1台600億円以上もする次世代半導体露光機。余りの高価格に大手2社は二の足を踏んでいたが…
2026年10月号 BUSINESS

ASMLの超高額なハイNAの次世代露光機(同社HPより)
苦戦するとみられていた蘭ASMLの次世代半導体露光機が一転、脚光を浴びている。台湾積体電路製造(TSMC)、韓国サムスン電子、米インテルの半導体大手3社がASMLと生産性向上に取り組むと発表した。日本が高シェアをもつ半導体製造装置や先端部材業界も「収益性が上がる」と期待が高まっている。
旺盛なAI(人工知能)需要を満たすため高性能半導体の市場は拡大の一途にある。半導体プロセスは近く1ナノメートル台へと微細化するが、こうした次世代チップを効率良く量産するのに欠かせないのが、ASMLが独占供給するEUV(極紫外線)露光機。現行の低開口度(NAO.33)露光機では微細化に限界があるため、注目されるのが高開口度(NAO.55 ハイNA)の次世代露光機である。EUVの波長13.5ナノメートルをさらに短くするのは難しいため、NAを大きくすることが解像度向上につながる。つまりハイNAにすることで理論上は回路線幅を40%ほど微細化できるとされる。
ところが、ハイNAの累計出荷台数は10台(9月上旬時点)にとどまる。なぜか、「高解像度と処理性能、コスト」という3要素を満たしていないからだ。なかでも本体価格は「従来比2~3倍相当の600億~650億円」、「運用費は同じく数倍」とされる。半導体装置業界の首脳が集う賀詞交歓会場ではあまりの高価格に、「売れていない。もうASMLはつくらないのでは」と、衝撃的な会話が交わされていたほどだった。
マイナスイメージが一変したのは9月8日にASMLが3大半導体受託生産会社と協業して、ハイNA向けフォトマスクの大型化を進めると発表したためだ。
ハイNAは0.55を実現するために縮小倍率が異なる「アナモルフィック光学系」を採用するが、これは露光面積が小さくなって生産性が悪化するのが弱点。そこでマスクサイズを6インチ角から6×12インチ(予想)に大型化して生産性を確保し、コストダウンにつなげようという狙いである。大手3社のうち、インテルだけがハイNA量産適用に前向きでTSMCとサムスン電子はハイNAの見送りを決めていたのに突然、ベクトルが合ってきた。
この流れは日本の半導体業界にも追い風になる。先端フォトマスクは、TSMCをはじめとする半導体大手は内製化している。しかし、ハイNAの完成度が2030年代に向けて、高まれば外販市場が広がっていく。外販向けではTOPPANが母体のテクセンドフォトマスク、大日本印刷、それに米Photronics(コネティカット州)がシェアを分け合っており、ハイNA向けの高付加価値品需要が生まれるのは商機だ。マスクの原盤となるEUVブランクスについてもHOYAやAGCエレクトロニクスなど日系が積極的な投資を計画。またフォトマスクの防塵カバーであるペリクルはASMLとの関係が深い三井化学が市場を独占できるか、注目される。
今から7年ほど前、TSMCは他社に先駆けEUV露光機を導入し、儲けの大きな5~7ナノメートルプロセスという当時の最先端半導体チップの生産能力を高めた。この事業戦略がヒットして現在の圧倒的な地位につながっている。今度は大手3社がハイNAの導入競争を繰り広げ、2ナノメートル以下の次世代チップで勝敗が分かれるのか。ASMLはハイNAの先の「ハイパーNA(0.75)」の開発にも着手している。どこまでいっても次があるのが半導体なのだが、次の10年もASMLの独占が続きそうな勢いだ。