中国車は東南アジアや中南米で浸透する。米国での日本車優位もいつまで続くことやら。
2026年6月号 BUSINESS

ホンダは北京国際自動車ショーで無残な姿を晒した
Photo:Jiji
ブース入り口には新車が並んでいるものの、よく見ると1年あまり前に発売した市販車種。傍らではカップル客が「フォーミュラ1(F1)」の車両に交互に乗って記念撮影に興じ、さらにその近くでは50年前に発売になった乗用車「アコード」が所在なげにたたずんでいた。
5月3日まで中国・北京市で開かれた北京国際自動車ショーで、なんともチグハグなお寒い光景を晒したのがホンダだ。世界最大の自動車マーケットで催される一大イベントであるにもかかわらず、本社からの幹部訪問や記者会見もなし。異例ずくめの自動車ショーと相成った。
「一体なぜこんなことに…」「会見も発表もないということ自体がニュースだ」――。会場では業界関係者からこんな発言が相次いだが、予兆はあった。ホンダは3月、電気自動車(EV)戦略の失敗により最大で2兆5千億円の損失を計上する可能性があると発表していた。
同社は各地で苦戦しているが、中でも苦しいのが中国市場。2020年には中国における新車販売が162万台に達したが、以降はマイナスが続く。25年は約64万台まで減った。工場の稼働率が大きく落ち込む中、生産能力の削減が目下の課題で「自動車ショーどころではなかった」(同社関係者)。
程度の差こそあれ、日系完成車メーカーの中国での苦境は覆い隠しようがなくなっている。20年の乗用車市場におけるシェアは23%あまりだったが、25年には約10%まで下落した。この間にシェアを大きく伸ばしたのが比亜迪(BYD)をはじめとする中国メーカーで、40%弱から70%近くまで増やしている。
中国政府がEVなどの新エネルギー車の普及を補助金や税優遇などで強力に後押しし、世界各地でこうした動きに対して「競争環境をゆがめている」といった批判があるのは周知の通りだ。だが、中国メーカーの躍進は政策だけでは説明がつかない部分がある。
「日欧米の自動車メーカーは開発期間の短縮について真剣に考えるべきだ」。北京自動車ショーの会場を訪れた有力コンサルティング会社の幹部はこう指摘した。新車の開発は4~5年かかるとされてきたが、中国では12~18カ月。このスピード感が性能向上や顧客ニーズを反映した新製品の機敏な市場投入につながったとの指摘だ。
中国では「996(週6日午前9時から午後9時まで)」と呼ぶ長時間労働が有名だが、それだけではない。米アリックスパートナーズの調査によると、デジタルツインなどと呼ばれる仮想空間を利用して開発期間を短縮している企業の割合は中国では77%に達した。50%台だった欧米を大きく上回り、最新の技術を利用した「時短」の様子が浮かび上がる。
お家芸であるサプライチェーン(供給網)やコスト低減にも磨きをかけている。ある日中合弁メーカーの調達担当幹部は「もともとコストでは中国系の方が勝っていた。以前であれば高性能な日本や欧州の部品を調達するメリットもあったが、差は縮まっている」と最近の変化を指摘する。
さらに注目するのはスピード感の違いだ。「中国メーカーはスマートフォンのチャットアプリで仕事を頼むと翌朝に対応するが、日系は無理。対応ではなく、『そのようなやり方では品質を担保できない』と説教してきた」と苦笑する。QCD(品質・コスト・納期)のすべてで中国勢の追い上げが急とみる。
従来、こうした動きは中国国内に限った話だったが、状況が変わってきた。
「全力支持中国企業出海(グローバル展開)」――。北京の空港で目に付くのはこんなキャッチフレーズを大きく記したIT(情報技術)企業の広告だ。自動車も例外ではなく、25年の輸出は710万台に達し、日本車の輸出(420万台)を大きく上回った。海外生産も5年で2・5倍超に増え、30年に340万台に達するとの予測がある。
もっとも、地域ごとに中国車に対する姿勢に差があるのも事実だ。「東南アジア諸国連合(ASEAN)や中南米の消費者は中国車に対して比較的寛容で、欧州も現地生産であれば受け入れる素地ができつつある」(自動車業界に詳しいコンサルタント)。一方、歴史的な経緯などがあり、日本やインドでは抵抗感が強いとされる。
現在は日本やインドに近いが、不透明感が増しているのが米国だ。現在、米国は中国製EVを高率の関税で事実上閉め出している。BYDとトヨタ自動車の直近の会計年度の売上高を販売台数で割るとそれぞれ、約450万円と530万円。単価が高い大型車の構成比率が高い米国市場が日系メーカーの収益を支える構図だ。
頼みの綱ともいえる米国で1月、気になる動きがあった。「もし彼らがここ(米国)に来て工場を建て雇用を生むのであれば、それは素晴らしいことだ」――。トランプ米大統領はこのように話し、一定の条件を満たせば「中国車」の販売が可能になるとの見通しを示したのだ。
米国で対中強硬策は鋭く対立する共和、民主両党が相乗りしやすい政策で、特に人工知能(AI)を活用した自動運転車やコネクテッドカー(つながる車)が絡むと警戒が高まりやすい。それでもトランプ氏の発言と呼応するかのように水面下での動きが激しくなってきた。
ひとつはホンダと同様にEV戦略で失敗し、立て直しを急ぐ米フォード・モーターと中国メーカーとの提携だ。中国大手の浙江吉利控股集団や、スマートフォンからEVに事業を広げた小米(シャオミ)などとの提携交渉が相次いで表面化した。
さらに、ウルトラCといえるのがカナダにおける工場建設だ。カナダ政府が中国に対する強硬姿勢を緩めるなか、「複数の中国メーカーがカナダ進出に向けた検討を進めている」(中国メーカー関係者)。カナダと米国は自動車の安全基準などが近く、門戸が開かれればすぐに輸出できるのが理由という。
金城湯池の米国での「開放」は政策次第という面が強いが、いつまでも現状維持といかない可能性を考えた方がよい。
「事業を今、抜本的に見直さなければ自動車業界のみならず欧州全体に深刻な経済的後退をもたらすリスクが極めて大きい」――。米マッキンゼーは25年、日系以上に中国市場への依存度が高く、いち早く危機に直面した欧州メーカーにこう呼びかけた。日本は例外と考えるのはあまりにも能天気で無責任だ。