浜岡原発に情報操作疑惑/中部電力歴代3社長「辞任」不可避

浜岡原発で前代未聞の不祥事が続発。他の原発に影響が出ないような小細工がありあり。

2026年2月号 BUSINESS

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中部電・林社長の辞任は不可避だろう

Photo:朝日新聞社/Jiji

「浜岡は30年以内に発生確率87%の巨大地震の震源に立地する。事故を起こせば東海道新幹線や東名高速などの大動脈や自動車産業が打撃を受け、100万人単位の避難が必要になる。そうなれば日本はもたない」

発表に時差を設ける

東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所の事故発生から約2カ月後の2011年5月6日、当時の内閣総理大臣菅直人(79)は中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の「すべての原子炉」の運転停止を要請した。

「現職総理の超法規的要請」の対象になったのは09年1月30日に運転を終了し廃炉が決定済みの1、2号機を除く3基の原子炉(3号機は10年11月29日から定期点検で休止中、運転中は4、5号機の2基)だった。あれから15年、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界真上に立地し「世界で最も危険な原発」との異名がある浜岡原発の発電量は「ゼロ」のままだ。

そんな札付きの原発を巡り、前代未聞の不祥事が立て続けに表面化した。まず25年11月27日に中部電が明らかにした安全対策工事代金の未精算問題。同社は14年2月に4号機、15年6月に3号機について再稼働を原子力規制員会に対し申請した。

「浜岡原発は津波対策が決定的に不足している」との指摘を受け、中部電は11年7月に約1千億円の予算で全長約1.6㎞、高さ18mの防波壁の建設計画を打ち出したが、浸水防止設備などの費用が嵩み12年12月の完成時に工事費は約1400億円に膨らんだ。

その後、南海トラフ地震の最大想定の津波を18mの防波壁では防げないことが明らかになり、13年9月に高さを4m引き上げ22mにする工事に着手。これに40mの高台に設けたガスタービン発電機やフィルター付きベントの設置費用が加わり工費は3千億円に膨張する。ところが、24年11月に南海トラフ地震の最大想定津波が見直されると、防波壁の高さはさらに6m追加され28mに嵩上げ。安全対策費は累計で4千億円に積み上がる見通しとなった。

15年間動かない設備にズルズルと巨費を注ぎ込む。一般企業ならとっくに減損処理を迫られるはずが、電力会社には経済産業省が定めた様々な特例が認められている。中部電の歴代経営トップは「浜岡3~5号機で年間約2500億円の収支改善効果がある」という15年間変わらない“お題目”を唱え、無理筋の再稼働にこだわり続けた。

当然のことながら、現場の原子力部門にはプレッシャーが掛かる。「規制委の手続きや安全対策工事を急がなければ」「膨張一途の工費を抑えなければ」といった焦りからか、中部電の原子力部門は社内規則を無視して浜岡原発の安全対策工事を発注し、精算手続きも行わず、100億円規模の未払いが生じた。

同日開いた記者会見で中部電社長の林欣吾(65)は「心からお詫びします」と謝罪し、副社長執行役員兼原子力本部長の伊原一郎(64)と執行役員兼原子力部長の名倉孝訓(57)が11月30日付で引責辞任することを明らかにした。ただ、原子力部門を預かる2人の辞任は当然として、経営トップの処分については言及がなかった。

未精算の工事が行われた期間は13年2月~19年5月。林の前任である現会長の勝野哲(71)、さらに2代前の現相談役の水野明久(72)が社長を務めていた時期である。「なぜトップの責任が問われないのか」。電力業界周辺にはクビを傾げる向きが多かったが、その謎は年明け早々に解けた。浜岡原発にもっと大きな“爆弾”があったのだ。

26年1月5日、中部電社長の林は再び「不祥事」をお詫びする記者会見を開いた。浜岡原発3、4号機の再稼働を審査する規制委の会合で「当社による説明内容と異なる方法や意図的な方法で実施されていた疑いがあることが確認されました」(中部電プレスリリース)。回りくどい表現だが、要は安全審査の場に提出したデータの捏造である。

審査で最も重要とされる「基準地震動」について同社は複数のプレート間地震やプレート内地震などを想定。断層が壊れる過程を追った20通りのモデルを設定し、それぞれの地震波を計算した中から最も平均値に近いセットを「代表波」として選んだと19年の審査会合で説明していた。

しかし、実際は20通りのモデルを設けた複数のセットを予め用意し、その中から都合の良いものを1セット選び規制委に提示。林は記者会見で「代表波を意図的に選定し、地震動を過小評価していた」と認めた。

安全対策工事費の未精算問題と再稼働審査データの捏造。2つの“浜岡スキャンダル”には公表のタイミングに約1カ月の時差がある。だが、中部電やその背後に控える経産省の動きを辿れば、「原発回帰」の流れに棹を差すことになるため、慎重かつ巧妙な「情報操作」が行われた疑いを拭えない。

基準地震動のデータ捏造が発覚したのは「中部電力が説明と異なる計算をしている」という25年2月の規制委への外部通報がきっかけだった。原子力規制庁が水面下で調査に着手。中部電にデータ提出を要請したのは同年10月とされるが、通報から公表まで1年近くを要したのは緩慢と批判されても致し方ない。

少なくとも11月27日の未精算問題と同じタイミングで公表できなかったのか。振り返れば、11月下旬は経産省と電力業界が待ち侘びた2カ所の原発再稼働が前進した時期に重なる。

新潟県知事が東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)6号機の再稼働について「容認」を表明したのは21日、同様に北海道知事が泊原発(北海道)3号機の「容認」を打ち出したのが28日だ。不祥事を小出しにするのなら、未精算問題を先に出し、より深刻で世間の大きな反発が予想されるデータ捏造を後回しにするのが常道だ。

もう1つ。未精算問題で辞任した伊原は24年4月1日付の役員人事で代表取締役のまま専務から副社長に昇格するが、僅か3カ月足らずの同年6月26日の株主総会で取締役を退任。にもかかわらず、未精算問題で辞任する25年11月30日まで副社長兼原子力本部長の座にあった。「原子力関連の不祥事発覚が予想され、その際にクビを差し出すために留め置かれたのでは」との見方が業界関係者の間で囁かれている。

歴代3社長の辞任は不可避

02年に発覚した東京電力トラブル隠し問題では在任中の南直哉以下、荒木浩、那須翔、平岩外四の歴代社長4人が辞任を余儀なくされた。中部電では技術系の勝野と営業畑の林が役員人事などを巡り対立。「会長VS社長」の構図の激しい内部抗争の残響がしばしば漏れ聞こえてくるが、水野を含む歴代3社長の辞任は不可避だろう。そして「最も危険な原発」は今度こそ万事休すだ。(敬称略)

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