参院選ルポ/「玉木国民」の天下分け目/「東京選挙区」多摩地区で出遅れ/牛田・奥村両候補「共倒れ」も

号外速報(7月10日 15:00)

2025年7月号 POLITICS [号外速報]
by 山田厚俊 (ジャーナリスト)

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JR新橋駅のSL広場前で参院選の「第一声」を上げる玉木代表(7月3日、玉木氏のXより)

「私たちは2議席を獲りたいと思います。いつも我々は無理だと思うことをやってきたんです。無理だと思って諦めたら、この日本の閉塞感を変えることはできません」

7月3日、国民民主党の玉木雄一郎代表は、参院選公示日第一声の地を東京・JR新橋駅SL広場前に選び、こう語りかけた。

「7つのイス」に32候補が出馬

2020年9月、わずか15人で結党した時、最初の街頭演説がSL広場前で行われ、その後も節目節目でこの場所で行われている。いわば「国民民主の聖地」である。

10台以上のテレビカメラが並び、報道陣の数は3桁に届いていそうだ。しかし、平日の午前9時半過ぎ。しかも、真夏のような日差しが照りつける中、聴衆は100人程度にみえた。

今夏の参院選は、事実上の政権選択選挙と呼ばれている。昨年の衆院選で自民党・公明党は少数与党(ハングパーラメント=宙吊り国会)となったからだ。石破茂政権を信任するのか、不信任を突き付けるのか。有権者の審判が下される選挙なのである。

そして今、最大の注目は大票田の東京選挙区だ。

改選数6だが、今回は改選ではない議員の欠員を補充する補欠選挙も同時に行われる「合併選挙」となり、欠員1人を補うため計7人が当選する。そこに各党無所属も合わせ計32人が出馬した。国民民主は2人を擁立したというわけだ。

改めて、国民民主を取り巻く状況と、参院選の前に実施された東京都議選の結果を振り返ってみよう。

都議選「9議席」で息を吹き返す

JR池袋駅前での玉木代表の街頭演説(7月3日)

昨秋の衆院選で「103万円の壁」を掲げて躍進した国民民主だが、その後の道のりは決して順調ではなかった。

玉木代表の不倫報道を皮切りに、千葉県連のパワハラ・離党問題、偽名で不倫をしていたことが報じられた平岩征樹衆議院議員は離党。そして極めつけが、山尾(本名・菅野)志桜里元衆院議員の全国比例公認内定の発表だった。

SNSで山尾氏へのバッシングは凄まじく、記者たちからは玉木代表や榛葉賀津也幹事長に対し、山尾氏の記者会見を求める声が何度も出た。ようやく開かれた会見は6月10日に行われ、2時間半におよんだ。翌11日に国民民主は公認内定の取り消し処分を両院議員総会で決定した。

相次いだ「お家騒動」の影響で、国民民主の政党支持率は急落傾向に陥った。

たとえば、共同通信の4月の世論調査によると、国民民主の政党支持率は18.4%、参院選の比例投票先も18.5%で、野党第1党の立憲民主党の政党支持率11.9%、比例投票先12.3%を大きく上回っていた。ところが、5月は一転して下降傾向に陥った。共同通信の調査では、政党支持率は立憲民主の12.1%をかろうじて上回る13.2%だったものの、比例投票先では国民民主は12.4%で、立憲民主の14.2%を下回った。

6月に入ると、他社の調査でもその傾向は顕著になった。時事通信の調査では国民民主が政党支持率3.4%、比例投票先6%、立憲民主は支持率4.4%、比例投票先8.3%。決して立憲民主が盛り返したわけでなく、国民民主がガタ減りした格好だ。

しかし、都議選で国民民主は9議席を獲得した。同党が掲げていた目標議席数は、条例の単独提出権が得られる11議席で、2議席届かなかったものの、玉木代表は「全く議席がないところからのスタートで、今回、都議会に9つの議席を得たことは大きな一歩」と、胸を張っていた。

確かに、4人擁立し全員落選した2021年の都議選を振り返れば、大躍進といっていい。間違いなく、政党の知名度は飛躍的に上がり、期待値もある。しかし、昨年の衆院選の勢いがあれば、11議席は何なくクリアできた数字だったとの見方もある。

「1人は当選できても2人は難しい……」

初日12カ所を飛び回った最後の街頭演説(JR有楽町駅前、7月3日)

一方、自民党は都議選で惨敗した。過去最低だった2017年の23議席を下回る21議席となった。その理由を自民党関係者は「都議の裏金事件を受けた『政治とカネ』問題も多少影響しただろうが、根本は違う」と前置きし、こう語る。

「昨年の総裁選で、自民党支持層は離反し始めた。地方票をより反映する形にしたにもかかわらず、決戦投票で石破氏が高市早苗氏を逆転で総裁に決めたからだ。地方の声を国会議員が踏みにじった。そしてハングパーラメントになってから石破首相の政権運営には疑問だらけで愛想を尽かしたという流れだろう」

自民党員の離反こそが、最低議席の最大要因だと語り、離反者は都民ファーストの会か、または参政党に流れたと指摘した。ここで重要なことは、自民党支持層ではなく「自民党員」だということだ。無党派層だったり、保守系支持でありながら選挙ごとに投票先を決める有権者の多くが、昨秋の衆院選では国民民主に投票した。

しかし、今回の都議選では、熱の冷めた無党派層や保守系支持の一部だけでなく、自民党員が都民ファや参政党に投票し、都民ファは31議席で第1党を奪還。参政党は3議席を獲得したのである。もはや、自公で過半数の50議席を得るのは至難の業のように思える。

そのようななかで国民民主は都議選で9議席を獲得した。党勢にかつての勢いがないなかで参院選は強気の2候補擁立。これには「共倒れリスクもあるのではないか」との指摘もある。

「都議選で9人が当選したものの、薄氷を踏むような戦いを強いられた。大田区(定数7)で福井悠太氏がトップ当選を果たしたが、港区(定数2)、杉並区(定数6)、世田谷区(定数8)では最下位で滑り込んでの当選だった。参院選では1人は当選できても2人はなかなか難しいのではないか」

こう語るのは、国民民主衆院議員の政策秘書。身内からもこのような声が漏れ伝わってきたのである。

「参政」が「国民」「立憲」を上回る勢い

銀座三越前で参院選「第一声」を上げる参政党の神谷宗幣代表(7月3日、写真/宮嶋巌)

そんな不安を振り払うかのように、玉木代表は公示日初日に走り回った。題して「JR山手線1周大作戦」とでも呼べるものだった。

冒頭の新橋駅SL広場前を皮切りに、午前中は浜松町駅北口、田町駅芝浦口、品川駅港南口デッキ。午後は大崎駅南口デッキ、恵比寿駅西口、渋谷駅東口、原宿駅西口(神宮橋)、新宿駅東南口、高田馬場駅早稲田口、池袋駅西口、そして最後は有楽町駅イトシア前の計12カ所を回ったのである。

再びうねりを作る。そんな意気込みが感じられる玉木代表の行動だ。

記者は午前中の4カ所、さらに夕方の池袋駅、最後の有楽町駅を取材した。午前中の聴衆の数はさほどでもなかったが、夕方の池袋は200人以上、有楽町駅では池袋駅以上の人の波が玉木代表の声に耳を傾けていた。

17日間の長丁場の参院選で、一歩先んじたのは都議選で躍進した参政党だった。

7月5、6日実施した共同通信の調査によると、比例代表の投票先は自民は18.2%で、前回調査(17.9%)からほぼ横ばい。参政は2.3ポイント伸ばして8.1%で2位に浮上し、国民民主6.8%(前回6.4%)、立憲民主6.6%(同9.8%)を上回った。

選挙は熱伝導だ。何とかうねりを作ろうとする玉木代表だが、7月8日時点ではもう一つ決め手を欠いているようにも見える。今後、何か手立てはあるのか。そのヒントを党広報委員長である伊藤孝恵参院議員はこう明かした。

「私たちは今年2月初旬からブロードリスニングを行っていて、週ごとにまとめています。それによると、私たちが掲げていた『氷河期世代支援』がより多くなってきていることが分かります」

「ブロードリスニング」でテコ入れ

玉木代表と広報委員長の伊藤孝恵参議院議員

ブロードリスニングは、SNSやメールなどで党に寄せられた意見、電話での声などをAIがまとめたもので、国政政党では国民民主がいち早く導入してきた。

さらに伊藤氏は語る。

「都議選の影響もあったと思いますが、『ハウジング対策』です。中古住宅の平均価格が1億円を超えたとか、都内の賃貸住宅の平均家賃が10万円を超えたといったニュースもあり、それに対する不満が出てきています。また、住宅購入には控除がありますが、賃貸には何もない。こういった住宅政策は追加で訴えていく必要があるかもしれない」

首都圏限定のような施策かもしれないが、住まいは若年層には深刻な問題だ。刺さる政策を分かりやすく訴える方法論を玉木代表は模索しながら訴えているようにも感じた。

東京選挙区において、もう一つの課題は「多摩地域対策」だろう。

公示日初日の玉木代表の行動をはじめ、党幹部は軒並み23区内を候補者とともに駆け巡っている。しかし、先の都議選で国民民主は、多摩地域で5人の公認候補、1人の推薦を出しながら「全敗」した。

6月24日の代表定例記者会見で筆者は、「全敗の分析」と「参院選への対策」を質問した。玉木代表は「いい候補者が揃っていたが、大選挙区ではなく当選者が少ない選挙区だったこともあり、あと一歩まで迫ったが厳しかった」と分析。「ただし、一定の支援者がいることが分かったので、参院選につなげていきたい」と語った。

しかし、この原稿を書いている10日現在、党幹部が多摩地域に入ったのは、7日に伊藤氏が京王多摩センター駅での街頭演説の1回のみ。選挙戦中盤から終盤にかけて攻勢を仕掛けるのだろうが、やや出遅れているようにも感じる。

無所属の山尾氏と「票の食い合い」も

多摩地域とは、東京都西部の26市3町1村で、人口は430万1116人(6月1日現在)。東京都全体の約3分の1に当たるという。八王子市には創価大学があり公明党が多摩地域で最も力を入れている市だが、総じて革新系が強い地域と見られている。

東京23区のベッドタウンとして発展した地域で、JR中央線沿線は生協運動も盛んで、リベラル系が強い地域として知られていた。かつて、日野市では共産党系市長が、町田市では社会党系市長が長期にわたり市政を執っていた。

一方で、青梅市や福生市などの西多摩地区は保守系が強い地域で、自民党の都連会長は、衆院東京25区(青梅市、昭島市、福生市、羽村市、あきる野市、西多摩郡)選出の井上信治衆院議員(当8)だ。

また、多摩地域は距離的な長さと不便さがネックになる。車では中央高速を使うしかなく、南部の町田市には東名高速を利用するしかない。1、2カ所だけ多摩地域で演説を行い、都内に戻って街頭をやるには時間のロスが大きく、丸1日を多摩地域に費やす覚悟がなければ攻略しづらいとも思える。

しかも、さらに問題なのは、国民民主が公認内定を取り消した山尾氏が、無所属で出馬したことだ。山尾氏は武蔵野市吉祥寺に事務所を構えた。多摩地域の一角である。元々、同じ政党だった山尾氏ゆえに、政策は似通っている。ここでも国民民主との票の食い合いが予想される。

このような状況を打破し、東京選挙区で2議席確保できるのか、目標議席16議席に達することができるのか。中盤戦から終盤戦までをしっかり見届けたい。

著者プロフィール

山田厚俊

ジャーナリスト

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