相良博典・昭和医科大病院長ら上位10人で1億円以上を独占。「トップ層」の金満体質が浮き彫りに。
2026年4月号
DEEP
[トップに集まる謝金]
by
尾崎章彦
(医療ガバナンス研究所理事)

高額受領者の横手幸太郎氏が務めていた千葉大学医学部附属病院(病院紹介動画より)
本誌では過去三度にわたり、東京大学医学部を中心に相次いだ刑事事件を取り上げ、その遠因として、指導層が製薬企業や医療機器企業から多額の謝金を受け取っていた実態を明らかにしてきた。組織として自らを律するオートノミー(自律性)が十分に機能してこなかったことが、不祥事の一因となった可能性がある。
もっとも、この問題は日本の大学医学部全体に共通する構造的課題である。本稿では視野を全国の大学病院に広げ、指導層と製薬企業との金銭関係を検証する。

まず大学病院長である。大学医学部の教授は、一般企業でいえば部長級の役職に相当する。その教授たちを統括する病院長は、大学病院の最高責任者にあたる。
製薬マネーデータベースによると、2023年度に製薬企業から全82大学医学部附属病院(本院)の病院長84名(前職2名を含む)に支払われた謝金の総額は約2億6098万円だった。平均受領額は約311万円、中央値は約199万円。受領額は一部に集中しており、上位10人だけで約1億251万円と全体の約39%を占めた。
最も受領額が多かったのは昭和医科大学病院長の相良博典氏(呼吸器・アレルギー内科)で、約1548万円であった。相良医師は1987年獨協医科大学医学部卒業、2013年に昭和大学医学部内科学講座・呼吸器アレルギー内科学部門の主任教授に就任、20年4月から現職である。
相良氏は、グラクソ・スミスクラインから36件477万円、アストラゼネカから33件425万円の謝金を受け取っていた。両社はいずれも喘息治療薬の大手メーカーで、グラクソ・スミスクラインは吸入薬「アドエア」「レルベア」や抗IL‒‒5抗体「ヌーカラ」などを展開する。一方、アストラゼネカも「シムビコート」に加え、重症喘息治療薬「ファセンラ」「テゼスパイア」といった生物学的製剤を販売している。相良氏の専門の一つは気管支喘息であり、両社の講演会などに多く登壇した結果、謝金が積み上がった可能性がある。
さらに問題なのは、相良氏が24年以降、全国医学部長病院長会議の会長を務めている点だ。同会議は医育機関に共通する教育・研究・診療上の課題を協議し、日本の医学・医療の向上に資することを目的とする組織である。こうした公益性の高い組織の代表を、製薬企業との関係が極めて強い人物が務めていることは、日本の医学界の構造的問題を示している。
次に、医学部の実質的責任者への製薬マネーを検証する。具体的には、医学部長や医学系研究科長である。大学病院は医学部の附属機関であり、その長である医学部長は組織上、病院長より上位に位置する。ただし通常、その役割は臨床よりも学生教育や研究統括に重点が置かれていることが多い。23年度に製薬企業から82大学医学部の実質的責任者へ支払われた謝金の総額は、約1億2756万円だった。対象者の平均受領額は約156万円、中央値は約69万円である。受領額はやはり一部の大学幹部に集中しており、上位10人だけで約6042万円(全体の約47%)を占めた。

最も受領額が多かったのは、香川大学医学部長の西山成医師(約993万円)である。基礎分野である薬理学の教授であり、製薬マネー受領額が多い医師としてはやや異色の存在だ。西山氏は香川医科大学(現香川大学)出身で、薬理学講座教授などを経て現職にある。
西山氏が専門とする腎臓・循環器薬理の領域では、降圧薬や心不全治療薬など医薬品市場の大きい薬剤が多く、伝統的に、製薬企業による研究会や講演会も数多い。また西山氏は多忙な業務の傍ら、「生まれ変わる香大医とともに:医学部長ブログ」を高頻度で更新しており、その文章からは人柄もうかがえる。通常、講演会などの謝金は臨床医に集まりやすいところ、基礎研究者ながら多額の謝金を受領しているのは、そうした点が評価された結果かもしれない。
とは言え、そこに医師としてのあり方への信念はないのだろうか。循環器領域における製薬企業と医療者の密接な関係は古くから指摘されてきた構図であり、脱却すべきものだ。願わくは「生まれ変わる香大医」との言葉通り、製薬企業との関係においても新たな医師像を社会や学生に示してほしい。
最後に、大学学長における製薬マネーについて見ておきたい。医学部出身者が大学学長に就く例は少なくないが、その役割は当然ながら大学全体の統括である。大学人としてのいわば「上がりポスト」とも言えるが、少子化が進む中で、海外からの留学生受け入れや大学間再編など、大学の生き残りを左右する重責を担う立場でもある。
とりわけ、理事会の意向が強く反映される私立大学とは異なり、国公立大学では学長が組織のトップとして大きな権限と責任を持つ。その意味で、学長の行動は大学の姿勢そのものを示すものだ。

86の国立大学の学長のうち、医学部出身者は29人おり、そのうち23年度に製薬企業からの謝金を確認できたのは16人だった。受領額が最も多かったのは千葉大学長の横手幸太郎氏(糖尿病・代謝・内分泌内科)で、約1077万円と大学学長の中でも突出している。
横手氏は千葉大学医学部出身の研究者で、糖尿病やメタボリックシンドロームなど生活習慣病研究で知られる。同大学医学部教授や医学部附属病院長などを歴任し、現職にある。
一方で、以前から製薬マネーの高額受領リストに名を連ね、22年5月の本誌の分析では、16年から19年までの4年間で計8258万円を受け取っていたことが指摘されている。なお、横手氏が大学長に就任したのは24年だが、それ以前の20年以降も、病院長や副学長といった公益性の高い学内の役職に就いており、22年以降は、相良医師の前任として、全国医学部長病院長会議の代表も務めていた。
さて、指導層によるこうした振る舞いと、それを許してきた構造的問題は、大学病院の経営が厳しさを増す中で決して看過できるものではない。全国医学部長病院長会議によれば、24年度、大学病院全体の経常収支は508億円の赤字となった。これを受け、文部科学省は25年度に大学病院機能強化推進事業として349億円の補正予算を計上している。25年の消費者物価指数上昇率が3.1%に達するなど、インフレの影響で国民全体が負担を感じる中、大学病院は税金による支援を受ける立場にある。
当然、大学病院やそれを監督する大学医学部や大学本部の指導層には相応の説明責任と自律が求められる。むしろ自らの給与を見直すなどの改革に踏み出してもよい立場だ。本来業務の外で製薬企業から講演料名目の謝金を受け取っている場合ではない。仮に、東証プライム上場企業の社長が本業を差し置いて外部講演などで収入を得ながら、「会社が赤字だから公的資金を投入してほしい」などと訴えていたら、世間の嘲笑と誹りを免れない。残念ながら、それが多くの大学病院の実態である。
何より、大学病院の経営に対する当事者意識の希薄さ、危機感の欠如が透けて見える。診療科の構成やポスト数を含めた医療提供体制は、単に従来の延長線上で語られることが多く、どの診療科が赤字で、どう改善するのかという個別具体的な議論が十分とは言い難い。地方を中心に人口減少が進む中、現在と同じ数の大学病院や診療部門を維持し続けることは現実的ではない。大学病院であっても、医療提供体制をゼロベースで見直す覚悟が求められる。
そしてもう一つ、忘れてはならないのは、その姿を医学生や若手医師も見ているということだ。
現在、医療界では「直美」、すなわち初期研修後すぐ美容医療に進む医師が増えていることが問題視されている。22年の調査では約198人に達し、過去10年で12倍に急増したとされ、地域医療の人手不足が懸念されている。
ただ、これは若手医師なりに自己最適化を図った結果に過ぎない。大局的に見れば、指導層が厳しい病院経営の下に自らの収入を最大化しようとするのと、本質は変わらないのだ。いずれも、社会の信頼や期待に応える行為とは言い難く、結果として医療界への信頼失墜にもつながりかねない。
であれば、若手医師だけを批判する議論には違和感がある。若手医師は組織の中で職業規範を学ぶものであり、指導層の振る舞いがその価値観に大きな影響を与える。
職業倫理は講義で教えられるものではない。組織のトップが何を重視し、どのように行動するのか。その姿こそが、次世代の医師の価値観を育て、形づくる。