加藤勝信氏は1回目の投票で赤っ恥をかいたが、論功行賞で財務相の座を射止めた。望外の勝利だ!
2024年11月号 POLITICS
勝ちを拾った加藤財務相(写真/宮嶋巌)
史上最多となる9人が立候補した自民党総裁選は、石破茂元幹事長が決選投票で逆転勝利を収め、幕を閉じた。
現職幹事長や閣僚が入り乱れる前例のない大混戦となったが、勝者が出れば一敗地に塗れる者が出るのは勝負の常。しかも勝ったのは、首相の座を射止めた石破氏だけではない。
「素晴らしい成績だったが、喜んでいてはいけない。精進を重ねたい」――。10月6日、地元・山口県で、林芳正官房長官はまるで勝者のような総裁選の結果報告を行った。
旧・宏池会がまとまった林陣営は、決選投票で石破氏を推し、新政権誕生の原動力になった。論功行賞により林氏は希望通り官房長官を続投し、次の首相を狙える絶好の位置につけた。「総裁選の順位は4位だったが、石破、高市、小泉各氏の知名度を考えたらできすぎ。旧宏池会の重鎮、小野寺五典氏が政調会長に起用され、林陣営としては笑いが止まらない戦果だ」(旧・宏池会の議員秘書)
下馬評以上に躍進した候補は林氏だけではない。決選投票で敗れた高市早苗前経済安保相と、1回目の投票で5位に食い込んだ小林鷹之元経済安保相だ。
とりわけ高市氏は自民党の「岩盤」と呼ばれる保守派に人気を博し、1回目の投票で石破氏を蹴落とし1位になった。小林氏も40代の若さと華麗なキャリアを武器に押しも押されもせぬ「保守派のホープ」にのし上がった。しかも2人とも石破首相からのポスト打診を断った。「新政権と距離を置くことで虎視眈々と『次』を狙う目論見だろう。総選挙の後、どう動くか、目が離せない存在になった」(大手メディアの政治記者)
逆に、本当の敗者は誰だろう――。最下位に沈んだ加藤勝信元官房長官は不様だった。獲得した議員票はわずか16票。推薦人20人のうち5人が造反したことになる。これには裏の事情がある。
「加藤氏の推薦人を引きはがしたのは、小泉進次郎元環境相を支援した菅義偉元首相たち。加藤氏に次の組閣で重要ポストを約束して、小泉氏に議員票を寄せた」(事情通)
そこまでやっても、小泉氏は党員票が伸びず、決選投票に残れなかった。菅氏と小泉氏は決選投票で石破氏を推し勝利に導いた。加藤氏は1回目の投票で赤っ恥をかいたが、論功行賞で財務相の座を射止めた。「災い転じて福となす。望外の勝利だ」(前出の事情通)
そうなると、最もダメージが大きい敗者は誰なのか。衆目が一致するのは、ビリから2番目の8位に終わった河野太郎・前デジタル相だ。
河野氏といえば前回2021年の総裁選では党員票で169票を獲得し、世論調査でも高い支持率を誇る「人気者」だった。ところが、今回の総裁選で獲得した党員票はわずか8票。議員票も22票にとどまった。河野氏自身、これほどの大惨敗は予想しなかったに違いない。
「マイナ保険証のゴリ押しで嫌われ者になった。SNSで気に入らないアカウントをブロックしたり、脱原発から推進派に変身するなど評判が悪すぎた。裏金問題で派閥が袋叩きにあっているのに河野氏は麻生派に所属し、派閥のドンである麻生太郎氏に頭を下げて出馬した。結局、麻生氏は河野氏を見放し、高市氏の支援に回った。負けっぷりは不様と言う外ない」(関係者)
党内の総スカンを食った格好の河野氏は、新政権の閣僚や党幹部に起用されなかった。完全に「無役」になった河野氏は「総選挙で自民党の仲間の応援をしっかりやっていく」と述べたが、「ここまで嫌われてしまうと応援に来られてもありがた迷惑ではないか」(自民党関係者)との声が漏れる。一度失った人気を取り戻すのは容易でないだろう。