民営化スタート4年余りで債務超過。責任を問われて「悪者で結構」と開き直る愚かさ。
2024年10月号 BUSINESS
蒲生社長は「バカだと言えばいい」と開き直っている
Photo:Jiji
「国が手を突っ込むと、ろくな事がない。北海道はまた一つ大きな『お荷物』をしょってしまった」。そんな嘆息が聞かれるのが、新千歳や函館、旭川など北海道にある7つの空港の運営を一括管理する北海道エアポートの業績不振だ。
2020年1月の民営化スタートから4年余りがたった24年3月期決算でついに70億円近い債務超過に陥った。コロナ禍後、国内外から北海道を目指す旅行客は増えているにもかかわらず、会社の業績は5年連続の営業赤字。今年度も来道者数は過去最高を記録しながら、営業赤字の継続を見込む。
不採算の地方インフラ維持を担う余り、慢性的な赤字の悪循環に陥り、経営体力を失っていく構造は民営化の先輩格に当たるJR北海道と似る。地元では北海道エアポートが、存続の危機に立たされるJR北の二の舞いになると懸念する声が上がり始めている。
空港民営化は13年7月、安倍晋三政権のもとで施行した民活空港運営法に基づいて、全国で進んだ。そのなかでも北海道は、特異な事例だ。ドル箱の新千歳空港単独ではなく、空港収支が慢性的に赤字だった地方6空港(函館、旭川、女満別、釧路、帯広、稚内)も一体で民営化したのだ。
北海道の空港民営化を巡っては、当初から水面下で駆け引きがあった。先に動いたのは新千歳空港のターミナルビルを運営してきた「北海道空港」社だった。北海道内で唯一の「儲かる空港」である新千歳空港の単独での民営化を目指し、赤字の地方空港との一体運営を匂わせ始めていた筆頭株主の北海道庁から天下りしていた元副知事を、社長から副会長に棚上げ。独自路線を目指す姿勢を鮮明にした。
北海道内には民間機の利用できる空港が、離島を含めて13存在するが、札幌の玄関口となる新千歳空港の存在感は圧倒的だ。年間の利用者数は2千万人を超え、2位の函館空港の10倍以上に達する。
単独民営化路線は、ターミナルビルに巨大な商業施設やキャラクターショップ、温泉施設などを併設し、商業的な成功を収めつつあった北海道空港の生え抜きで、実力会長だった住吉哲治が主導していたとされている。
もっとも新千歳単独の民営化は、北海道内でさらなる新千歳独り勝ちの構図を生み、他の道内空港を苦境に立たせることになりかねない。当時の安倍政権が政治決断した結果、6空港(後に、北海道が管理する女満別が加わり7空港に)を一括して民営化する方向性が示された。新千歳に集中する外国人客を他の地方空港に誘導し、北海道全体の誘客につなげるとの後講釈が加えられたが、結局は、毎年赤字が膨らむ地方空港を、新千歳の収益で補う仕組み作りの側面が色濃かった。
18年から19年にかけて行われた7空港一括の運営権入札では、北海道空港を中心に地元企業も多く参加した企業連合が落札した。新たに設立した「北海道エアポート」に民間企業らしい収益改善策が期待されたものの、7空港の一括民営化となった経緯から、不採算な地方空港の機能の整理には踏み込まなかった。その後の投資も新千歳空港に集中させることはできないままで、総花的なものにならざるを得なくなっている。
政府の介入の経緯から北海道エアポートの経営の幅は狭い。収益性の向上策に苦心する中で、新型コロナウイルスの感染拡大による、航空需要の急減が発生する不運にも見舞われた。
19年に設立したばかりの北海道エアポートの財務はあっという間に傷み、22年には立ち上げ時の資本金371億円を1億円にまで減資するなど、いきなり崖っぷちに追い込まれる。コロナ禍が明けて、旅行客は順調に回復しているものの、今度は7空港を維持するための人件費や資材費の高騰による販管費の急増が北海道エアポートの収益の悪化要因になっている。
会社側は収益の改善で30年度までの債務超過の解消を目指しているものの、「絶好調の状況ですら赤字が出る体制こそ改めなければ、とてもではないが将来は見込めない」(関係者)との厳しい見方がもっぱらだ。
当初、民営化によって期待された新規路線の開通も遅々として進んでいない。需要の戻らない中国路線は外部要因によるものが大きいものの、24年に入ってからは、運営する空港でのジェット燃料不足が表面化。多くの海外エアラインが新千歳などの道内空港に就航したくても、燃料確保のめどが立たず、断念していたことが明らかになった。
さらに空港の地上業務を担う人材不足というボトルネックも表面化。増収を目指して、路線数を増やそうとしても、体制不足がそれを難しくしているのが実態だ。
燃料不足や人員不足はいずれも、需要回復と共に表面化することが明らかだった課題だ。対策が後手後手に回ったことで、批判の矛先は当然ながら北海道エアポート社へと向かっている。
北海道の観光産業の成長に水をさす空港運営会社の失態。その批判の矢面に立たされているのが、国土交通省出身で、北海道エアポートの設立時から社長を務める蒲生猛だ。特に燃料不足によって多くの航空会社による道内への就航が見送られてきたことが明らかになると、影響を受ける北海道内の観光業の関係者から、蒲生に対する怒りの声があらわになった。
今年6月、ある「事件」が発生した。日本旅館協会の北海道内の幹部が北海道エアポートにジェット燃料確保を要請する公開の席上で、会社の責任を指摘した観光関係者に対し、蒲生が逆上したのだ。「悪者で結構」、「あの社長はバカだと言えばいい」などのレベルの低い言葉で応酬する展開になった。「迷惑を掛けているんだから、何を言われようと、ひたすらに頭を下げておかなければいけないところじゃないか。逆上するなんてもってのほか。天下りの底の浅さが知れた」(関係者)
開き直り、自分の責任を回避するかのような蒲生の姿勢はすぐに関係各所に知れ渡り、観光関係者のエアポート社へのあきれと諦めを誘っている。
本州以南とは比較にならないほど人口規模の小さい北海道の地方部は交通需要を増やそうとしても限界がある。そもそも、赤字必至のインフラだ。その維持を「民間企業」に背負わせた結果、JR北では発足から30年以上が経過しても、一度も営業黒字が達成できていない。
空港に関しても、地方の巨額赤字を負わせた結果、肝心の収益分野の競争力強化も後回しになり、北海道全体の価値が低下していく循環になってきており、これはJR北がたどった道でもある。
「民間の営業努力でなんてきれいごとを言って、北海道の現実を直視していない政治がまた、余計な会社を生んだ」(北海道の経済人)。政治の作為による負担のしわ寄せが、また地域に巡ってきている。
(敬称略)