米国が求める防衛費増額。投入先として米国の中古原潜に白羽の矢も
2026年1月号 DEEP

米原潜の購入を検討している防衛省(HPより)
高市早苗政権が原子力潜水艦の保有議論に前向きな中、米国から中古原潜を購入し、将来的な国産化に道筋をつける案が政府内で浮上している。米英豪の安全保障枠組み「AUKUS」に正式参加した上で、まず米海軍で運用されている「バージニア級」を調達して戦力化に取り組むというプランだ。韓国や北朝鮮ですら原潜に手を伸ばそうとする中、日本政府も真剣に保有を検討せざるを得ない安全保障環境となっている。
「米国は日本の原潜保有に反対しない。予算に人員と課題山積だが、要は政治家が腹を決められるかどうかだ」
防衛省幹部はこう意気込む。
政府内で密かに取り沙汰されているのは、同じく原潜保有を目指すオーストラリアをモデルに、①AUKUSの協力を仰ぎ、海上自衛隊の乗組員育成、日本国内に原潜用施設整備②米海軍からバージニア級購入③米英豪共同開発の原潜建造計画に加わり国産化―という3段階の工程だ。現状、日本はAUKUSの正式メンバーではないが、すでに先端技術の研究・開発協力で実績がある。
AUKUSに日本が加わるという構想は突飛なものではない。2023年には自民党の麻生太郎副総裁がオーストラリアで講演した際、日本も参加して「JAUKUS」にしてはどうかと打ち上げた。
AUKUS参加の障壁として日本のインテリジェンス機能の脆弱ぶりも識者の間で指摘されていたが、高市政権が日本版CIAといわれる「対外情報庁(仮称)」創設やスパイ防止法制定に取り組んでいることを米英豪は高く評価している。日本政府関係者は「参加に向けた政治環境は整いつつある」と語る。
世間ではタカ派色の強い高市政権が誕生したことを契機に、政府内で突如として原潜建造が検討されるようになったと思われがちだが実態は異なる。萌芽は石破茂政権末期の25年9月に公表された防衛省の「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」の提言にあった。ここでは潜水艦に関し、「次世代動力を活用する検討も含め、必要な研究を進め、技術開発を行っていくべき」と明記された。
防衛省側は「次世代動力」は全固体電池や燃料電池も想定しうると表向きは説明しているが、本命は原子力だ。有識者会議では、原潜を想起させかねない文言を盛り込むことには「無用なハレーションを生みかねない」(出席者)として慎重な意見もあった。それでもこの文言が残ったのは、有識者の提言という体裁をとることで原潜保有議論の突破口を開きたいという政府内の政治力学が働いたためだ。
防衛省・自衛隊の一部OBたちにとって、原潜の二文字は甘美な響きを持つ。原潜は理論上無限の航続距離を誇り、定期的な浮上の必要もない。水中でも高速移動でき、通常動力艦よりも戦闘力で優れる。原子炉の出力は大きく、より多くの兵器・装備の搭載も可能だ。
政府は26年末までに安全保障関連3文書を改定し、防衛費を対GDP比2%としてきた従来目標を上方修正する見通しだ。仮に米国が水面下で求めている対GDP比3.5%水準を目指すとなれば、防衛費は20兆円を超える規模となる。
ただ、防衛費を増額しても、現状ですら国内の防衛産業は余剰生産力が不足しているため、使途に困りかねないとの見方がある。1隻当たりの建造費が約1兆円と高コストゆえに保有が難しいと見なされてきた原潜だが、増額される防衛費の投入先として白羽の矢が立つ可能性は十分ある。