見るも無惨! どすぐろい勢力に侵食された「船井電機」

外部から一挙に5人が取締役入り。しかも、貸し金業関係者など電機業界とは無縁の人物ばかり。

2024年9月号 DEEP

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上田智一氏(船井電機HPより)

中堅AV(音響・映像機器)メーカーの船井電機でおぞましい事態が進行している。今年3月から4月にかけて取締役9人のうち3人が途中辞任、昨年6月に鳴り物入りで会長に就任したパナソニック出身の柴田雅久氏も代表権が外れてしまった。すると、5月7日付で外部から一挙に5人が取締役入り。しかも、貸し金業関係者など電機業界とは無縁の人物ばかりだ。ヤマダデンキの看板商品である低価格テレビを供給し続ける同社に一体何が起きているのか――。

「ミュゼ転がし」の顚末

ミュゼの宣伝(HPより)

創業者・船井哲良氏が1軒のミシン問屋から興した船井電機はここ数年、大きな転換期に揺れてきた。中韓製に押されてジリ貧傾向。元大藏官僚の中島義雄氏を副社長に招聘したテコ入れ策も不発。2017年には船井氏が90歳で死去し精神的支柱まで失った。長男・哲雄氏は北海道で医師の道を歩んでおり後継者も不在。結局、哲雄氏は21年に持ち株を処分する。手を挙げたのは外資系大手コンサル出身の上田智一氏。独立後、中小企業の再生案件を手掛け、そうした中の1社、出版業の「秀和システム」を通じTOBを実施。船井電機は非公開会社となった。秀和システムは買収資金約260億円の大半をりそな銀行からの借入金で賄っていた。

それから2年後の23年4月、船井電機は思いもよらぬ拡大策を打ち出す。本業と無関係の脱毛サロンチェーン「ミュゼプラチナム」を買収したのである。

ミュゼは流転の歴史を辿った会社だ。福島県出身の髙橋仁氏が地元に出戻って設立した同社は派手な広告宣伝で業容を拡大。原動力は顧客に課した多額の前受金だった。が、乱脈とも言える先行投資で資金繰りは窮迫。15年、株式市場でハコ会社とも揶揄されたRVHに身売りするが、案の定、経営低迷は続いた。そして20年には美容界の有名人・髙野友梨氏の傘下となった。ただ、その髙野氏の手にも余ったのか、ミュゼは再び売りに出る。そこに現れたのが船井電機というわけだった。

当時、船井電機はリリースにおいて買収日を23年4月11日付としていた。が、そこには重大な経緯が伏せられていた。

じつは、船井電機が大阪府大東市に所有する本社ビルなどの登記簿を見ると、それより4カ月前の22年12月28日、看過できない異変が生じていた。「ミュゼプラチナシステムズ」なる横浜市内の合同会社を債務者に在日コリアン系の横浜幸銀信用組合が39億6千万円もの根抵当権を設定しているのである。

件の合同会社は上田氏が設立したミュゼ買収の受け皿会社と見られ、この借り入れが買収資金に投じられたはずだ。その証拠に上田氏は実際のところ翌29日付でミュゼの代表取締役に就任していた。つまり、ミュゼ買収は当初、上田氏個人が船井電機の資産を担保に使って行ったものだった疑いが濃厚なのだ。その後の23年4月、合同会社の代表社員は船井電機の持ち株会社である船井電機・ホールディングス(HD)へと交代したが、最初から何かがおかしかった。

それが表面化したのは今年5月上旬のことだ。ネット関連企業サイバー・バズが突然22億円ものアフィリエイト広告代金が回収不能になったと発表。その相手先こそがミュゼだったのである。これには船井電機が連帯保証を付けていた。

しかもこの間、ミュゼの経営権を巡る異変も起きていた。件の合同会社の代表社員は3月29日に「KOC・JAPAN」なる会社へと異動、さらにそのKOCもわずか1カ月後の4月30日に辞任、後釜に座ったのは東京・上野の宝飾問屋街に登記された「TNC ASSET MANAGEMENT」なる会社だった。要するに船井電機は広告代金の支払い期日直前にミュゼの経営を放棄、その後もミュゼの支配権は転々とした構図だ。おまけに5月20日、ミュゼ本体は「MIT」に社名変更して抜け殻となり、事業は新会社に分割された。代金支払いを逃れるかのような動きである。

「資産切り売り」の算段

果たして一連のミュゼ転がしで登場した2社は何者なのか。

ホームページなどによれば、東京・銀座に拠点を置くKOCは、香港企業が手掛ける「Cポン」なる割引クーポン販売事業を日本に導入しているらしい。全国約1万店で利用可能とされるが、試みに「横浜市」で検索すると20店足らずしか該当がない。閑古鳥が鳴いている状態だ。

他方のTNCは23年7月登録の貸し金業者。以前は第二種金融商品取引業者だったが、22年11月に業務を休止し、業態転換したらしい。関係者によると、同社では22年春、経営権の交代があった。業務休止と同時に取締役を辞任した人物がじつは新オーナー。大阪出身の元消防士らしく、中国での研修を機に香港で実業家に転身、金取引を手掛け財を成したという。TNC買収は金商業免許が狙いだったようだ。ところが、半年余り後の22年11月、大阪府警により逮捕されてしまう。特殊詐欺に絡むマネロン捜査の一環だった。金商業の休止と取締役辞任はこれが原因らしい。元取締役は1審で無罪判決を得たようだが、今も大阪高裁で公判中の身だ。

じつは、冒頭で述べた船井電機の新役員5人のうち2人はTNCの取締役である。関係者によれば、TNCの元取締役はKOCへの大口出資者でもあるという。確かに、元取締役は19年に香港で設立した「Tasnic Capital」なる会社を22年8月に譲渡しているが、相手はKOCで直前まで代表取締役だった人物。その者は23年2月に香港で客死している。

船井電機入りしたTNCの取締役2人は大阪市内の貸し金会社の役員も兼務する。その会社の代表も今回、船井電機入りしたが、やはりいわく付きの人物。旧姓を名乗っていた14年前、公的制度に絡む不正融資事件で大阪府警に逮捕されているのだ。現在は自民党系の「自由同和会」で役員を務めていたりもする。

船井電機の保有不動産を巡っては今年3月以降、持ち株を処分したはずの船井哲雄氏が仮登記を複数付けている。船井電機を債務者に110億円超の根抵当権を設定している模様だが、詳細は不明だ。関係者によれば、経営関与を始めた新勢力は資産の切り売りを図る算段だという。

取材依頼に対し船井電機は「機密に関わる内容も含まれ回答は控えたい」とする。この先、悪い予感しかしない情況だ。

   

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