2026年5月号
BUSINESS
[経済断影]
by
井伊重之
(経済ジャーナリスト。産経新聞客員論説委員)

企業の成長投資に強い思い入れ(写真/堀田喬)
会社法の改正を検討してきた法制審議会(法相の諮問機関)が改正案の中間試案をまとめた。今回の改正は、日本の株式市場で存在感を高めている外資系ファンドなどの「物言う株主」(アクティビスト)を抑え込むため、株主総会に議案を提出できる株主提案権の要件を厳格化する方向が明示された。これまで政府は、株価の引き上げを目指してアクティビストの活動を黙認してきたが、ようやく具体的な規制に向けて重い腰を上げた格好だ。
我が国は「アクティビスト大国」と呼ばれるほど、物言う株主が縦横に動き回っている。これに伴い、株主総会に対する株主提案も急増しており、それが経営陣に対する強い圧力となって自社株買いや配当増などの株主還元につながっている。
経済産業省も「株主還元が行き過ぎると、将来に向けた積極的な投資が後回しとなり、中長期的な企業価値の向上につながらない」と危機感を募らせる。特に高市早苗首相は企業の成長投資を重視しており、アクティビストに対する規制は成長投資にかける首相の思い入れを反映させた取り組みだ。
上場会社の場合、現行の会社法では総株主の議決権の1%以上、あるいは単位株300個以上の議決権を6カ月前から継続保有している株主に対し、株主総会で議題や議案を提案できる株主提案権が与えられる。法制審の会社法改正の中間試案によると、この要件を引き上げ、単位株あたりの個数制限を廃止して株式の保有比率だけにしたり、個数を大幅に引き上げたりする案が盛り込まれた。
会社法による株主提案権の要件は1981年以来、据え置かれたままだという。特に単位株制限を巡っては、株式分割や売買単位の引き下げが進んだことで、今では簡単にクリアできるようになった。このため、法務省関係者は「株式市場を巡る情勢変化に合わせて、会社法による株主提案の要件も柔軟に見直す必要があると判断した」と指摘する。
また、中間試案では企業が実質的な株主を把握しやすくする制度も盛り込んだ。上場企業の株式を大量購入する際には、取引を仲介する信託銀行が名義上の株主となり、実際に株主権を行使する実質株主を特定できない場合も多い。中間試案では当該企業が信託銀行に実質株主を問い合わせしたり、5%超の株式を取得した場合には企業側に通知を義務づけたりする仕組みも設ける。
最近の企業買収では、複数の投資家が別々の名義で密かに株式を買い集め、一気に名義変更して経営権を奪う「ウルフパック(群狼)戦術」も使われている。実質株主を明らかにすることは、アクティビストの不意打ち的な買収を防ぐ狙いがある。
アクティビストの株主提案に対する規制を巡っては、米国でも打ち出されている。米国ではESG(環境・社会・企業統治)投資を主導してきたSEC(米証券取引委員会)のゲンスラー委員長が昨年1月、トランプ大統領の再登板によって更迭された。これに伴い、SECは株主提案に対する規制を大幅に強化し、上場企業に脱炭素を強く求めてきたアクティビストの株主提案は急減した。
日本国内における昨年の株式売買を取引主体別に見ると、国内の事業法人は買い付けが売却を10兆4700億円上回った。買い越し額は前年から3割超も増え、過去最高を大幅に更新しており、企業による自社株買いが広がったことを意味している。市場に流通する自社株を減らせば、1株当たりの利益が増えて株価の値上がりにもつながる。
だが、目先の株主還元ばかりに経営者の目が向けば、将来に向けた設備投資や賃上げなど企業の中長期的な成長に必要な分野に回す資金は減ってしまう。アクティビスト対策は企業価値を高めるためにも急務だ。