「アピアランスが悪い」とクビ。ホテル代が天引きされ手取りは1万円。元従業員の嘆き。
2025年11月号 DEEP

ジャングリア従業員のホスピタリティが点数を上げている
Photo:Jiji
「炎天下で待たされる」「アトラクションに乗れない」「誇大広告」……。沖縄県今帰仁村と名護市にまたがるテーマパーク「ジャングリア沖縄」。2025年7月の開業直後から来場者の不満が噴出し、怨嗟の声が各所で報じられて来た。しかし今回は内部からの声だ。
秋麗の東京に反し、まだ強烈な日差しが照りつけていた9月下旬の那覇市。ジャングリア沖縄のオープニングスタッフとして採用され、それぞれ東日本からリゾートバイトで来沖した20代の女性2人に話を聞いた。
プレオープン期間も含め約1カ月間、ジャングリア側が提供したホテルに住み込みで勤務したAさん。炎天下、野ざらしで立ち続けた。
「ショーのスタッフができるって聞いて来たんですけれど、実際は荷物運びとか裏方。ほんとに仕事がないのでショーの合間に『よいしょー!』ってガヤを入れる係もやりました。『やることがないから、なんかさせてください』と言ったら、『まだオープン前で勤務体制も整ってないから、そんなん当たり前じゃない?』と言われて……」
この話は、メディアやインフルエンサー、地元民などを招いたプレオープン期間中のこと。客が殺到した本格オープン後なら仕事はあったかもしれない。そう論及すると彼女は反論した。
「社員さんとかが、いつも『私たち忙しいから』って言っていて。じゃあ仕事を分けてくれてもいいのに、もらえなくて。『忙しすぎて仕事を教える暇ない』とも言われていたんで、オープンしたら尚更じゃないですか」
真面目に勤務していたと自認するAさんだったがオープン近辺で突然、上司から「もう来なくていい」とクビを宣告された。理由の一つに見た目が悪いという指摘もあった。
「ネイルは1センチ以内とか、見た目の条件をまとめたPDFが送られて来ていて、それをちゃんと守っていたんです。髪色も黒に染めました。それでも『アピアランスが悪い』と言われ、どこが悪いのか聞いてもはぐらかされました」
途方に暮れたが、憧れは打ち砕かれ、働く意欲も失せていた。
「従業員の子が炎天下でずっと外にいて熱中症になりかけて、顔が真っ白で倒れそうだったんです。そうしたら、社員さんが『だらだらしないで』って言っていて。すごく具合いが悪そうなのが見てわかるんです。なのに、そう言うんだみたいな。そういうのとかあると、結構働きづらいです。バイトだったんで」
働けたとしても仕事はない。社員は相手にしてくれない。炎天下が続き体力も限界。辞められて良かったと思えたが、給与には今でも不満を募らせている。
「1カ月くらいちゃんと全部出勤していたので、少なくとも15万はあったはずです。でもホテル代を引かれて(支払い額は)1万円くらいだった。ホテル代が引かれるなんて事前に聞いていないですし、驚きましたが、たぶんどうにもならないので諦めました」
遠方から出て来ている手前、地元には帰りにくい。お金もない。争うことも考えたが、15万円を取り戻す弁護士費用や労力を考えると萎えた。同時期、自らジャングリア沖縄を辞めたBさんと一緒に名護市内のキャバクラ店で働くしかなかった。
Bさんも遠方からホテル住み込みで来沖した一人。「私も表に出られると思って、ワクワク気分で入ったら裏方だし、人と関わらないし、暑いし。なんなんでしょうね。多分もう潰れるんじゃないかな」と言い放つ。
キャバクラ店で、ジャングリア沖縄の幹部と称する人間をたまたま接客したことがある。そこでBさんはジャングリアで働いていたことを明かした。
「ジャングリアの偉い人がお付きの人を何人か引き連れて定期的にいらっしゃるんです。その偉い人に『表に出る仕事をやりたかったのにそうではなかったので辞めました』と愚痴ったら、『じゃあ11月にその表に出る人の募集があるから来なよ』と誘われました」
また応募するのだろうか。聞くと2人は「もう働きたくないです」と口を揃えた。
運営会社はこの証言にどう答えるのか。ジャングリア沖縄は広報を通じ、証言者は開業初期に委託していた派遣会社からの派遣スタッフと思われるとし、「派遣会社との契約範囲内での業務」との認識を示した。以下、コメントの抜粋である。
「いわゆる裏方作業もショーの運行にとっては大切な仕事です。ご本人がショー運営業務にご想定されていたものと違った点が一部あったかもしれず、期待に沿えなかった点は残念ですが、弊社としては派遣元との事前に委託した範囲に基づき、運用をしておりました」
「(勤務停止やホテル天引き等は)派遣元と元従業員とのやり取りであると思われますが、実際に施設での対応、指導にあたっていたのは弊社でございますので、ご指摘の点について、改めて開業時やその後の対応を振り返り、必要な対応を進めてまいりたい」
業務や契約に関して2人と派遣会社とのあいだで齟齬があった可能性がある。だが、派遣だとしても歴としたジャングリアのスタッフ。運営会社にも責任はある。千数百人いるスタッフの中の「点」に過ぎないと一蹴するのは危険だ。
2人は「周囲のスタッフも同じ思いを抱いていた」とし、「辞めている子も多い」と指摘する。派遣スタッフなくしてジャングリア沖縄は開業できなかった。2人のような“ジャングリア難民”が増えるようだと更なるイメージ低下は避けられない。
来場者の不満は末端のスタッフへ向かう。暑さに耐え努力しているスタッフもいずれ背負いきれず、辞めてしまうかもしれない。そのリスクにも運営会社は向き合うべきだ。
8月中旬、グーグルマップにおけるジャングリア沖縄のレビュー総合点数は「2.1」だったが、10月時点で「3.6」へと改善していた。点数を押し上げた最大の要因は従業員のホスピタリティである。オープンから2カ月が経った9月下旬のシルバーウィークになっても辛辣なコメントが投稿される中、頑張るスタッフを労う口コミも目立つ。
アトラクションやオペレーションの改善も大事だが、スタッフの労務管理や処遇も見直すべきではないか。怠ればジャングリアの救いも失いかねない。