石破辞任/「小泉新総裁誕生」を待ち望む/捨て身の維新「吉村・藤田」/「自公維」連立へ!

2025年9月号 POLITICS

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吉村大阪府知事からライドシェアに関する要望書を受け取る小泉環境相(当時、2023年12月1日)

Photo:Jiji

8月8日、日本維新の会の共同代表に藤田文武元幹事長(44)が就任した。参院選の責任を取って辞任した前原誠司共同代表(63)の後任として、代表の吉村洋文大阪府知事(50)と共に党の立て直しに取り組む。退潮著しい維新で浮上しているのが、かつて「蜜月」といわれた自民党との連立だ。自民の「ポスト石破」レースの行方次第では、維新の連立政権参加が一気に現実化する可能性がある。

「石破茂政権との連立を考えることはありえない。自民の体制が固まらないうちに連立の話などない」

藤田氏は8月8日の記者会見で、党内外で高まる連立論に釘を刺した。同時に「維新は『党勢危うし』と評価されている」として、「原点に返って捨て身で再スタートを切りたい」と語った。

維新の党規約は代表が首長などの場合、共同代表に国会議員団長を充てると定める。この日は前原氏の後任の国会議員団長を決める選挙が国会内で行われ、大方の予想通り藤田氏が松沢成文参院議員と斉木武志衆院議員に大差をつけて選出された。ただ、藤田氏に高揚感はほとんど見られなかった。

橋下徹が「連立を組めば良い」

藤田文武共同代表(写真/宮嶋巌)

無理もない。参院選で維新の比例票は約437万票にとどまり、前回(2022年)の約784万票から300万票以上減らした。国民民主党だけでなく、新興の参政党も740万票以上を獲得したことを考えると「大惨敗」。選挙区もお膝元である大阪などの議席を死守するのが精いっぱいで、悲願としてきた全国政党化は遥か彼方に消え去った。

にもかかわらず、昨年の衆院選後に当時の馬場伸幸代表(60)が辞任に追い込まれたのとは異なり、吉村氏の代表交代を求める声は出なかった。このこと自体、現在の維新の窮状を象徴する。吉村氏が代表選になれば自身は出馬しない考えを表明していたうえ、所属議員にも「吉村さんの他にやれる人がいない」という声が大勢だった。

その結果、割を食ったのが前原氏。地元京都で維新候補の当選に一役買ったにもかかわらず、「人心一新」を理由に辞任を表明した。維新の主流を占める大阪出身の議員たちにしてみれば、昨年の衆院選前に合流し、共同代表の座に就いた前原氏は「外様」にすぎない。前原執行部と馬場氏や遠藤敬元国会対策委員長(57)ら旧執行部との溝が深まり、前原降ろしの動きも顕在化していただけに交代は時間の問題だった。

藤田氏は衆院当選2回で幹事長に抜擢された「維新のエース」で、馬場氏が後ろ盾だ。これまで吉村氏や吉村氏に近い議員らは馬場氏や遠藤氏の政治手法を「飲み食い政治」などと批判してきたが、藤田氏は吉村氏との関係も良好とされる。

その藤田氏が「ない」と語った自民との連立だが、額面通りに受け取る向きは少ない。

いち早く連立入りに言及したのは維新の「原点」ならぬ、創設者の橋下徹元大阪府知事(56)だった。参院選の投開票から一夜明けた7月21日のテレビ番組で、東京一極集中の転換を目指す「副首都構想」の実現を条件に「連立を組んだら良いと思う」と発言した。これに副代表の横山英幸大阪市長(44)や大阪府議団などから同調する声が相次いだ。

さらに、8月1日夜、東京都内で遠藤氏が自民の森山裕幹事長と会食したことで、一気に信憑性を増した。遠藤氏と森山氏は国対委員長時代からの付き合いで、肝胆相照らす間柄だ。

前原共同代表時代は、前原氏が石破首相との長年の友人関係をテコに高校授業料の無償化などを勝ち取る一方、維新も2025年度予算に賛成するなどの対応をとってきた。皮肉にも前原氏が辞任し、石破首相も石破降ろしでレームダック化したことで、自民とのパイプを持つ馬場氏や遠藤氏ら藤田氏に近いメンバーが前面に立って自民と交渉できる環境が整った。

自民の閣僚経験者は「党内で孤立していた前原さんより、馬場さんたちの方がやりやすい。選挙区も維新は大半が大阪なので国民民主党ほど重ならず、憲法改正や行革など一緒にやれるテーマもある」と打ち明ける。

そもそも維新の源流は自民党にある。2009年、自民府議だった松井一郎元代表らが「自民党維新の会」を結成。翌10年に府知事だった橋下氏を担いで地域政党「大阪維新の会」を創設した。その後、国政に進出し、現在の維新につながった。

その維新がいわば「先祖返り」ともいえる自民との連立を模索するうえで、キーマンになりそうなのが菅義偉元首相だ。橋下氏が当選した08年の府知事選で自民の選対幹部だった菅氏が支援したのをきっかけに、松井氏や馬場氏ら維新幹部と太いパイプを築いてきた。菅氏が官房長官を務めた第2次安倍晋三政権はまさに維新と蜜月関係だった。大阪・関西万博の誘致や大阪都構想などに協力する一方、維新側も「与党の補完勢力」として野党の分断に貢献した。

小泉と吉村は「共闘の仲間」

目下、自民は衆参両院で少数与党に陥っており、石破首相の退陣後に新総裁が選ばれても首班指名で首相に選出されるかどうかはわからない。このため、次期総裁選と連立の枠組み拡大などの多数派工作は同時進行で行われる可能性が高い。

麻生太郎元首相や岸田文雄前首相は国民民主党との連立に前向きとされ、麻生氏らが推す候補が総裁になれば、維新は後回しにされる可能性もある。

ポスト石破候補を見ると、高市早苗元経済安全保障担当相は維新と折り合いは良くない。奈良県連会長だった23年の知事選では維新に大阪以外で初めてとなる知事の誕生を許し、求心力が低下した。

維新と相性がいいとされるのが小泉進次郎農林水産相(44)だ。後見人はまさに維新の恩人である菅氏で、「ベンチャー自民党」という意味で改革姿勢も共通する。実は小泉氏は吉村氏と以前から面識があり、ライドシェアの規制緩和に取り組んだ際も国への働きかけなどで共闘した。橋下氏が「(小泉氏は)維新と親和性がある」と語るなど、維新側にも小泉氏の総裁就任を待望する声がある。藤田氏も小泉氏に近い自民議員に接触し、感触を探っている。

もちろん維新にとって連立が劇薬であることは間違いない。石破首相が辞任を表明して自民の新体制が整う前から、党内で連立参加論が出ている状況に「安売りしすぎだし、焦りすぎ」との声は根強い。

政権入りして公約の副首都構想や社会保険料の引き下げを実現できれば、悲願の全国政党化へ反転攻勢のきっかけになるかもしれない。だが、埋没する懸念は拭えず、むしろ自民に吸収される「終わりの始まり」になる恐れもある。

大阪維新の会の創設から15年。吉村-藤田体制は発足直後から正念場を迎える。

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