連載/『吾輩は蟹である』/海底に忍び寄る温暖化/松田裕之・日本生態学会元会長

2024年12月号 LIFE [シン鳥獣戯画]

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吾輩は楚蟹(ずわいがに)である。0℃から3℃の低温の海底を好み、死んだ魚や動物を食べる。本州の日本海側、東北地方の太平洋側からベーリング海が我々の棲み処だ。吾輩の棲む日本近海では水深200から500メートルの暗闇である。およそ地上の世界とは隔絶した静寂の世界だ。太陽の恵みの光合成植物でなく、熱水噴出孔に依存する化学合成細菌が支える海底独自の生態系も存在しえる。しかし、吾輩の食べ物は主として遥か頭上の光合成が支える生態系に由来する。吾輩は脱皮を繰り返して成長する。我々雄は6歳から10歳くらいで9回から12回の脱皮を繰り返して親になる。ザリガニと異なり、親になったら脱皮も成長もしないが、数年間は生き続け、交尾を繰り返す。若いころはハサミが小さいが、最終脱皮後は大きなハサミを持ち、最終脱皮直前の雌を挟んで捕まえる。動物学者はこれを「交尾前ガード」と呼ぶ。紫上 ………

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