宇宙開発に黄信号/衛星同士が「壊滅的衝突」

デブリが雲のように地球を覆い、人類は永遠に孤立した地球に閉じ込められることになりかねない。

2026年2月号 BUSINESS
by 倉澤治雄 (科学ジャーナリスト)

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地球を取り巻くデブリ(宇宙ゴミ)

世界で初めて人工的に雪を創り出すことに成功した物理学者中谷宇吉郎は、『雪は天からの手紙』と題する素晴らしい随筆集を書いたことでも知られる。中谷は3000もの雪の結晶を分類し、顕微鏡で見る美しい雪の構造が、「天」の温度や湿度の変化とどのような関係にあるのか、平易な言葉で綴ったのである。

天から降ってくるのが雪であれば心は和むが、数百キロの金属塊が突然降ってくるとなると、地上の人間には脅威となる。実はそんな事態が頻発している。

ケニアに落下した金属性リング

24年12月、ケニアの村に重さ約500キロの金属リングが落下し、衝撃音が村民を驚かせた。金属リングはロケットの部品だったが、どの国のロケットか、いまも不明である。25年1月、中国貴州省では「長征3型B」のブースターが民家近くに落下、残っていた燃料のヒドラジンが爆発した。ヒドラジンは有害物質である。

軌道上に1万5860基

オーストラリアに落下した中国製ロケット残骸

同年2月にはスペースXの再使用型ロケット「ファルコン9」の2段目がポーランド・ポズナンの民家の裏庭に落下した。幸いけが人はなかったが、倉庫などが破損した。さらに10月にはオーストラリア西部の道路に中国のロケットの一部とみられる約300キロの金属塊が落下した。

極め付きは史上最大のロケット、スペースXの「スターシップ」だ。25年1月に行われた7回目の試験飛行で空中分解し、航空機の運航に影響が出た。米連邦航空局(FAA)の調査によると、航空管制官が飛行中の3機に急遽航路変更の指示を出したが、3機は燃料切れを回避するため、破片が落下するゾーンを通過せざるを得なかったという。ウォール・ストリート・ジャーナルは「ロケット事故が3機の飛行機に乗った450人を『極度の安全上のリスク』にさらした」と伝えた。これに対しスペースXは、「事前に調整された危険区域内に破片は収まった」と反論した。

米フロリダ州上空のスターシップの破片

25年のロケット打ち上げ成功回数は全世界で317回と10年前のほぼ4倍に増加した。米国が192回で、うちスペースXは165回を占めた。中国は92回だった。欧州宇宙機関(ESA)によると、1957年の「スプートニク・ショック」以来、打ち上げられたロケットの数は7070機に達した。また地球軌道上に投入された衛星数は累計2万3770基で、現在も1万5860基が軌道上にある。10年前は1500基ほどだったことから、この10年で宇宙環境は様変わりした。天に唾するかのように、宇宙空間の物体は一部が宇宙デブリとなって地上めがけて落下する。

中国の宇宙ステーション「天宮」で25年10月、連結されていた宇宙船「神舟20号」に宇宙デブリが衝突、窓が破損して帰還予定だった宇宙飛行士3人が「足」を奪われる事態となった。3人は10月31日に打ち上げられた「神舟21号」で無事帰還したが、今度は交代した3人の「足」を確保しなければならない。中国は11月25日、無人の「神舟22号」を打ち上げて、ようやく帰還用の輸送手段を確保したのである。天宮は5月と8月にシールドなどの防護措置を施したばかりだった。

ESAによると地球軌道を回る物体の総量は1万5100トンで、追跡可能な宇宙デブリは4万3510個である。10センチを超えるデブリは5万4000個で、1センチから10センチは120万個、1ミリから1センチとなると1億4000万個と急激に増加する。デブリは秒速10キロメートルを超える猛スピードで飛び交うことから、わずか1ミリでも破壊力は大きい。

地球低軌道では大量の衛星を軌道に投入するメガ・コンステレーションの構築が進行中である。スペースXのスターリンクは25年10月に打ち上げ数が1万基を超え、8600基超が運用中である。設計寿命は5~7年で、役割を終えた衛星は大気圏に突入して燃え尽きる仕組みとなっている。他の衛星との接近やデブリとの衝突を回避するため、年間30万回近い衝突回避操作が行われる。スペースXは26年1月、衝突事故を減らすため、4400基の高度を550キロメートルから480キロメートルに変更すると公表した。

中国もまたメガ・コンステレーションを構築中で、中国衛星網絡集団の「国網」が約1万3千基、上海垣信衛星科技(SSST)の「千帆」が1万5千基を打ち上げる計画だ。さらにAmazonの「プロジェクト・カイパー」、英国の「OneWeb」、米国の「AST Space Mobile」、欧州の「IRIS スクエア」などが目白押しで、数年後には10万基近い衛星が空を覆うことになる。

25年12月、中国が中型ロケット「力箭1号」で打ち上げた衛星のうち1基が、高度560キロメートルの軌道上でスターリンク衛星と衝突直前まで接近した。距離はわずか200メートルだった。衛星同士の衝突は大量の宇宙デブリを生む。09年2月、米通信衛星「イリジウム33号」とロシアの「コスモス2251」が高度790キロメートルの軌道上で衝突し、追跡可能なデブリ2300個以上、微小デブリ数万個を発生させた。

宇宙は広いと思われがちだが、1996年にはフランスの偵察衛星「CERISE」とESAのアリアンロケットの破片が衝突、2013年にはロシアの衛星「BLITS」が中国の気象衛星「風雲1号C」のデブリと衝突して新たなデブリを発生させた。衝突や爆発など不測の事態で分解した衛星は650基に上る。

その「風雲1号C」は07年1月に中国が行った対衛星兵器(ASAT)実験で標的として使われた。3千個以上のデブリが発生し、現在も高度865キロメートルから3600キロメートルの軌道上に分布する。

「ケスラー・シンドローム」

中国、ロシアはスターリンクを標的とした対衛星兵器の開発を急ぐ。スターリンクは民生用以外に軍事用の通信も担っているからである。「スターシールド」と呼ばれるシステムは、スターリンクのインフラを使いながら高度な暗号化とセキュリティを備える。すでに200基のスターシールド衛星が打ち上げられた。米宇宙開発庁(SDA)は480基の専用衛星から成る軍用データ通信システム「MILNET」を構築中で、将来、「ハイブリッド・メッシュ・ネットワーク」としてスターシールドを統合する計画だ。

中国は台湾全域のスターリンクを効果的に遮断するための対衛星兵器を開発中といわれる。ロシアは「トボル」「カリンカ」といったスターリンク・キラーをすでに開発しており、ウクライナ戦線でネットワークに接続した端末の検出に威力を発揮している。

AP通信は12月23日、「ロシアが数十万個の高密度ペレットを軌道上にばら撒く作戦を準備中である」とのNATOの情報を伝えた。事実なら自国の衛星を含め、多くの「巻き添え衝突」が生じることは確実である。カナダの研究者らが25年12月、衝突回避操作ができなくなった場合、衛星とデブリの衝突にどれほどの時間がかかるか計算したところ、「2・8日で『壊滅的衝突』につながる可能性が高い」との結論に至った。「クラッシュ・クロック(衝突時計)」と呼ばれる。

では「壊滅的衝突」とは何か?

軌道上の宇宙デブリが一定の密度を超えると、衛星とデブリの連鎖的な衝突により、新たなデブリが次々と生成される。「ケスラー・シンドローム」と呼ばれる。最後は爆発的に増加したデブリが雲のように地球を覆うことになる。カナダの研究者らは、すでに「ケスラー・シンドローム」の初期段階にあると警告する。

急激な宇宙環境の劣化により、宇宙開発は今、岐路に立たされている。有人月面探査や宇宙旅行はおろか、人類は永遠に孤立した地球に閉じ込められることになりかねない。

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倉澤治雄

科学ジャーナリスト

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