ポテンシャルはあるのにもったいないリテール金融の先駆者。SBIや楽天の攻勢にお手あげだ。
2024年12月号
BUSINESS
by 高橋克英(マリブジャパン代表)
南昌宏社長(HPより)
南昌宏社長(59)が率いるりそなホールディングス(HD)は、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、みなと銀行を擁しており、総資産76兆円とメガバンクに次ぐ資産規模を誇る。首都圏と関西を中心に日本最大818の店舗網を生かし、個人や中小企業向けリテール業務を主軸に当期純利益は1589億円に達している(2024年3月期)。
他行も追随する軽量型店舗の成功例である「セブンデイズプラザ」は、多くの店舗が駅から徒歩5分圏内にあり、資産運用や住宅ローンの相談に特化し、平日最長夜9時まで、土日祝日も営業しており、グループ全体で36店舗にまで増えている。2024年11月には、より気軽に立ち寄り相談が可能な新型店舗「りそな!n(イン)イオンモール大和郡山」も開設している。女性の活躍や働きやすさでも評価されており、メガバンクほど敷居が高くなく、地銀より金融サービスが豊富とのイメージもあり、都市部の子育て世代などを中心に支持を集めている。
ポテンシャルはあるのに(写真/宮嶋巌)
2003年5月に実質国有化されたりそなには、ピーク時で3兆1280億円もの公的資金が注入されていた。JR東日本出身の細谷英二会長の陣頭指揮により、「りそなの常識は世間の非常識」として、店舗や人員に関連会社などの大リストラやガバナンス改革に加え、国内リテール業務にフォーカスすることで、ようやく2015年6月になって公的資金を完済している。細谷会長の急逝(12年)後、企画・財務畑から社長・会長を歴任した東和浩氏(現シニアアドバイザー)が、「りそな総帥」として存在感を示すなか、オムニチャネル戦略やCRM(顧客情報管理)システム、営業支援システムなどへ投資することで、①リストラの先行による低コスト実現と②オペレーション改革により、他行の数歩先を行くリテール金融の先駆者として一目置かれてきた。
しかしながら、その面影は薄れている。りそなは「リテール№1」を目指すというが、いまや「リテール№1」の地位にあるのは、楽天やSBIである。こうした異業種のネット銀行では、預金や住宅ローンなどが提供出来るだけでなく、顧客の資産データをマーケティングに活用することで、傘下のネット証券との連携による資産運用提案なども可能になる。さらに、クレジットカードやQRコード決済による決済口座の指定に加え、給振口座や住宅ローン口座の獲得により、「ポイント経済圏」と連動する形で、個人のメインバンクとして長期的な顧客の囲い込みを着々と進めている。
人生100年時代、老若男女問わずNISAをはじめ資産運用への関心も続くなか、楽天やSBIがその利便性や手数料の安さなどから、Z世代からシニア層に至るまで幅広い層で利用されているのだ。店舗と営業員を活用し、対面で金融サービスを提供してきたりそなには逆風だ。デジタルとリアルの一体化を掲げるものの、りそなには、傘下にネット銀行もネット証券もなく、証券子会社さえない。りそな銀行が、旧野村財閥系の旧大和銀行を母体とすることもあり、金融商品仲介として、野村證券の「外債」を取扱っているものの、開店休業状態だ。
りそなが注力するファンドラップ残高は、提携地銀分908億円を合わせて8003億円まで増加しているものの、例えば、大和証券の大和ファンドラップの4兆円に比べれば物足りない。積立投信利用者は24万先、NISA口座数は43.6万口座に留まっており、りそなグループの個人顧客基盤1600万人からすると全くもって物足りないレベルだ。
バンキングアプリのダウンロード数は937万DLまで増加しているが、いまやデジタル個人金融に欠かせないポイント経済圏とのつながりもない。三井住友FGは、SBIと資本業務提携を結び、OliveやVポイントで連携を強化しており、みずほ証券と楽天証券の資本業務提携により、みずほから楽天への顧客誘導も進むなど、ライバル銀行がいわゆる5大ポイント経済圏(楽天、PayPay、au、ドコモ、Vポイント)との連携や対抗を進めるなかで、りそなはこうした動きにも蚊帳の外だ。
「なぜ、りそなを利用しないといけないのか?」「他のメガバンクや、ネット銀行やネット証券の方が、早くて安くて便利で商品ラインナップも豊富でポイントも貯まるのでは?」という利用者の素朴な疑問に対する答えがないのだ。
筆者が最近面談した米系ヘッジファンドや大手資産運用会社など海外投資家からは、りそなは、財務的にも営業基盤としても安定しており、「金利ある世界」の恩恵も受けられるものの、得意としてきたリテール金融では、デジタル新興勢に押されており、収益拡大の伸びしろも大きくない「退屈な銀行」との声が多く聞かれた次第だ。
そんな「退屈なりそな」を打破すべく、南社長が打ち出しているのが、「地銀への出資」だ。公的資金返済後、蓄えてきた余剰資本に加え、政策投資株の売却により3千億円相当の資本創出が見込まれるため、その使い道として「地銀との資本提携」が挙げられている。
りそな自体が、大和、協和、埼玉と都市銀行に加え、近畿大阪や関西アーバン、みなとといった地銀による合従連衡を繰り返し、スーパーリージョナルバンク構想から生まれたように、地銀との連携強化とは、りそな誕生以来、20年以上にわたって掲げられてきた施策ながら、りそなグループ以外の地銀との資本提携は実現していない。
図表に示したように、アプリやファンドラップの提供で、めぶきFG、横浜銀行、京葉銀行、七十七銀行、百十四銀行などと業務提携はあるものの、資本提携の話には及んでいない。そんななか、2024年2月には、総資産7.5兆円、159店舗を有する中京地区最大の十六FGとリテール分野での業務提携を発表した。両社は、資本提携も交渉中とされ、実現すれば東名阪に基盤を持つスーパーリージョナルバンク誕生となるものの、「今後もそれぞれ独立した金融機関として業務を展開」「対等なビジネスパートナー」という両首脳からの発言からも、りそなHD傘下に十六が入るような経営統合ではなく、実現したとしても数%の出資に留まる可能性が高そうだ。
横浜銀行や千葉銀行、東京きらぼし銀行などとの合従連衡で「首都圏メガ地銀」誕生ならインパクト大であるが、平成金融危機の時代ならともかく、こうした大手地銀が、主導権がりそな側にあるような合従連衡にのってくる可能性は低い。また、首都圏以外の地銀の買収も検討されているようだが、首都圏以上に経済規模と成長性があるマーケットはなく、出資リスクはその分高くなる。
そもそも、「今さら地銀買収?」であり、余程のリストラなどを見込んだ再編でないとマーケットからも評価されないだろう。「りそなのアプリには興味があるが、資本提携はない」(大手地銀幹部)との声も聞こえてくる。
最後にもう一つ気になる点がある。りそなといえば、女性の活躍など働き方改革や人財活用では常に金融業界の先端を行く企業だ。
もっとも、社員に優しく居心地のいい環境が、大胆な変革を停滞させ、仕事の既得権益化や細分化を生んではいないだろうか。りそなに限らず、ダイバーシティを尊重し働きやすい職場環境の向上に努めるのは、令和企業の責務である。一方で、上場企業として、社会や顧客の変化を捉えながら社内競争や実力主義、コスト意識を持つことも不可欠である。
我が国のリテール金融をリードしながら、ポテンシャルはあるのに、もったいないのが今のりそなだ。SBIや楽天にどう勝つのか、お手あげにみえる。実質国有化時代を知る現役社員が少数となるなか、りそなは改めて①コスト意識と②自己変革の意識を前面に打ち出し、店舗をゼロにしてネット銀行になるくらいの覚悟がない限り、「南りそな」の前途は多難となろう。