メットライフ生命が人事「内紛」/金融庁が「あこぎ変額保険」に激怒/後任の「社長探し」も迷走

号外速報(11月17日 16:30)

2025年12月号 BUSINESS

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メットライフ生命のディルク・オステイン社長(同社の公表資料より)

米国系生命保険会社であるメットライフ生命保険が内紛に揺れている。

代理店部門のトップが事実上解任され、「責任のなすり付け合い」が繰り広げられている。

一方、後任の社長候補探しが行われているが、外部人材から次々と断られるなど、内部崩壊の様相を呈している。

えげつなく、あこぎな、社内向け資料

クビになった代理店部門担当の滝内榮世執行役員常務

メットライフ生命(旧アリコジャパン)は世界有数の保険グループの米メットライフの日本法人で、1973年に外資系として初めて日本で営業を開始。2024年度の保険料等収入が2兆2106億円と外資系のなかでは首位に立つ。

そんなメット社の社員らに今月、一通の文書が届いた。

「代理店部門のリーダーシップ変更についてお知らせします」

こんなタイトルで代理店部門責任者である滝内榮世・執行役員常務の退任を伝えるものだった。滝内氏は11月末に執行役員を外れ、来年3月末には会社からの籍もなくなるという。通知文では滝内氏について「素晴らしいリーダーシップを発揮した」「外資系では初となる女性の営業チャネルヘッドとして代理店部門の成長を牽引された」などと持ち上げ、「勇退」だと表現している。

だが、実態はまるで異なるようだ。同社関係者がぶちまける。

「彼女は本来、任期をもう1年延長する予定でしたが、『金融庁案件』の戦犯としてクビを言い渡されたんです」

「金融庁案件」とは何か――。

メット社は6月、乗合代理店への営業を担う社員(ソリシタ)向けに資料を作成した。自社の新商品「ライフベストネクスト」の魅力を代理店に伝えるための資料だったが、その内容はえげつなく、あこぎなシロモノだった。

「募集人心理」くすぐる推奨トーク

ライフベストネクストは、契約者が毎月一定額の保険料を支払うタイプの変額保険。

保険料の一部が投資信託などで運用され、保険期間中に死亡すれば一定額の保険金がおりる。満期時には満期保険金がもらえるが、運用成績次第で増えたり、減ったり変動する。この種の変額保険は、NISA(少額投資非課税制度)などの資産形成ブームに乗って、販売が増えている。

先の社内資料には、この変額保険の勧誘現場での会話例が示されていた。

*募集人「投資は長期・積み立て・分散が大切なので保険期間をできるだけ長くすることが大切です。満期時の下落を避けるためにも80歳満期がお勧めです」

*顧客「65歳で退職するし85歳まで払い続けられるか心配です」

*募集人「65歳の退職時に払済みにすれば保険料は払わず運用を継続できます!」

この会話例の下に「募集人心理」というタイトルの項目があり、そこには「最高手数料で販売したい→保険期間33年以上での販売」などと記され、結論として「最終的には払済み話法」を推奨する趣旨が書かれていた。

一体、どういうことか――。

変額保険は保険期間の長い契約を結ぶほど、募集人が得る手数料(成功報酬)が高額になる仕組み。この資料は、顧客に長期間の契約を勧めるのは単なる売り文句。要は長い契約を結ぶほど募集人の実入りが増えることを、あからさまにアピールしたものだ。

さらに募集人が提案する「払済み」も、およそお勧めできない。払済みは解約せずに途中で保険料の支払いを停止する制度だが、一見便利に見えて固有のリスクがあり、実は顧客が損をする可能性が高いからだ。

そもそも困窮して保険料が払えなくなった場合などに使われる例外措置であり、「長期積み立て」の有利性を説きながら、安易に払済みを勧めること自体、矛盾している。

「比較推奨」を歪曲する営業戦略

怒り心頭の金融庁

それだけではない。メット社の募集人手数料は異常なレベルになっている。

契約期間が最も長い契約などでは、初年度だけで最大120%の手数料がもらえる。月2万円の保険料だとすると、初年度の28万8000円(年間24万円の2割増し)が、募集人の手に入る計算だ。

資料では、他生保との手数料率を比べ「他社を凌駕する魅力的なコミッション」と、嬉々としてアピールしていた。

複数の保険会社の商品を取り扱う乗合代理店は、中立・客観的に顧客の意向に沿って勧誘しなければならない。いわゆる「比較推奨」のルールが大前提だ。

仮に逸脱した販売が確認されれば、金融庁から業務改善命令などの厳しい措置が出る可能性もある。この資料は比較推奨を歪曲する、あざとい営業戦略と言わざるを得ない。

ところが、営業担当者が無邪気にも、この資料を代理店側に渡してしまい、一気に拡散した。

「手数料しか興味ないだろうと、我々を馬鹿にしている」と憤った一部の代理店が金融庁にタレ込んだとされる。

当然、金融庁はブチ切れて幹部を呼びつけた。だが、話はこれだけで終わらない。

最高営業責任者が無傷はオカシイ

「世界とずっと。もしも私が、100まで生きるなら。」が、キャッチフレーズのメットライフ生命

メット社で現在、当局窓口の責任者は、企画調査担当の女性執行役員常務。彼女が金融庁とのパイプをほぼ独占し、その交渉内容を一人で上層部に伝えていたという。

「ディルク・オステイン社長らは、当局の怒りに驚き、恐怖シナリオを吹き込まれたようだ。実際にどこまでかわからないが、慌てふためいたディルク社長と米国本社による粛正の嵐が吹き荒れた」と、メット社の幹部は打ち明ける。

その一方で、社内では「企画調査担当の女性役員は、滝内氏と『専務ポスト』を争うライバル同士。権力闘争が透けて見える」との穿った見方も。滝内氏の上司である最高営業責任者の篠田宗士執行役専務が「お咎めなし」だったことも、その見方を裏付ける。

社内から「代理店部門の暴走を止められなかった最高営業責任者(篠田専務)が無傷はオカシイ」「滝内さんは、むしろスケープゴートにされた」という同情の声が漏れる。「当社のガバナンスは崩壊寸前ではないか」と酷評する向きもある。

現在、米国本社はディルク氏の後任を外部招聘しようと躍起だが、容易に決まらない。複数の優秀な人材に打診したが、いずれも断られたという。

本来、篠田氏の前任の甲斐講平執行役専務(当時)が社長ポストに就くことが既定路線だったが、第一生命ホールディングスの専務に転出してしまった。

「あんなえげつない代理店戦略を作るような会社のトップになれば、いつクビが飛んでもおかしくない。誰も渦中の栗を拾えないのでは」と、メット社の現役社員は嘆く。

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