新連載/「半導体」企業研究/東京エレクトロン/売上高3兆円へ「3つの難所」

2026年5月号 BUSINESS [「半導体」企業研究]

10年以上にわたり、成長を牽引してきた河合利樹社長

「手がける全ての装置で世界シェアナンバー1を目指す」――。日本の半導体製造装置メーカーの雄、東京エレクトロンの幹部は意気揚々と宣言する。同社は2027年3月期に売上高3兆円以上、自己資本利益率(ROE)30%以上、営業利益率35%以上の中期経営計画が進行中。売上高で3兆円を超える半導体製造装置メーカーは世界で3社しかない。目標達成は東京エレクトロンが真にグローバルメーカーの仲間入りしたことを意味する。だが、達成に向けては3つの難所が立ち塞がる。

東京エレクトロンは複数の半導体製造装置を手がける。露光装置と合わせて使うコータ・デベロッパ(塗布現像)はシェアの約9割を握るほか、洗浄や成膜、エッチングでも約2割のシェアを持つなど、多くの装置で市場をリードする。スマートフォンやIoTの拡大の波に乗り、業績は急拡大した。26年3月期連結業績予想は売上高で2兆4100億円を見込む。16年3月期の売上高6639億円と比較すると約3.6倍の水準まで規模を拡大した。今年3月には時価総額が20兆円を超え、国内の上場企業のランキングでは9位に入る。

半導体受託製造(ファウンドリー)最大手の台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子、米インテルなどの巨大半導体メーカーも東京エレクトロンの装置がなければ、事業活動を行うことはできない。SCREENホールディングス(HD)やディスコなど、製造装置大手が多い日本勢の中でも頭一つ抜きん出た存在だ。売上高でも世界有数のメーカーである。3兆円を超える蘭ASML、米アプライド・マテリアルズ、米ラムリサーチに次いで、製造装置メーカーで世界4強の一角を占める。得意分野が異なる製造装置メーカーにおいて、売上高の規模が大きいこの4社は全ての半導体メーカーと取引がある別格の存在である。

「やっぱり来た」。社長の河合利樹氏は直近のメディアインタビューで強気の事業見通しを語っている。AI(人工知能)の普及により、ファウンドリーやメモリーメーカーからの装置需要が伸びているという。今後の成長を見据え、積極投資にも打って出る。3月25日の日刊工業新聞によれば、25年3月期から29年3月期までの5年間累計で研究開発費1兆5000億円以上、設備投資7000億円以上、採用数1万人とした計画について、それぞれ1.5倍程度の上方修正を検討しているという。AI需要を追い風に半導体投資は拡大局面にある。また、足元では価格の上昇を受け、DRAM投資も活況だ。同社は先手の投資で今後の装置需要を捉える。

急拡大するAI需要への対応

米半導体産業協会(SIA)によれば、半導体市場は26年に1兆ドルを超える見通しだ。これまでは30年に1兆ドルを超える公算だったが、前倒しで市場は成長する。AIサーバーの成長が牽引し、先端ロジックやDRAMでの投資が進む。すでにTSMCは26年に前年比約3割増の最大560億ドル(約9兆円)規模の設備投資を行う計画を公表済み。サムスン電子も米国で先端ファウンドリー拠点を整備中で、なおかつ韓国北西部の平沢(ピョンテク)と龍仁(ヨンイン)を中心に大型投資を実行する。このほか、韓国SKハイニックスや米マイクロン・テクノロジーもメモリーで大型投資を決めている。

東京エレクトロンの難所はこうした急拡大する需要に対応しきれるかだ。あるサプライヤーはこう証言する。「サプライヤーを複線化するという方針だが、対応できるサプライヤーを見つけるのは簡単ではない」

現在、東京エレクトロンは装置ごとに生産拠点を分けている。主に塗布現像は熊本県、エッチング装置は宮城県、成膜装置は山梨県と岩手県で対応し、それぞれの拠点にサプライヤーを抱えている。一方、先のサプライヤーは「同社とサプライヤーは長年の関係。中には図面なしでもユニット生産できるサプライヤーもいる」と話す。新規のサプライヤーでは「こうした対応は難しい」(同)。

同社はサプライヤーに対し「来期は過去最高の生産を見込む」と説明している。同社は25年に宮城県や熊本県、岩手県で開発や生産拠点を新設するなど、今後の需要増加に向けた体制は整えている。また、複数の装置を別拠点でも生産できるようにする「マルチ生産システム」の構想も持つ。加えて、既存工場でロボット導入を進め、24時間稼働できるようにする方針だ。だが、サプライヤーの拡充なしに足元の増産計画はおぼつかない。

ライバルの米2社との激しい攻防

競合との競争に打ち勝てるかも重要だ。特に競争が激しいのが、成膜装置とエッチング装置だ。成膜とエッチングではアプライド・マテリアルズとラムリサーチが強力なライバルだ。両社とも、メモリー向けのシェアが高い。特にラムリサーチはNAND型フラッシュメモリー向けで必須のエッチング装置で100%のシェアを握る。アプライド・マテリアルズもメモリー向けの成膜装置でシェアが高い。近年はロジックでの攻勢も強めている。東京エレクトロンはこの壁を越える必要がある。

現状は厳しいようだ。NANDでのラムリサーチの独占を崩すべく投入を予定していた極低温エッチング装置では、サムスンなどでの量産適用が進まなかったようだ。ある業界筋は「東京エレクトロンの攻勢に焦ったラムリサーチが顧客の既存装置をアップグレードする提案で商談を奪い取った」と打ち明ける。東京エレクトロンはNANDのメモリー積層数が1000層を超える段階から本格的に同装置の市場が立ち上がるとし、26年からは一部工程で量産適用が始まると見込んでいたが、目論見は外れた形となった。

ロジックでもラムリサーチとの競争が激しい。25年8月に起きた東京エレクトロンの台湾子会社の社員がTSMCの機密情報を盗んだ事件。この情報にエッチングの条件などが含まれていたという。別の業界筋は「ラムリサーチのエッチング装置がTSMCの2ナノメートル(ナノは10億分の1)で採用されることが決まっていた。エッチング装置の採用が決まっていなかった東京エレクトロンとしての焦りもあったのだろう」と分析する。アプライド・マテリアルズとラムリサーチを打ち破らない限り、3兆円の道は開けない。

稼ぎ頭である中国でも懸念がある。一つが地政学リスクだ。米中対立が激化する中、製造装置各社は規制強化というリスクを内包している。2019年の通信大手、華為技術(ファーウェイ)の米国の「エンティティー・リスト(安全保障上の懸念がある企業群)」追加以降、中国は半導体技術の輸入で制約を抱えている。露光装置では先端である極端紫外線(EUV)は入手できず、NANDの積層数増加に必要な先端エッチング装置など、複数の技術で規制を受けている。製造装置メーカーは規制対象になっていない装置を販売することで、中国向けのビジネスを継続してきた。

業績への影響も出ている。競合のアプライド・マテリアルズは米商務省産業安全保障局(BIS)による輸出規制の対象企業を拡大する新規則により、26年10月期に売上高が6億ドル減ると予想する。競合である東京エレクトロンも同様のリスクを抱えている。米国は規制により、中国の半導体技術が進展するのを抑え込む狙いであり、今後も米国による対中規制は強まる公算だ。日本政府も追従する可能性が高い。東京エレクトロンも経済産業省出身者を米ワシントンに派遣し、米国政府の輸出規制の情報収集に力を入れるが、日替わりメニューのように政策が変わるトランプ政権への対応は困難を極める。今後の輸出規制次第では、中国市場からの撤退もあり得る。

さらに価格面でのリスクもはらんでいるという。中国向けの装置は台湾向けなどに比べ、利幅が高いことで知られる。台湾からの転職者が中国半導体業界の歴史を作ってきた経緯から、台湾向けに強い装置メーカーが中国市場でもシェアを持っている。だが、あるサプライヤーは「中国向けの装置が性能に対し、価格が高いことを顧客側も認識してきた。これまで通りの利幅を確保するのは難しいかもしれない」と吐露する。

中国依存と現地メーカーの台頭

また、中国では現地メーカーの成長も続く。成膜装置などを手がける中微半導体設備(AMEC)や北方華創科技集団(NAURA)などが技術面でのキャッチアップを続ける。中国メーカーは東京エレクトロンが手がける先端世代ではないものの、成熟製品向けの装置で中国国内でのシェアを高めている。カナダの調査会社、テックインサイツによれば、24年の世界の半導体製造装置メーカーの売上高ランキングでNAURAは9位にランクインした。中国の半導体に詳しいある関係者は「価格は3割以上安い。性能としては成熟世代なら問題ない」と太鼓判を押す。別の製造装置メーカー幹部も「ここ数年で価格競争が厳しくなったのは事実。政策による後押しもあるが、中国メーカーの価格競争力には勝てない」と打ち明ける。

中国政府は半導体産業の自国完結を目指し、半導体メーカーは新規増産時に50%以上の国産装置を導入することを求められている。27年には成熟プロセスにおける装置国産化率70%を目標に掲げる。それだけでなく、入手が難しい先端技術の獲得にも躍起になっている。すでにファーウェイがEUV露光装置の実現に向け、開発を進めているほか、NAURAなども先進メーカーの牙城に挑んでいる。DRAMを手がける長鑫存儲技術(CXMT)やNANDの長江存儲科技(YMTC)、ファウンドリーの中芯国際集成電路製造(SMIC)、ファーウェイ傘下の半導体設計子会社の海思半導体(ハイシリコン)など、力をつけた中国半導体メーカーがけん引する形で中国装置メーカーも実力を高めている。

世界の半導体投資の約4割を中国市場向けが占める中、中国の装置メーカーが台頭するのは間違いない。東京エレクトロンの足元の計画では、中国向けで装置出荷の4割以上を占める計画だが、予断を許さない。東京エレクトロンが真の世界トップメーカーになるには、3つの難所越えなくして成しえない。

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