大ナタを振るうエスピノーサ社長にサプライヤーは戦々恐々。リバイバルプランに匹敵する淘汰・再編なるか。
2025年9月号 BUSINESS
大鉈を振るう日産自動車のイヴァン・エスピノーサ社長(HPより)
「私のことを『イヴァン』と呼んでほしい」。経営再建中の日産自動車のイヴァン・エスピノーサ社長は7月に横浜市内で開かれた取引先で構成する協力会でこう語り、友好関係をアピールした。さらに「障壁を取り払い、率直な対話を続けることで協力関係を強化し、ともに発展できる」と前向きな言葉を並べた。
エスピノーサ社長が友好ムードを演出したため、出席した企業幹部から好意的な声があがったが、多くのサプライヤーの本音は、その受け止めと異なる。理由は、日産が5月に発表した経営再建計画「Re:Nissan」。2024年度に過去最大級の最終赤字に陥った日産が企業体質を抜本的に変え、26年度までに黒字化を目指すプログラムで、世界で2万人の従業員を削減し、主力拠点の追浜など国内外7工場を統廃合する方針を示す。1999年のカルロス・ゴーン元会長が主導した「日産リバイバルプラン(NRP)」に匹敵する経営再建計画で、系列サプライヤーは戦々恐々としているというのが実際のところ。
エスピノーサ社長は、部品種類を70%削減するとともにサプライヤーを見直し、少数で、多くの仕事量を確保し、コストを大幅に削減する方針も示す。これからサプライヤーは、ふるい落とされる運命にあるというわけだ。
特にサプライヤーが敏感になっているのが中国ベンチマーク(指標)と中国現地部品の活用だ。ある部品メーカー首脳は「中国メーカーとの競争になる。原価低減が必至で、中国企業並みのコスト競争力が求められる」と身構える。BYDやシャオミなど中国の新興電気自動車(EV)メーカーは、価格や性能、技術で進化を遂げ、中国市場を席巻。世界で台頭している。
高コスト体質の日産は中国市場で販売台数が低迷し、業績悪化を招いた。中国ベンチマークは先行する中国EVメーカーの部品調達や製造効率を指標として、コスト競争力を強化するというもの。当然、既存のサプライヤーに競争力が求められる。価格や技術で差別化できなければ、取引縮小や契約打ち切りのリスクが高まるのは言うまでもない。
これから痛みを伴う改革が始まろうとしているが、すでに一次下請けのマレリホールディングスや河西工業は日産の世界販売台数の減少で深刻な経営危機に陥っている。マレリは2度目の経営破綻に追い込まれ、6月に米国でチャプター11(米連邦倒産法第11章)を申請。河西工業も5期連続の最終赤字を計上。5月にはマレリを主要取引先とする二次下請けの栄光製作所(横須賀市)が倒産した。マレリや河西工業には下請けが多く、さらなる倒産の連鎖が懸念されている。
帝国データバンクによると、日産系サプライチェーンは約1万9千社あり、そのうち7割超が売上高10億円未満で、中小が供給網の裾野を支える。ゴーン時代のNRPではサプライヤー数が半減したが、取引を減らされたのは中堅・中小メーカーだった。今回も影響を受けるのは中堅・中小というのは一目瞭然だ。
中国ベンチマークに加え、トランプ関税の負担が重なれば、倒産の増加が避けられないのは容易に想像がつく。中小企業庁関係者も「日産と取引する中小サプライヤーの課題は認識している」と述べており、政府も大規模な淘汰・再編を覚悟しているようだ。