2026年7月号
BUSINESS
by
高橋克英
(マリブジャパン代表)

銀行業参入の悲願を達成したNTTドコモの前田義晃社長(写真/宮嶋巌)
2025年10月、NTTドコモは、約4200億円で住信SBIネット銀行を連結子会社化した。住信SBIネット銀行は、預金量11兆477億円、口座数915万口座、住宅ローン残高9兆3013億円(2026年3月末)と楽天銀行と並ぶネット銀行最大手だ。
住信SBIネット銀行の持株比率は、NTTドコモ55.37%、三井住友信託銀行(SMTB)44.63%ながら、議決権比率は50対50である(図表)。
ソフトバンクがPayPay銀行、KDDIがauじぶん銀行、楽天が楽天銀行を擁するなか、大手スマホ4社のなかで唯一、グループ内にネット銀行を持っておらず、金融事業で出遅れていた。

2024年6月にNTTドコモの社長に就任したリクルート出身の前田義晃氏にとって、銀行業への早期参入は悲願であり「公約」でもあった。24年1月のマネックス証券、同年3月のオリックス・クレジット(現ドコモ・ファイナンス)の子会社化に続き、ネット銀行買収により「ドコモ経済圏」の拡大を加速させる。26年7月 には、NTTドコモの金融事業を束ねる金融持株会社「NTTドコモ.フィナンシャルグループ」を発足させ、30年度の金融収益を1.2兆円と対25年度で倍増させる計画だ。
NTTドコモのdポイントクラブは1億会員を突破し、金融決済取扱高は17兆円を超え、このうち12兆円はクレジットカード「dカード」の利用によるものだ。特に年会費11000円で利益率が高い「dカードGOLD」と年会費29700円の最上級カード「dカードPLATINUM」は計1203万契約に達している(25年度)。クレジットカードにおけるプラチナ・ゴールド比率が60%超と極めて高く、シニア・富裕層が多いのが特徴だ。
住信SBIネット銀行の連結子会社化により、デジタルネイティブ世代の獲得に加え、全国の一等地に展開するドコモショップを活用することで、他陣営よりも保有比率が高いプラチナやゴールドカードを持つシニア・富裕層向けに、三井住友信託銀行やマネックス証券などと連携して、対面での資産運用サービスを展開することもできよう。
一方、住信SBIネット銀行は、26年8月に「ドコモSMTBネット銀行」(ドコモ銀行)に商号変更し、新たなサービスとして、銀行口座利用でdポイントが貯まる、ドコモのサービス×銀行口座で特典進呈、ドコモのサービス利用で住宅ローン金利を優遇、マネックス証券サービスとの連携、三井住友信託ファンドラップなど資産運用・不動産・相続などが順次提供される。
今まさに「水面下で仕込みを行っている」とはいえ、非上場化で情報開示が少なくなったこともあり、「この半年余り、何をやっているのか姿が見えない」(競合他社幹部)との声も。特に稼ぎ頭であった住宅ローンや不動産投資ローン、BaaS事業の先行きを不安視する向きもある。
例えば、住信SBIネット銀行は、銀行が持つ決済・預金・融資などの金融サービスをJALやヤマダHD、高島屋、吉本興業など23もの非金融企業に提供しており、いわゆるBaaS事業ではパイオニアであり、独走状態だった。
しかし、ドコモによる買収後、新規のBaaS事業の動きが、ここ半年見えないだけでなく、既存のBaaS利用企業からも、「自社の顧客データや決済動向が、裏で競合になり得るドコモに筒抜けになるのではないか」(BaaS提携企業担当者)という懸念の声も聞こえてくる。
さらに、SNSでは「優れたUI/UXを誇る住信SBIネット銀行のサービスが、ドコモの買収によって低下するのでは」「dポイントサービスは使い勝手が悪そう」「SBI証券・住信SBIネット銀行間のスイープ機能はこの先も継続されるのか」といった不安の声が、買収発表当初から根強く囁かれてきた。
住信SBIネット銀行の口座数や預金残高を爆発的に押し上げてきたのは、まさに、SBI証券の口座と連動するスイープ機能の存在だ。住信SBIネット銀行のSBIハイブリッド預金残高を、SBI証券における株式等の買付代金に充当できるサービスであり、SBI証券で個別株などを取引する多くのユーザーが利用しているものだ。
懸念を見越してSBIHD、SBI証券、NTTドコモ、住信SBIネット銀行の4社の業務提携により、NTTドコモによる住信SBIネット銀行子会社化後も、「SBI証券・住信SBIネット銀行間の銀証連携サービスは継続」とは発表されているものの、額面通りには受け取れない。なぜなら、ドコモ傘下には、SBI証券と競合するマネックス証券があり、SBIグループ側にも、今やドコモ銀行と競合するSBI新生銀行があるからだ。
実際、マネックス証券、NTTドコモ、住信SBIネット銀行との3社の業務提携に基づき、住信SBIネット銀行とマネックス証券はスイープ機能を導入する予定だ。片や同じSBIグループのSBI新生銀行とSBI証券は、すでにスイープ機能を導入済だ。ドコモがドコモ銀行とマネックス証券の連携を進め、SBIがSBI新生銀行とSBI証券の連携を優先するのは極めて当然のことだ。
早速、話題となったスペースXのIPO抽選申込みでは、SBI証券は「SBI新生銀行のSBIハイパー預金残高が10万円以上の場合、当選確率がアップします」と、住信SBIネット銀行の利用者にはない「お得感」を打ち出していた。
2007年9月に、SBIHDと旧住友信託銀行(現三井住友信託銀行)と折半出資で設立した住信SBIネット銀行は、まだ今ほどネットもスマホも普及していない中、新興勢力の一つに過ぎなかったSBIの先進性とSMTBの信用力が補完し合って大躍進したが、規模拡大につれSMTBの石橋を叩いても渡らない保守性が北尾吉孝CEO率いるSBIのスピード感の足枷になっていた。追い打ちをかけたのが、22年6月のSMTBと犬猿の仲であるSMBCグループ(三井住友FG)とSBIHDとの電撃的な資本業務提携だ。これが決定打となり、SMTBとSBIの関係は急速に冷え込んだ。
そして23年6月の新生銀行の非公開化(TOB)と同年9月の上場廃止による完全子会社化により、北尾氏はSMTBに気を使いながら経営することなく100%コントロールできる自前のSBI新生銀行を手に入れた。23年3月に住信SBIネット銀行の東証上場により、SBIHDの出資比率が34.19%に低下したこともあり、SBIグループにおける中核銀行の座をSBI新生銀行に譲り渡す格好になっていた。
その後SBI新生銀行は、NTTドコモへの住信SBIネット銀行株式売却とNTTからSBIHDへの出資もあり、国からの公的資金(約2300億円)を25年7月末に完済し、同年12月には東証プライムへ再上場を果たし、現在に至っている。住信SBIネット銀行を高値で売却し、本命のSBI新生銀行にリソースを集中することに成功したのが、北尾SBIといえよう。
NTTドコモと三井住友信託銀行は、資本力と信用力は抜群ながら、保守的なカルチャーもあり、スピード感やイノベーションを起こすDNAは見劣りがする。優れたUI/UXを誇り、スピードと革新性に加えSBI証券との連携が強みだった住信SBIネット銀行の魅力が削がれたまま、ユーザー離れが進むのか、ドコモと三井住友信託の協働で、シニア・富裕層にも強い新たなるドコモ銀行に生まれ変わるのか。新社名からSBIの3文字が消え、不安がいっぱいではないか。