即刻辞任せよ!/奥和理事長は経営者失格/農林中金を「金融庁単独所管」にせよ(9月号より再掲)

金融庁は毅然として金融行政の筋を通すべきであり、政治家や農水省の口出しを許すな。

2024年12月号 BUSINESS

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農林中金の山野徹経営管理委員会会長(左)と奥和登理事長(HPより)

農林中央金庫の今年度末の赤字見通しは、当初5千億円と発表されたが、その後1兆5千億円となり、今は2兆円にまで膨れ上がっている。悪い情報を隠蔽し、その後も小出しにしていることだけをとっても、農林中金の奥和登理事長(65)は経営者失格である。大企業でも1兆円を超える赤字計上は滅多にない。農業総産出額が9兆円、生産農業所得が3兆円という農業の世界で、これほど膨大な赤字を出しても居座れるのは、農協組織が完全に腐っているからだ。

しかも、かつては、農林中金に副理事長や専務のポストが置かれていたが、奥理事長はこうしたポストを廃止し、習近平ばりの「後継者潰し」による独裁体制を築いてきたのである。

何事も政治力に頼る悪弊

毅然として筋を通せ!

問題は理事長だけではない。巨額の損失を出したことを認識しながら、任期の切れる理事長の再任を決定した経営管理委員会も同罪であり、全員辞任すべきである。 農林中金は農林中金法に基づく協同組織なので、会社とは仕組みが異なるが、分かりやすく言えば、経営管理委員が取締役、理事は執行役員である。理事長の人事権は経営管理委員会が持っている。

農林中金のHPによれば、経営管理委員には、山野徹全国農協中央会会長ら農協組織幹部のほか、「金融識見委員」と称して佐藤隆文元金融庁長官、皆川芳嗣元農林水産事務次官らが入っている。

農協組織幹部は、農協の組合員である農家の立場から、農林中金の経営を監督するのが仕事である。農林中金の資産は農家が築いてきたものであり、それをこれだけ毀損しておいて、理事長再任など認められるはずがない。

しかも、この数年、農業資材価格が高騰し、一方で農産物の価格転嫁が進まない中で、全国の農家の経営はダメージを受けているのである。農協組織のやるべきことは、自らの農産物販売によって価格転嫁を強力に進めることであり、農家の支援を行うことだ。

そのような状況の中で、農協組織の資産を農林中金の損失補填に使うことを認め、巨額損失を出した責任もうやむやにしようとする農協組織幹部がいること自体、農協組織が農家のことも、農業のことも、何も考えていないことを示している。農協組織が考えていることは、自分たちの利権と政治力を維持することだけである。本来自らの経営努力(経済活動)で解決できることを真面目にやらずに、問題が起こると、すぐに政治力で解決を図ろうとするのが、農協組織の悪弊である。

農協を「票田」として温存するため、その要請に応えてきた政治家も罪深い。彼らが農協をダメにした側面もある。農協組織幹部は、政治資金の提供や選挙応援で培ってきた政治力で、農林中金の損失問題も切り抜けられると、高をくくっているのだ。

確かに1996年の住専問題は、自民党農林族の強力な後押しで、農協組織に有利な決着が図られ、6850億円もの国費が投入された。当時、農協組織は明らかに「日本経済のお荷物」と見られていた。

住専問題の処理後、ろくに融資審査もせず住専に貸し込んだ信用農協連合会を、農林中金に統合して世の中から消すための農協改革法が作られたが、これに抵抗する政治家は一人もいなかった。下手な政治介入をすれば、火傷をすることが分かっていたからだ。今回の事態を受けて、水面下で金融庁に働きかけている政治家がいるかもしれないが、それが露見すれば政治生命を失うことを覚悟すべきだ。

省庁OBが経営管理委員になっているのも問題だ。そもそも、「業」そのものを監督する法制度がある場合に、その監督官庁OBが監督される事業者に天下れば、監督行政を歪める恐れがある。農林中金法は金融庁と農林水産省の共管なので、両省庁の幹部OBが農林中金に天下ること自体問題であり、金融庁も農水省も監督行政が公正に行われていることを明確に説明する責任がある。

そもそも共管というのは無責任な体制である。今回の巨額損失に関する閣僚記者会見で、鈴木俊一金融担当大臣は「農水省と連携して」と言い、坂本哲志農水大臣は「金融庁と連携して」と言っている。要するに、もたれ合いである。

金融行政能力のない農水省が金融庁に相談するのは理解できるとしても、金融庁は農水省と一体何を相談するのか。政治家の圧力の有無でも確認するのか――。政治家の圧力で歪められたら、金融行政はオシマイである。この際、共管をやめて金融庁単独所管とし、銀行と共通のルールの下で厳しく監督すべきだ。農林中金だけでなく、信用農協連合会、農協の金融業務についても同様である。

農協組織は「中毒患者」

本誌8月号で詳述した通り、経済事業が赤字の農協に金融事業兼営を認めていること自体問題だし、預金を預金者の了解もなく劣後ローンに切り替えて自己資本にカウントする方法を認めることなど、本来あってはならない。預金者保護・金融の健全性確保の観点から、金融行政の基本を貫徹すべきだ。

農林中金の自己資本増強が必要なら、そのために制定された「協同組織金融機関の優先出資に関する法律」を使って、農協組織外から資本調達することを、自らやらせるべきだ。経済界が農林中金をどう評価しているか鮮明になる。どれ程の配当率なら資金調達できるか、白日の下に晒される。失敗しても経営責任を取らず、格付けが低い農林中金の資本調達コストが高くなるのは当然である。容易に資本調達できない苦汁を呑まされることで、農林中金は初めて自らの実力を思い知る。身の程を分からせることも、金融行政の役割である。全国の農協組織は、農林中金からの資本増強の要請を巡って混乱しているようだ。だが、いま必要なことは、今後の農協組織の在り方を冷静に考えることだ。

農産物販売等の経済事業が赤字で、これを信用事業(預金業務)・共済事業(保険業務)の黒字で補填して職員給与を支払うという、農協の経営構造がもはや限界に来ている。補填されるのをいいことに、農産物販売を真剣に行ってこなかった結果、地域農業のリーダーである法人経営や大規模家族経営は農協と距離を置いている。こうした農家に農協は「農協に協力しなければ融資しない」などと圧力をかける。これでは農協は良くならないし、農業も良くならない。

共済事業でも職員の自爆営業が問題となり、農林中金の巨額損失で信用事業による黒字確保も難しくなっている。時間が経てば昔のような状況に戻れるはずもない。時代は変わっているのだ。農協は、「経済事業は赤字で当たり前」などと嘯くドグマから抜け出し、本来の農産物販売を真剣に再構築すべきだ。卸売市場でセリにかけたり、コメ卸に販売を任せるのでなく、農協の役職員自ら汗をかき農産物を少しでも高く売り込む努力をし、販路を開拓していくことが必要だ。特に、輸出については、全農(全国農協連合会)が組織を挙げて取り組まなければならない。

これまで農林中金からの利益還元が、こうした努力を妨げてきたのだ。これは一種の「麻薬」であり、農協組織は「中毒患者」に等しい。早晩、身体がボロボロになり立ち直れなくなる。今回の巨額損失問題は、農協組織にとって最後のチャンスだ。金融庁は毅然として金融行政の筋を通すべきであり、農協の代弁をする政治家や農水省が、金融庁に圧力をかけるようなことを許してはならない。

   

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