役員報酬倍増のお手盛り「西武」/「二匹目のドジョウ」狙う不快な臭い

財務体質改善で進めた聖域なき保有不動産の売却で役員報酬が倍増という不思議。

2026年5月号 BUSINESS

後藤氏は代表権とCEO職を譲った

Photo:Jiji

「日本一の土地持ち企業」といわれたコクドを前身とする西武ホールディングス(HD)が豊富な資産の運営で稼ぐ従来型経営から優良物件を積極的に売却する「不動産回転型ビジネス」への転換を打ち出したのは2年前。コロナ禍以降に顕在化した財務危機が背景にある窮余の策と受け止められたが、その陰で経営陣はちゃっかり役員報酬制度を改定。巨額の不動産売却で得た利益を反映させ、2025年3月期の報酬総額は1年前に比べ倍増した。“お手盛り経営”とはまさにこのことだ。

極めて不自然な会計処理

2月26日、西武HDは代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)である後藤高志(77)が4月1日付で代表権を返上し、CEO職も社長の西山隆一郎(62)に譲ると発表した。

同社はコロナ禍で本業の鉄道・バス事業やホテル・レジャー事業の利用客が急減。21年3月期に516億円、22年3月期に132億円の営業赤字を出し、コロナ禍前の19年3月期に24.1%だった自己資本比率が22年3月期に18.3%に低下した。9109億円(22年3月期末)という巨額の有利子負債を抱えていた同社は融資元の金融機関との間で連続して営業赤字になった場合にペナルティーを課す財務制限条項(コベナンツ)を結んでいたとされ、当時在任15年を超えていた後藤社長(当時)の更迭論が高まり、翌23年4月に後藤から西山への社長交代が実現した。

それでも後藤はCEO職を譲らず、「院政」と言われながら3年の時を経て今回ようやく手放すことになった。同社設立以来20年間にわたりトップとして君臨したワンマン経営者の降板であり、「ようやく若返りが進む」と周囲には歓迎する向きが多いが、それでも後藤は取締役会長の肩書は保持する。「まだ稼ぎ足りないとの思いがあるのだろう」と傘下のプリンスホテル(現西武・プリンスホテルズワールドワイド)元幹部はグループ内の空気を冷ややかに解説する。

会長兼CEOの「稼ぎ足りないとの思い」を巡る憶測がグループ内で囁かれ始めたのは昨年夏。25年3月期の後藤の役員報酬総額が2億500万円と前の期に比べ倍増したことが有価証券報告書で知れ渡ってからだという。同報告書には「社外」を除く常勤取締役の報酬総額6億400万円(8人、1人当たり平均7550万円)の記載もあり、前の期の3億700万円(9人、3411万円)から同様に倍増している。

25年3月期の同社業績は、西武グループの“虎の子の資産”といわれた複合ビル「東京ガーデンテラス紀尾井町」(東京・千代田、旧赤坂プリンスホテル新館)を約4千億円で米投資ファンドのブラックストーンに売却した効果で前代未聞のレベルに跳ね上がった。売上高は前の期比1.9倍の9011億円、営業利益が同6.1倍の2927億円、当期利益が同9.6倍の270億円といずれも急増。その結果、「業績連動型」の報酬体系を採用している役員報酬も一気に膨張したというわけだ。

ただ、今回のガーデンテラスのような保有不動産の売却で得られた一過性の収益について、企業決算では特別利益として計上するのが一般的。しかし、西武HDは約4千億円の売却収入を売上高に繰り入れたのをはじめ、そこから簿価(1396億円)などを差し引いた利益(2604億円)を営業利益として計上した。企業財務に詳しいアナリストは「極めて不自然な会計処理」と問題視する。株価評価などの際に最も重要なデータとなる本業の収益性が一過性の収益の計上によって困難になる」(同アナリスト)からだ。

実際、前述のように25年3月期の売上高・営業利益・当期利益は激増しているし、同社が役員報酬を決める業績評価指標としているEBITDA(償却前営業利益=営業利益+減価償却費+のれん償却額)は3471億円と期初目標970億円の3.6倍に膨張。もう1つの業績評価指標であるROE(自己資本利益率)も52.2%と期初目標5.9%の8.8倍に対し大幅に上振れしている。26年3月期の期初予想でEBITDAは980億円、ROEは4.8%と2年前の水準に戻っている。25年3月期の数値がガーデンテラス売却で水膨れし、一過性のものだったことを如実に物語っている。

西武HD経営陣もさすがにこれだけ「不自然な会計処理」に対する批判を予想していなかったわけではなさそうだ。保有不動産の売却収益は特別利益として計上するのが一般的と先述したが、それには例外がある。不動産会社の場合である。自社開発のマンションや宅地などの分譲はデベロッパーとも呼ばれる不動産会社のまさに「本業」だからだ。

西武HDは24年5月に「西武グループ長期戦略2035」を発表。10年後を見据え「当初グループの強みを活かした『不動産事業を核とした成長戦略』を実行する」と宣言し、キャッチフレーズとして強調したのが「不動産回転ビジネス」への参入だった。

新たな成長戦略に沿い、子会社の西武リアルティソリューションズを25年4月1日付で「西武不動産」へ改称。西武不動産の商号は西武グループの天皇といわれた創業一族の2代目、堤義明(91)が1970年に西武鉄道沿線の宅地開発などを行う会社として設立して以来使用されていたが、後藤が堤カラー一掃のため実施したグループ再編の一環で09年に西武鉄道に吸収合併され、会社は解散していた。その「西武不動産」の社名を16年ぶりに復活させたのである。現場や取引先の混乱や困惑は意に介さなかったようだ。

西武HDの有価証券報告書(25年3月期)にある【役員の報酬等】の項は延々16ページにわたって複雑難解な同社の役員報酬制度を説明しているのだが、25年6月の株主総会で「取締役の報酬額改定」の議案が提出され「基本報酬及び新設する短期業績連動報酬を年額10億円以内とする」とのくだりが加わった。1年前の総会で「基本報酬総額は年額7億2千万円以内とする」と定めたばかりの規定の変更である。

報酬上限の引き上げについて同社は「業績達成に向けたコミットメント及びモチベーションを高めることによりコーポレート・ガバナンスを向上させることを目的」と謳っているが、そもそも業績向上は取締役はじめ経営陣の義務である。むしろ、こうした報酬上限引き上げなどインセンティブの拡大は行き過ぎた資産売却に繋がり、会社の持続的成長や競争力強化を却って阻害する結果となる懸念があることは言うまでもない。

二匹目のドジョウを狙う?

後藤は最近のインタビューで「保有する不動産はすべて聖域なく流動化(売却)する」と述べ、具体的な候補として26年度中に営業を終えるグランドプリンスホテル新高輪(東京・港)の跡地に建てる再開発ビルを挙げている(3月2日付「日本経済新聞」)。ガーデンテラスに続く“二匹目のドジョウ”を狙う臭気を感じるのは筆者だけではないだろう。

(敬称略)

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