深層レポート/「創薬基金」創設/武見敬三と中外・永山治が暗躍

大戦時の「国産製薬所」がモデル。補正予算で241億円を計上。新法人「創薬エコシステム協会」設立は補助金目当てか。

2026年1月号 LIFE

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武見敬三元厚労相(本人のXより)

7月の参議院選挙で落選した武見敬三元厚生労働大臣(74)が、創薬の支援事業をめぐり暗躍している。厚生労働省は11月20日付で、官民連携で創薬を支援する新組織「革新的医薬品等実用化支援基金」(通称・創薬基金)を発足。2025年度補正予算案で、この基金の事業に241億円を計上した。同じくして、武見氏は創薬支援のための一般社団法人の設立を準備。基金の補助金が目当てではないかと見られている。

永山・武見の「老害コンビ」

創薬エコシステムサミットで挨拶する岸田首相(2024年7月、官邸HPより)

創薬基金は、武見氏が岸田文雄政権で厚労相を務めていたときに浮上した「いわくつき」の構想だ。岸田政権は内閣官房に「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」を設けた。その会議で自治医科大学の永井良三学長が、創薬スタートアップをサポートする「先端創薬機構」なる株式会社の設立を提案したのが発端となる。

永井氏といえば東京大学医学部附属病院長を務めた医療界の重鎮。永井氏は創薬力を高めるには、政府と民間企業が出資して株式会社をつくり、創薬スタートアップに投資すべきと主張。医薬品産業の育成を経済安全保障と位置付け、官民連携の必要性を説いた。

永井氏がモデルにしたのが、第一次世界大戦時の国策会社「国産製薬所」。戦争で薬の輸入が途絶えたため国と製薬企業が協力し、国産製薬所が薬を製造したという。永井氏の構想は会議の報告書に盛り込まれなかったが、その後、武見氏が岸田政権の中で後押しした。

岸田政権は24年7月に、首相官邸で国内外の製薬企業やベンチャーキャピタル(VC)を招いて「創薬エコシステムサミット」を開催。創薬を日本の「基幹産業」と位置づけ、スタートアップへの民間投資額を28年には倍増し、企業価値100億円以上の会社を新たに10社以上創出する目標を掲げた。武見氏はこの政策の目玉に創薬基金を据えた。

中外製薬の永山治名誉会長(Youtubeより)

政府が創薬に関してサミットを開くのは異例の出来事で、突如として岸田元首相が開催した裏には、中外製薬の永山治名誉会長(78)とのつながりがある。両氏は、もともと長期信用銀行(現・SBI新生銀行)の出身で、永山氏が先輩に当たる。外資系製薬企業の元役員は「岸田氏に創薬の重要性を説いたのは永山氏とされる。基金の創設も永山氏と武見氏のラインによるもの」と語る。

永山氏は、中外製薬の発展に貢献した立役者。社長時代には、02年にスイスの製薬企業ロシュの傘下に中外が入ることを決断し、ロシュの子会社でありながら、中外としての「自主経営」を貫き、国内で時価総額トップの製薬企業に育てあげた。

社長を退いてからも、一般社団法人バイオインダストリー協会の理事長を歴任するなど、業界のドンとして知られる。スタートアップの重要性を訴えてきたのも永山氏だった。

新薬を見出すのは製薬企業と思われがちだが、世界の新薬の6割以上は新興企業(エマージング・バイオファーマ、EBP)から創出されている。製薬企業はEBPを買収したり、開発品を買い取ったりして新薬を揃えている。日本の創薬力低下の原因のひとつが、EBPの乏しさ。米国では新型コロナウイルス感染症が流行したとき、モデルナに代表されるような新興企業が頭角を現したが、日本にはそのような企業はなく「ワクチン敗戦国」と揶揄された。

モデルナ誕生の背景には、VCの米フラッグシップ・パイオニアリング社の存在があり、資金面・人材面で支えていた。このため日本でも国庫を投入するとともに、VCに呼びかけてスタートアップに投資してもらう仕組みが経済産業省を中心に進んでいる。そこで厚労省もこの流れに乗り創薬基金をつくり、スタートアップに投資しようということだが、問題は資金集めにある。

厚労省は国庫に加え、製薬業界からも拠出を打診。新薬企業を中心に、収益に応じた拠出金の「義務化」を提案したが、これが不評を買った。

製薬業界は、ただでさえ毎年、薬の価格を政府に下げられているのに、さらに拠出金を取るのかと猛反発。米国研究製薬工業会と欧州製薬団体連合会が24年12月に共同声明を発表して抗議する事態を招いた。新薬企業に対する「課税のようなもの」との批判も飛び出し、厚労省は義務化の案を引っ込めざるをえなくなった。

創薬が経済安全保障上、重要というのは分かる。スタートアップに国費を投入する方針も間違っていないだろう。だが、戦中のように民間企業にまでカネを出せと強制するのはどうか。「老害」という言葉は使いたくないが、あまりにも旧態依然とした考えだった。

高市政権で息を吹き返す

製薬企業が拠出金に賛同しかねた理由はほかにもある。国内大手製薬企業の元役員は「自民党の古川俊治参院議員が反対しており、面倒なことになりそうだった」と振り返る。そもそも基金の話は、医療分野の投資を担う国立研究開発法人「日本医療研究開発機構」(AMED)で、新薬につながる成果が乏しいとの指摘があったという事情がある。永井氏も「AMEDは予算不足で、スタートアップに対する十分な支援体制(資金・人材)が整備されていない」と問題視していた。

このような指摘に敏感に反応したのが、党内でAMEDの予算に発言力を持つ古川氏だった。古川氏は厚労族だが、武見氏とウマが合わないのか、それとも利権争いなのか、基金の構想を批判。「厚労省の官僚が新たな天下り先をつくろうとしている」との情報も流れ、創設が疑問視された。武見氏は当時から、基金とは別に補助金の委託先となる一般社団法人をつくろうと目論んでおり、それが天下り先になると疑われた。

いずれにしろ製薬企業に対する拠出金の義務化は頓挫。基金の構想も途絶えたと思いきや、厚労省は諦めず、動物実験施設や治験薬製造施設を整備する事業を運営するという名目のもとで設立をしぶとく画策した。関連法案が通ると、11月に大阪府にある国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」内に創薬基金を開設。そして高市政権が戦略分野に「創薬・先端医療」を位置づけると、ここぞとばかり241億円もの予算案を計上した。

さらに、ちゃっかりとスタートアップ支援事業をゾンビのように復活させると、説明資料に資金は国庫と「民間からの出捐金(寄附金)」に頼ると明記。義務化ではなく、あくまで寄附という形なので構わないだろうという論法だが、製薬企業としては、新薬の承認と薬価の決定権を持つ厚労省の機嫌を損ねれば、後でどのような不利益を被るか分からない。国内製薬企業関係者は「結局、カネを出せということか」と嘆く。

しかも、基金の受け皿の候補となりそうなのが武見氏が主導し、25年12月に設立された一般社団法人「日本国際創薬エコシステム協会」(仮称)。武見氏が基金の補助金を差配し、創薬支援事業を牛耳る思惑は見え見えだ。仮に寄附金を出せば、その一部が懐に流れても不思議はない。参院選に落ちて引退宣言した武見氏は、いつまで厚労族のドンに居座るつもりか。武見氏も永山氏も、晩節を汚すような真似だけはやめてほしいものだ。

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