「金秀グループ」総帥が元首相に平伏したのは、増大する沖縄の防衛関連事業に食い込みたいから。
2024年12月号 POLITICS
呉屋守将会長(金秀グループHPより)
「これからは自民党と一緒にやっていくので、防衛関連の仕事もさせていただきたい」
衆院選を目前に控えた10月22日、沖縄県那覇市内のホテル。沖縄3区から立候補した島尻安伊子氏の選挙応援で来県していた元首相の菅義偉氏が、かつて敵対していた沖縄経済界の重鎮と密かに面会していた。その人物とは「金秀グループ」会長の呉屋守将氏。かつては米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する勢力「オール沖縄」会議の共同代表に名を連ね、元知事の故翁長雄志氏の選対本部長、現知事の玉城デニー氏の後援会長を務めるなど、安倍晋三政権との全面対決の矢面に立っていた。
冒頭の呉屋氏の発言は、「過去のいきさつ」を水に流し、関係修復を願い出たものであり、菅氏は「(希望に沿えるよう関係先に)しっかり伝えます」と穏やかに応じたという。
故翁長知事と共に沖縄の「誇り」や「民意」を叫び、国と対峙した呉屋氏が、元首相に仕事をくれと平伏す姿は10年に及ぶ「辺野古反対闘争」の栄光と挫折を浮き彫りにした。
建設や物流・小売業など14社から成る金秀グループの年間売上高は約1千億円。主力の金秀建設は県内屈指の建設企業だが、辺野古移設に反対して以降、防衛省など国発注工事を受注できなくなった。
安倍政権下で官房長官を務めた菅氏は「金秀外し」の張本人とされ、「過去に一度だけ金秀が防衛省工事の下請けに入ったことがある。それを知った菅さんが防衛省幹部を呼び出し怒鳴りつけた」(防衛省関係者)という逸話も残っている。
辺野古海域の埋め立て工事は、1件で数百億円にも上る。スーパーゼネコンと沖縄の大手企業がJV(共同企業体)を組み、枝葉のように下請け企業がぶら下がる施工体制となっている。金秀はそのサークルから閉め出しを食っているのだ。金秀建設は、県や市町村発注の工事、民間工事で糊口を凌いできたが、昨今は国からの沖縄関係予算は目減りし、受注機会は減る一方。反対に防衛省関連予算は右肩上がりで、沖縄関係予算を上回る3千億円以上(歳出ベース)の巨費が投じられている。金秀グループの総帥が「防衛関連の仕事もさせてほしい」と懇願したのは、増大する防衛関連事業に食い込みたいからだ。
「菅・呉屋」密会は、菅氏に近い元副知事の安慶田(あげだ)光男氏が橋渡しをし、那覇市長の知念覚氏も同席した。安慶田、知念両氏は「オール沖縄」を率いた故翁長元知事の側近だったが矢面には立たず、水面下で菅氏と接触を重ねてきた。
沖縄政財界に隠然たる影響を保持する菅氏が呉屋氏に期待するのは、金秀グループ挙げての選挙支援だ。「菅氏と手打ちをしたとはいえ、金秀が防衛事業に参入するには、再来年の沖縄知事選で自民党候補の勝利にどれだけ貢献するかだ」と、地元政界関係者は言う。
先の衆院選で金秀グループは社内に「政治連盟」を立ち上げ、自民候補を組織的に支援した。しかし、沖縄1区で國場幸之助氏が共産党の赤嶺政賢氏に敗れ、力不足だった。
金秀グループの創業者、故呉屋秀信氏(守将氏の父)は、79年前の地上戦で焦土と化した沖縄の地で鍛冶屋を始め、ヘラなどの農具製造によって食料難を救った。社訓は「誠実・努力・奉仕」。正義感あふれる立志伝中の人物だった。その秀信氏は生前、長男守将氏について「正義感は僕より強い。正しいと思ったことはとことんやる。走り出したら止まらない暴走族のようだ」と、笑いながら語っていたという。菅氏に懇願した守将氏の胸中はいかばかりだったか――。本誌編集部は呉屋氏に質問状を出し、菅氏との密会について尋ねたが、回答がなかった。