神谷参政党の「同志」チャーリー・カーク氏銃撃死/東京講演「4日後の悲劇」

号外速報(9月12日 15:45)

2025年10月号 POLITICS [号外速報]
by 伊藤博敏 (ジャーナリスト)

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「チャーリー、安らかに—また会いましょう」と書かれた神谷氏の9月11日Xより

「メイクジャパン、グレイトアゲイン(MJGA)、日本を再び偉大にしようではありませんか!」

チャーリー・カーク氏は1時間強の演説をMAGAに似せたこの言葉で締めくくり、9月7日(日曜日)、東京・永田町の砂防会館を埋め尽くした1200人の観衆の盛大な拍手を浴びた。「トランプ政権誕生の立役者」として知られるカーク氏を招いたのは、参院選で14議席を獲得して大躍進した参政党。

党員やサポーター会員向けの撮影や録音を禁じた政治資金パーティーだけに、内輪の会的な親密さもあって、カーク講演の後に続いたカーク氏と神谷宗幣代表とのトークセッションは、歯に衣着せぬグローバリズム批判と具体的な反移民政策を語り合って盛り上がった。

「共に誓った歩みを必ず前へ……」

その4日後、現地時間の10日12時20分頃、カーク氏はユタ州のユタバレー大学の敷地内で演説中に銃撃された。

リベラル派の多い大学キャンパスに設けた白いテントが張られた会場で、折しも「銃乱射事件とトランスジェンダーとの関係」について厳しい質問を受け、カーク氏が切り返していた最中だった。

銃弾は敷地内の約200メートル離れた大学の建物から放たれたという。病院に運ばれたものの死亡が確認された。31歳の若さだった。

トランプ大統領は「チャーリーほどアメリカ合衆国の若者たちの心を理解し、つかんでいた人はいなかった」とXに投稿して追悼、ホワイトハウスなど公共の建物に半旗の掲揚を命じた。神谷氏も自身のXに「共に誓った歩みを必ず前へ進めていくことをここに約束します」と投稿した。確かにカーク氏の活動は過去に例のないものだった。

「全米に2500支部」Z世代が続々と参加

9月7日に東京の砂防会館で開催された講演会のポスター

1993年、シカゴ郊外に生まれたカーク氏は高校生の頃から政治に深い関心を寄せ、若者には珍しい宗教に基づく家族観や伝統を重んじる保守的価値観を持ち、保守系メディアの『ブライトバート・ニュースに寄稿した記事で注目を集めた。

大学に入学するものの、18歳で保守系団体「ターニング・ポイント・USA」を立ち上げ、各地の大学を回って人工妊娠中絶、黒人などを優遇する批判的人種理論、LGBT、移民受け入れなどデリケートな問題をあえて取り上げ、保守的な立場でこれらを批判し、反発する大多数のリベラル的価値観を持つ学生に討論を挑んだ。椅子に座って1本のスタンドマイクを置き「私の間違いを証明してごらん」と挑発して論争を仕掛けた。

砂防会館の講演会で、最初は「5人くればいい方だったが、やがて賛同者が増え数十人、数百人、数千人が集まる集会となった」という。今、「ターニング・ポイント・USAは全米に2500の支部があり数十万のメンバーがいる」と誇った。

リベラル派の人権重視の立場からの批判や「差別主義者」という罵声を浴びながら、カーク氏がひとりで数字を示し、論理的に優遇されている人種や移民が引き起こしている問題を指摘し、熱く対抗する姿はSNSなどで拡散され、魅せられたZ世代(90年台後半から2000年代初頭に生まれた世代)が続々と運動に参加するようになった。

カーク氏を東京に招いた山中泉参院議員

カーク氏はトランプ大統領の政策に完全に同調し、反グローバル、反移民、関税政策を評価する。砂防会館の集会でも「(24年の大統領選で)トランプ氏が勝利しなければグローバリズムが大きくなって取り返しがつかないことになっていた」と語った。

トランプ大統領もその影響力を評価し、フロリダ州の「マー・ア・ラゴ」の自宅に招いて私的に開く重要会議に出席を求めることもある。

参政党でカーク氏の保守層を若年層に広げた役割とトランプ政権への影響力を高く評価していたのは、アメリカでの事業歴が長く、第一次トランプ政権で大統領首席戦略官を務めた「ブライトバート・ニュース」のスティーブ・バノン氏を始め共和党を中心に保守系人脈を築いている山中泉氏である。

山中氏は『アメリカの崩壊』(方丈社)を著すなど評論活動を行い、民主党的リベラルな価値観に反発、反グローバリズムの観点で参政党を支援し、参政党の集会やユーチューブ番組に登場していた。参院選では表に出て戦うように神谷代表に説得され、比例代表候補として出馬して当選した。

青森市に生まれ高校を卒業後、シカゴ在住の空手師範を頼って訪米し、道場で空手の稽古に励みつつイリノイ大学でジャーナリズムを学んだ。祖父が戦前右翼の巨頭・頭山満の書生だったというから生粋の右翼体質といっていい。

保守活動家のひとりとしてカーク氏の活動に興味を持ち、3年前にターニング・ポイント・USAのフェスティバルを経験して以来、継続的に参加して、大学生を始めとするZ世代を確実につかみ、集会の規模を大きくする様子を眺めていた。

次の衆院選で「最低でも100候補」擁立

「次の衆院選では最低でも100名の候補を立てる!」

一方、もうひとり参政党の海外パイプといえるのが、カーク講演会で山中参院議員とともに登壇し、カーク氏の立場を説明、世界の保守勢力についての分析を行った及川幸久氏である。参政党員ではないものの、反グローバリズム、反移民の観点では完全に一致、顧問的立場で神谷氏を支えてきた。

山中氏同様、長い海外歴を持ち人脈も幅広いが、特筆すべきは新興宗教『幸福の科学』の広報局長や国際局長を務めた幹部職員で、「幸福実現党」の候補として参院選に出馬した経歴があることだろう。その分、戦略的に築いた海外人脈もあり、カーク氏の存在もトランプ政権における役割も理解していた。

「日本人ファースト」を旗印にナショナリズムを強く打ち出し参政党を躍進させた神谷氏は、次回の衆院選で最低でも100名の候補を立て、30~40議席を獲得して議員数50議席から60議席の政党となって国政での存在感を見せつけたいという。

存在感を見せつけるためにも海外連携は欠かせない。カーク招請はその一環だが、それに先立つ8月5日、ドイツで反移民の排外的主張を掲げて勢力を急伸させた「ドイツのための選択肢(AfD)」のティノ・クルパラ共同代表と議員会館で会談した。

神谷代表は参政党の政策やスタンスを説明、クルパラ代表は「その路線を堅持して欲しい」とメッセージを寄せたという。

トランプ政権、独仏英「極右」とも連携

カーク氏との対談で神谷氏は、①若者の政治参加、②グローバリズムとの戦い方、③反グローバリズムの世界的連帯、という3つを争点とした。

グローバリズムやグローバリストの定義にまで踏み込めば一致しない点もあるだろうが、人や組織を特定せず反グローバリズムで連帯する限りにおいて対立点はなく、2人で若者の教育再興、出生率を上げての移民政策への対抗などを話し合い、カーク氏はグローバリストが「世界を特色のない各国家の歴史や伝統、文化を考慮せず、ひとつの塊にしようとしている」として批判し、日本にもその危機が迫っていると警鐘をならし、神谷氏は同じ認識だと応じた。

講演会の翌日に開いた記者会見で、神谷氏は海外との連携の必要性を訴え、「名称はこれからだが国際局をつくって、山中議員に海外担当の窓口をやってもらう」と語った。

AfDだけでなく仏RN(国民連合)、英リフォームUKなど海外の「極右」と指摘される勢力との連携を視野に、共和党というよりトランプ政権との連携を密にして、保守化する世界の動向を捉え、その波に乗ろうとしている。

だが一方で、国境を人とカネとモノが行き交うグローバリズムは資本主義の必然であり、その価値観を守ろうとするリベラルなグローバリストとの対立もまた必然となり、分断は複雑化して深刻なものとなる。それがカーク氏の暗殺につながった。繰り返してはならないが悲劇はまた起こる可能性がある。

矢面に立つ神谷氏は悲劇を胸に、慎重に「歩みを前に」進めていかねばならない。

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伊藤博敏

ジャーナリスト

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