げ潮ですね。
細見 店頭で大谷選手の「おむすび二刀流」が大当たり。「大谷選手のポスターが貼ってある店内清掃は楽しい」というスタッフさんも。「シャワー効果」は計りしれません。衣料品販売の常識を破るコンビニエンスウェアもインバウンド需要等でブレーク中です。前期の売り上げ130億円超が、今期は200億円を超えそうです。
――全国10500店舗に設置したデジタルサイネージでも「風穴」を開けました。
細見 21年に実験的に開始したレジ上のサイネージは2年目から黒字。「リテールメディア」の利益目標は26年度50億円、28年度100億円です。地元企業のリクルーティングに加え、地元予備校・学習塾の広告が増えた。びっくりしたのはコンビニでクルマが売れたこと。ファミマ店舗の駐車場でヒョンデさんの新型スモールEVの試乗会をコラボ開催し、新型車の広告を店内サイネージと店内放送で流したら、予想以上に売れました。リアルの店舗とサイネージとアプリ(ダウンロードが2600万を突破したファミペイ)を組み合わせたプラットフォームで顧客接点を拡大、先行優位です。
――「そろそろ、No1を入れ替えよう」。社長に就任した年(2021年の創立40周年)に出した広告スローガンは挑戦的でした。
細見 スポーツや勝負事にはモメンタムがある。負けに入っていたから流れを変えたかった。セブンイレブンさんが創業50周年を迎えた23年に「コンビニの神様」鈴木敏文さんに「50」を象ったバラの花を差し上げ、教えを請いました。「変わり続けたら飽和など絶対にしない」という神様の言葉は、今の私の道標です。その背中は遥かに遠い。いきなり全体の一番を目指すのではなく、小さな勝ち癖を身につけて、着実に一番になれる分野を増やしていきます。
――社長就任5年目ですね。
細見 トライ&エラーを重ねながら、今が極めて重要なターニングポイントだという確信を得ました。従来のコンビニ経営は、ひたすら「日販」に支配されてきたが、ウソではないかと――。3年ほど前、いくら売っても利益が出ない半期を経験し、これは変だと思うようになった。本来、コンビニビジネスの根幹は、加盟店が儲かる収益モデルを構築することに尽きます。とりわけ人手不足の昨今、日販にこだわると勝負に負ける。「日販」競争は、必ずしも加盟店利益の最大化に直結しないのです。繊維ビジネスの細かさが習い性の私は1%に満たない二桁の数字が気になる。部下から「細かすぎます」とよく叱られます。そんな私が「日販」から「加盟店利益」向上に舵を切ったのは2年半前です。
――御社独自の取り組みは?
細見 消費期限の迫ったおむすびやお弁当の「ファミマエコ割」を、全国9割以上に広げました。直近ではおむすびやお弁当など全品の消費期限を2時間延長し、廃棄ロス削減を徹底させた。23年度より全社横断で「省人化・デジタル化」を推進し、AIを活用した発注システムの導入を約500店で開始。全社員のAI活用(Gemini)による作業効率化を促しています。こうしたムダを省く業務改善効果を加盟店に振り向け、今では加盟店利益がセブンさんに肉薄するレベルにきました。
――岡藤会長から御下問は?
細見 ビジネスの流れがいい時にこそ、モメンタムを切らさぬように大胆な手を打って、もっと走らんかいと、誰よりも数字に細かくハッパをかけられています。
(聞き手/本誌編集長 宮嶋巌)