経産省がドローン・ベンチャー「コントレイルズ」に補助金50億円!/「ヤマ発」出身社長に黒歴史

2025年10月号 BUSINESS
by カシアス扇谷 (調査報道ジャーナリスト)

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コントレイルズ社のHPより

経済産業省が支援するドローン・ベンチャーにはACSL以外にも「傷モノ」がある。中型の無人機開発に取り組むコントレイルズ社(浜松市)である。ACSLは防衛産業の一翼を担いながら「闇の勢力」に侵食され、自らの安全保障のお粗末さが浮き彫りになったが、コントレイルズは代表者のU社長が外為法違反容疑で逮捕された「黒歴史」がある。軍事転用可能な無人ヘリを経産相の許可を取らずに中国人民解放軍に輸出した不正輸出事件である。そんなコントレイルズに対し、経産省は「経済安全保障重要技術育成プログラム」に採択し、5カ年で50億円を補助する。経産省の唱える「経済安保」は大丈夫か? ブラックジョークのような珍事が起きている。

不正輸出事件は、U氏がヤマハ発動機在籍中の2007年に起きた。ヤマ発は、農薬や種籾の散布に使う無人ヘリコプターの開発で世界トップを走っていた。当時U氏は無人ヘリの開発・販売をしていたスカイ事業部の事業部長で執行役員だった。ヤマ発は、必要な経産相の許可を取らずに、中国の航空写真撮影会社「北京必威易創基科技有限公司(BVE社)」(北京市)に無人ヘリを輸出しようとした外為法違反(無許可輸出未遂)容疑で、静岡・福岡両県警合同捜査本部の家宅捜索に遭い、U氏ら3人が逮捕された。

合同捜査本部の調べによると、BVE社は中国人民解放軍との取引がある軍の影響力の強い会社で、軍と共同で無人ヘリを操作する実習基地を設立していた。BVE社はヤマ発の担当者に「人民解放軍が100機ほど欲しがっている」と、大量購入の希望を伝えていた。

ヤマ発は過去、人民解放軍が運営する「保利科技有限公司(ポリテク社)」にも高性能無人ヘリを輸出していた。こうした取引では、中国からは1機1600万円程度の機体代とは別に、ヤマ発の社員が訪中して行う技術指導料として毎年、5千万円前後の「役務料」も受け取っていた。日本国内での技術指導料は1人あたり50万円程度だったため、合同捜査本部の捜査員は「破格の報酬。軍事転用のための技術指導ではないか」と疑った。

結果的に静岡地検は「会社のためにやったことで反省している」というU氏らを起訴猶予としたため、U氏が個人として刑事責任を問われることはなかった。しかし、浜松区検は、法人としてのヤマ発を略式起訴し、罰金100万円が確定。それを受けて経産省は9カ月間の輸出禁止処分にした。ヤマ発は当時の梶川隆社長ら12人を報酬返上や譴責など社内処分している。

そのU氏が2016年、「夢よ、もう一度」とコントレイルズ社を設立し、空の世界に舞い戻ってきた。「彼はかなりのやり手だからね」と同業者。経産省は「経済安全保障重要技術育成プログラム」の中の「長距離物資輸送用の無人機開発」として採択。U氏の古巣のヤマ発が機体やエンジンの製造に参画し、ザクティがカメラ機能、ジェイテクトが電子部品を担い、さらに金沢工大や静岡理工科大が加わる日の丸プロジェクトだ。

同プロジェクトは、無人ヘリとは異なり、固定翼のある小型の無人飛行機を開発する。30~50キロの重さの荷物を最長1000キロの航続距離で飛行して運ぶ。従来のドローンでは重いものを運ぼうとすると、バッテリーが大型化し、バッテリーの重さで浮上できなくなってしまう。そこで発想を転換し、従来の航空機タイプの形態にする。しかも滑走路を走り離陸するのではなく、オスプレイのように垂直で離発着できるものを開発するという。

経産省も補助する段階でU氏やヤマ発の過去は把握した模様。それでも頼らざるを得なかったのは、それだけ国内にドローン・無人機開発ができる人材が少ないことの表れともいえる。「Uさんとヤマハ発動機には作ってきた実績がある点を評価しました。当然、経済安全保障プロジェクトなので厳しくチェックします」(経産省関係者)。

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カシアス扇谷

調査報道ジャーナリスト

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