昔なら検事になっていた優秀な人材を、五大事務所に根こそぎ奪われているのであれば…。
2026年9月号 DEEP

懲戒免職になった西田将仁・元検事(司法大観より)
東京地検特捜部で事件捜査の主任を務め、将来を嘱望されていた西田将仁検事(48)が被疑者として取り調べた女性と性的関係を持ったなどとして、7月29日付で懲戒免職となった。これで2024年以降、検事の懲戒免職2人、停職処分を受けて退職1人、裁判所による付審判決定で事実上起訴2人。元大阪地検検事正はレイプ事件で公判中だ。なぜ検事はこれほどまでに劣化したのだろうか。
検察当局の発表や関係者によると、西田元検事は2024年1月、選挙違反事件で取り調べて略式起訴した女性とその後、性的関係となり、発覚した今春まで関係を続けた。別の事件捜査のため、公費で宿泊料を支払ったホテルの部屋で性行為に及んだこともあった。「女性から好意を感じ、略式起訴して気が緩んだ」と話している。
懲戒免職のもう1人は阿南健人元検事(35)。静岡地検沼津支部時代に独身を装い、マッチングアプリで知り合った女性と交際し、その女性とトラブルになった人物の犯歴情報を伝えた。国家公務員法の守秘義務違反の罪で罰金30万円の略式命令も確定している。
停職10カ月の処分後に退職したのは千葉地検のK検事(40)。以前取り調べた参考人と再会した後、27回にわたって飲食など総額100万円を超える接待を受けた。
大阪高裁が付審判決定をした田渕大輔検事(54)は大阪地検特捜部に在籍中、被疑者の取り調べで机を叩いて「検察なめんなよ」などと罵倒し続けるなどしたとして、特別公務員暴行陵虐の罪に問われている。東京地裁が付審判決定の堀木博司検事(58)も東京地検特捜部に所属当時、黙秘している被疑者に「黙秘を人のせいにするな」などと怒声をあげたとして、同じ罪に問われている。
在任中の準強制性交等罪で公判中の元大阪地検検事正は、北川健太郎被告(66)。部下の女性検事が被害を受けた。
ベテランの司法記者は北川被告以外の5人について、司法試験の合格者が段階的に増えたこととの関連を指摘する。合格者は1960年代半ばから年500人前後で推移し、ほぼ同数が司法修習を修了して約50人が検事に任官していた。ところが、80年代後半のバブル経済時代に高収入が見込まれる弁護士になる修習生が増え、検事希望者が減った。90年に任官した42期の検事は28人にとどまった。
そこで1991年に成立した改正司法試験法で合格者を増やしていくことが決まり、52期の田渕検事、54期の堀木検事、55期の西田元検事がそれぞれ合格した97年、99年、2000年の合格者は746人、1千人、994人だった。
政府の司法制度改革審議会が2001年の意見書で、合格者をさらに3千人まで増やすよう提言。07~13年の合格者は2千人台や2100人台が続き、65期のK元検事は10年に合格した。ただ弁護士が増えすぎたことなどから合格者は14年から漸減。阿南元検事が合格した16年は1583人だった。
「合格者の増加に伴い、検事任官者は1994年に70人を超え、80人台、90人台の年もある。2007年は113人。しかし、採用が増えれば、問題を起こす人も多くなる。『合格者500人時代』より丁寧に指導していかないと、人材は育たない」とベテラン記者。
元検事の弁護士は「増えた修習生(合格者)を弁護士として多く採用し、巨大化する法律事務所が現れた。企業法務が中心で1年目から高収入、数年後に留学が約束され、優秀な修習生がそうした事務所を志望し、検事のリクルートは厳しくなっている」と話す。
いずれも東京にある①西村あさひ、②森・濱田松本、③アンダーソン・毛利・友常、④長嶋・大野・常松、⑤TMI総合の各法律事務所(①③は外国法共同事業も併記)は「五大事務所」と呼ばれ、2025年3月31日現在、所属弁護士は665~568人。採用は24年度と25年度に修習を終えた77期、78期が計304人と計266人で、ともに修了者の17%に当たる(弁護士白書25年版と企業法務革新基盤のホームページによる)。

一方、田渕、堀木両検事については、別の問題点もあると元検事の弁護士。特捜部が捜査する汚職や経済事件は、遺留品の鑑定や防犯カメラ、位置情報の解析などが可能な殺人や放火などと異なり、ほとんどが関係者の供述で事件を立証しなければならない。
そのため、供述を引き出す取り調べが重要となるが、1990~94年に藤田観光株価操作事件やゼネコン汚職などの捜査で、検事3人が取り調べで被疑者や参考人に暴行し、負傷させた。2人は起訴猶予処分で依願退職し、残る1人は懲戒免職のうえ、特別公務員暴行陵虐致傷の罪で執行猶予付きの有罪が確定。94年に当時の前田勲男法相が吉永祐介検事総長を口頭注意する事態に発展した。
2010年には、大阪地検特捜部が郵便不正事件を巡り、虚偽の供述で厚生労働省の局長だった村木厚子さんにぬれぎぬを着せたことが明らかとなった。主任のM検事(48期)が証拠のフロッピーディスクのデータを改ざんし、O特捜部長(36期)らによるその隠蔽も発覚した。Mは証拠隠滅の罪で実刑、Oらは犯人隠避罪で執行猶予付きの有罪がそれぞれ確定。大林宏検事総長らが引責辞任した。
「検事は自白や見立てに合う供述を取るため、無理をしてきた。田渕、堀木両検事も同じで、手柄を挙げたいといった気持ちからだろうが、村木さんの事件を契機として特捜部が逮捕した被疑者の取り調べは録音・録画が義務付けられた。両検事の取り調べも収録され、確たる証拠があったから付審判決定が出た。今後も同じことをすれば、検事が裁判にかけられる」と元検事の弁護士は忠告する。
同弁護士は北川被告(37期)について「パワハラ、セクハラが横行していた時代に主に関西の検察庁で育ち、大阪地検検事正という殿様になって増長していたのだろう。救いようがない。実刑となって反省すべきだ」と突き放す。
「昔なら検事になっていた人材を五大事務所に取られているのであれば、五大事務所などで鍛えられた優秀な弁護士を検事に採用すればいい。田渕、堀木両検事のような無理な取り調べも、西田元検事らのような倫理観を欠く非行もしないだろう。劣化した検察を救う手立てはそれくらいしかない」とベテラン記者は提案している。