前月号<金融庁のダブルスタンダートに「地銀ブチ切れ」>の反響は大きく、看過できない告発が相次いだ。
2024年11月号 BUSINESS
顧客本位はお題目?
前月号に掲載した<金融庁のダブルスタンダードに「地銀ブチ切れ」>は、金融行政の歪みと傲慢を浮き彫りにし、波紋を呼んだ。
「地銀が販売に力を入れている外貨建て保険に対して、金融庁が臆面もなく新商品の認可を出しておきながら、販売段階になった途端に販売するなと言わんばかりの理不尽な圧力をかけてくる……」。地銀業界から憤りが沸き上がっているとの内容だった。反響は大きく、地銀関係者から情報提供が寄せられた。中には金融庁の看過できない「行状」への告発もあった。
業界団体の生命保険協会は9月、生保各社に対して外貨建て一時払い保険の販売に関するアンケート調査を行った。「商品組成に携わる事業者が想定する購入層」や「販売時に投資信託など他の金融商品と比較をしているか」などと、事細かに販売実態を尋ねている。
表向きの実施主体は協会だが、裏で糸を引いているのは金融庁だ。ご丁寧に「個別回答については、金融庁から要望があった場合は提出させていただく」と書いてある。
これに一部の地銀や生保の関係者はまたしてもぶち切れたという。主たる調査対象が、銀行窓販を指す「金融機関代理店チャネル」だったからだ。
外貨建て一時払い保険を扱っているのは銀行窓販だけではない。近年、乗り合い代理店(複数の保険会社の委託を受けている代理店)での販売が急拡大し、外資系生保の中には乗り合い代理店での新規契約獲得が多い社もあり、無視できない存在となっている。
金融庁が銀行に対して、圧力をかけている項目の一つに「L字型の手数料」の見直しがある。銀行は初年度に手数料を多くもらい、次年度以降はわずかであることが多い。これでは購入した顧客へのアフターフォローが疎かになりかねない。
このため、当局が初年度手数料を減らす代わりに、次年度以降を厚めにする「平準化」を迫り、来年4月をめどに各社が是正する見通しとなった。
一方、乗り合い代理店への手数料体系は野放しになっている。「L字型」どころか、初年度しか手数料を払わない「I字」体系まで存在するという。関西の地銀関係者はぶちまける。
「いつものことだが金融庁は『木だけを見て森を見ず』だ。文句が言いやすい地銀だけをターゲットにするのは、あまりに理不尽だ」
こうした「ダブルスタンダード」が罷り通るのは、縦割り組織の金融庁の病弊である。
ここに来て精力的に外貨建て保険にメスを入れているのは、総合政策局コンダクト監理官室。リスク性商品のモニタリングを手がけ、毎年レポートを出している。これまで投資信託や仕組み債などを標的にしてきたが、いずれも銀行の販売動向をマークし、槍玉に挙げてきた。その延長線上で外貨建て一時払い保険を見ているので、金融機関以外の重要な販売チャネルを見落としているのだ。
金融庁は近年、商品組成・提供・管理のプロセスを含めた「プロダクトガバナンス」の確立を金融機関に求めている。しかし、そのモニタリングを担う金融庁の分掌体制に不備があると言わざるを得ない。
そもそも顧客からすれば、外貨建て一時払い保険をどこで買おうが、大きな差はない。金融庁にゴー・ストップをかけられる一部の業界はたまったものではない。
金融庁は、金融機関に対して「顧客本位の業務運営」を説いて久しいが、それが未だに浸透しないのは、なぜか。「所詮、役所のお題目」と見透かされているからだ。「経営が弱体化した地銀は、金融行政のスケープゴートになっている面もある」との酷評も。