「国宝」「鬼滅」に浮かれる東宝/「1人勝ち」の裏に潜む「泣き所」

東映、松竹を慮る余裕を見せるが、好業績に隠れた課題が、いつか足かせに。

2026年2月号 LIFE

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業績好調で、鼻高々の東宝・松岡宏泰社長(HPより)

映画大手の東宝が絶好調だ。「あまり出たがらない」(東宝関係者)と評判だった松岡宏泰社長も就任当初と比較して、よりメディアに露出するなど鼻高々だ。投資家からの評価も芳しく、株価も高水準を保っている。ただ、死角がないわけではない。

配給する「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」は、東宝の発表によると昨年11月半ば時点で、国内の観客動員が2604万人超、興行収入は379億円となっている。

前作の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は国内興行収入が約400億円で、これは実写も含め歴代国内興行収入の1位となっていた。この記録の更新も視野に入ってくる。

一般的に国内の邦画は興行収入が10億~20億円を超えれば、ヒット作と位置づけられる。興行収入300億円超という「お化けコンテンツ」が一作品あるだけでも大きな意味を持つが、いまの東宝はそれだけにとどまらない。

配給を手がけ、「ここまでヒットするとは思わなかった」(東宝関係者)という実写で歌舞伎を題材とした「国宝」までもが「鬼滅」に負けず劣らずのヒットとなっているのだ。

同作は2025年6月の公開以降、SNSを中心に口コミで評判が広がった。11月24日までで、興行収入173億円を突破し、邦画実写の歴代興行収入ランキングナンバーワンの座を手にした。以前の歴代1位は「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」だ。こちらは03年公開の作品で、「国宝」の快挙が数字以上に大きいことを物語る。

はしゃぎっぷりが高じてか、本家への「出前」まで果たした。歌舞伎の聖地である東京・歌舞伎座で、25年の大晦日に同作の特別上映会を実施したのだ。歌舞伎座を事実上運営する松竹と共同で主催した。普段ならば松竹も受け入れぬ案件かもしれないが、国宝効果をテコに本家である松竹の歌舞伎の興行も好調に。異例のタッグとなったようだ。

東宝グループの2026年2月期の興行収入10億円以上の映画(25年9月末時点)は、「名探偵コナン」「8番出口」など計14本。東宝社員からも「うちはいいですが、東映さん、松竹さんとかは大丈夫ですかね?」と他社を慮る余裕をみせるほどだ。

昨秋に発表した26年2月期決算の業績予想は、上方修正。営業収入(売上高)は前年比15%増の3600億円になると示した。過去最高となる数字だ。利益も上方修正。営業利益は0.5%増の650億円、純利益は9.6%増の475億円。いずれも過去最高となる見通しだ。

好調な「アニメ」が中計の柱

邦画実写の興行収入で歴代1位を獲得した「国宝」(HPより)

東宝の松岡社長はグループをつくった小林一三の曾孫にあたる。元テニスプレーヤーの松岡修造の兄としても知られている。14年から取締役に名を連ねていたが、22年に満を持して社長の座に就いた。

その松岡氏が、社長として初めて本格的に関わったのが、25年に出した「中期経営計画 2028」だ。営業利益を28年2月期までに700億円以上とするものだ。

計画元年にあたる26年2月期の予想で、営業利益の水準はほぼ達成が見込まれている。だが、長期的には、創立100周年となる32年2月期までに750億~1000億円の営業利益の確保を掲げる。

その柱となるのが、アニメだ。祖業の映画・演劇・不動産に加え、アニメを第4の柱に据え、海外事業の拡大を狙う。中計でも「2032年までに(25年2月期対比で)IP(知的財産)・アニメ事業の営業利益200%以上を目指す」という高い目標を掲げた。具体策として、アニメ人材を倍増し、海外でのコンテンツIP運用の内製化を図る。加えて、ファンビジネスの拡大やゲーム開発・展開で目標を達成させる計画だ。実際、アニメが東宝の業績を下支えしていると言っても過言ではない。26年2月期の興行収入10億円以上の作品のうち、鬼滅含む5作品がアニメだ。

ただ、ここに大きな弱点が隠れているとも言える。5作品をみると、鬼滅の刃、名探偵コナン、ドラえもん、チェンソーマン、クレヨンしんちゃん。どれも漫画を原作にもつ作品ばかりだ。

当たらない「オリジナル」作品

ある東宝関係者は「オリジナル作品が全然当たらないのです」と打ち明ける。

例えば、24年に公開された「きみの色」。こちらは原作がないオリジナル作品で、女性アニメ映画監督として著名な山田尚子氏を監督として迎え入れた作品だ。東宝も配給のみならず、製作委員会に入り、実際の現場の制作も東宝系で固めた。だが、国内の興業収入はというと最終的に4億円弱となった模様だ。

「きみの色」に関しては、東宝もそれ相応のプロモーションを実施した。他のオリジナル作品も不発に終わることが常態化している。こうした状況を受けて、前出の関係者は「そもそもオリジナル作品をやるのにかなり社内でもハードルが上がっている」と打ち明ける。

ここ最近のヒット作も「呪術廻戦」「僕のヒーローアカデミア」「SPY×FAMILY」と、IPを原作の出版社が抱えているものが目立つ。いわば「借り物」のIPで稼いでいるといえる。

オリジナル作品はヒットすれば、映画にとどまらず、アニメ、ゲーム、グッズなど多様なIP展開が見込める。海外配信や企業とのコラボによるライセンス収入なども含めると、自社に莫大な利益が転がり込むことになる。コンサル会社のスペックホルダーの試算によると、「鬼滅」の場合は、国内で5千億円以上の経済効果を生み出したという。いかにコンテンツIPの威力が大きいかがわかる。

もっとも、これは東宝に限らず、日本のアニメ業界全体が抱えた課題といえる。アニメ業界関係者は「漫画原作だけに頼っていてはまずい」と危機感を示すが、そこに頼れば安心とばかりにオリジナルをヒットさせる気概は業界からそがれている。

ただ、アニメを柱として位置づける企業として、業界のトップリーダーの東宝がここに及び腰というのは、いかがなものか。

「鬼滅」がそうであるように人気漫画も連載が終われば、最新作の供給には限度が出てくる。「IP・アニメ事業の営業利益200%以上」の目標も原作モノ頼りでは限界もあるだろう。

好業績に隠れたこの課題は、いつか大きな足かせとなって顕在化するかもしれない。

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