2025年7月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
大阪・関西万博で複数の国・地域が共同利用する寄り合い所帯方式のパビリオン「コモンズ」はA~Fの6館あり、94カ国・地域が出展する。開幕前、万博に否定的なテレビのワイドショーは「安っぽい」「没個性」とコモンズ館を酷評した。万博を壮大な無駄遣いと非難しておきながら、低コストのコモンズ館をも否定する自己矛盾に、ワイドショーは気付いていない。
あやふやなネット情報を丸呑みして万博を攻撃し続けるワイドショーはコモンズC館のウクライナパビリオンで学ぶべきだ。店舗に見立てたブースはウクライナ国旗と同じ青と黄色で統一。「NOT FOR SALE(非売品)」の看板を掲げ、「ウクライナの民主主義には売り買いできない価値がある」と訴える。メガホンや文具など18種類の青いオブジェには値段抜きの値札が付いている。専用端末をあてると、ロシアの空襲を避け地下鉄のシェルターで授業を受ける子どもたちが画面に現れる。ロシアは48万点以上、26億ドル相当の芸術作品を奪ったと明かす。人間の自由と尊厳を脅かすロシアの蛮行を、端末が次々と明らかにしていく。
2022年、ロシアに破壊された世界最大の航空機「An-225ムリーヤ」を製造したアントノフ社はウクライナの企業だ。米オーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」の2023年大会では、ウクライナの若者によるダンスユニット「ライト・バランス・キッズ」が戦火をくぐり出場した。LED付きスーツで鮮やかな残像を描きながら踊ると会場はスタンディングオベーション。ウクライナは知る人ぞ知るハイテク国家である。
巨費を投じて豪勢なパビリオンを建設せずともDXやITを駆使して大切なメッセージを伝えられる。そのプラットホームとして万博は極めて高いポテンシャルがあることを、ウクライナパビリオンは証明してみせた。
(松果堂)