2025年9月号 DEEP
きな臭い「イクヨ」(同社HPより)
世の中には契約破棄で買収予定額の3割にも相当する違約金をまんまと懐にした企業が存在する。東証スタンダード上場の自動車部品メーカー、イクヨがそれだ。
話の発端は今年3月。イクヨは東京・上野の貴金属買い取り業者「アプレ」の株式約54%を最大約39億円で取得すると発表した。2025年3月期におけるイクヨの売上高は177億円。これに対しアプレの直近期は1637億円。まったく畑違いでしかも10倍近い売上高の会社を買収するわけだ。
東証が定める「不適当合併等」にも抵触しかねない大胆な買収策だが、直後にとんでもない事態が起きた。アプレ側が「事前告知・説明はなく……合意した事実もございません」と発表、一方的な開示と非難したのである。結局、4カ月後にご破算となったわけだが、なぜかイクヨは多額の違約金をせしめることに成功した。
じつはここ数年、同社の動きは不可解だ。同社は11年、日本アジア投資の足抜けにより中国資本の傘下となった。大連で化成品会社を経営する李秀鵬氏は会長に就任して経営に直接関与。ただ移り気な李氏の興味は電子部品の神明電機へと変わり、今年6月には東京コスモス電機の乗っ取りへと動いた。この間の21年暮れにイクヨからは完全に離れている。
かわりに影響力を持ったのは中国系のシンガポール法人。そんな中、22年に不可解な会長人事が発表される。候補となった豊田美佐子氏は76歳の高齢で目立った経営経験もない。むしろ背後で影がちらついていたのは実子の浩之氏だった。トヨタ自動車の豊田章男会長の遠縁にあたるが、これまで数々の金銭トラブルや仕手銘柄への関与が囁かれてきた人物だ。
裁判記録によれば、「豊田D&C」などで社長を務める浩之氏だが、遅くとも12年頃には怪しげな人脈と関係を持っていた。アイ・エックス・アイ(07年倒産)の循環取引で暗躍していた会社から2千万円を借り、返済不能となっていたのだ。トラブル解消のため、豊田D&Cが14年7月に会長へと迎え入れたのは過去に脱税事件で有罪判決を受けた人物。その者の主導で豊田D&Cは経営混乱が続くエル・シー・エーホールディングスの増資を引き受けたが、同社は翌年12月に上場廃止となった。
これまた不可解なのだが、結局のところ豊田美佐子氏は会長に就任しなかった。そうしたところ24年以降、やはり中国人である孫峰氏の影響力が強まる。臨時株主総会開催を請求し社長として直接乗り込んできたのだ。孫氏は電気自動車開発会社の関係者だが、提携の成果は上がらずじまい。そうこうするうち、アプレ買収のような新規事業の発表ばかりが続くようになる。軍資金のため70億円超の譲渡益を得ようと今年4月には本社工場もリースバック方式により霞ヶ関キャピタルに売却した。
24年秋以降、株価は6倍超の急騰ぶりだ。なぜかこの間にはアジア開発キャピタルと同社社長のアンセム・ウォン氏が保有割合3~4%の大株主に登場した。21年に東京機械製作所の株買い占めで注目されたアジア開発は23年4月にあえなく上場廃止。アンセム・ウォン氏は22年7月に体調不良を理由に社長を辞任したが、直前には100億円もの不透明な融資証明書の存在が問題化、その後、会社側から役員報酬返還を求められた。ところが昨年7月、当初の取締役選任案になかったものの修正動議で社長に復帰している。同社は今年6月、取締役に大塚和成弁護士を招聘。とはいえ、大塚氏は昨年11月、業務停止2年の懲戒処分を受けており休業中の身だ。
イクヨは新たに暗号資産マイニング事業を始めるという。きな臭さは日に日に強まっている。