号外インタビュー/JPホールディングス代表取締役社長 坂井徹氏(聞き手/本誌 和田紀央)

子どもたちがなりたい自分と出会える学童クラブを発進!

2024年4月号 BUSINESS [インタビュー(2024年3月25日)]

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1973年東京生まれ。早稲田大学大学院修了。不動産会社の投資戦略部門責任者を経て独立、日本や米国で投資会社を運営。2017年マザーケアジャパン創業。18年JPホールディングス取締役、20年より現職。

保育大手JPホールディングスは、保育園・学童クラブ・児童館といった施設を全国で運営する子育て支援のリーディングカンパニーである。0~5歳児の保育では国内最大手だが、シェアの低かった学童クラブ(小学生対象)・児童館(高校3年生まで)の運営数を、昨夏から半年間で97施設から120施設へと急速に伸ばしている。社会課題の解決をめざし、児童に向けた新プログラム「未来(あした)のドア」を導入する坂井徹社長に話を聞いた。

坂井 今年に入って、非常に衝撃を受けた数字が二つあります。

一つ目は、2月に発表された23年の出生数です。75・8万人と過去最少を更新し、新成人の数(106万人)と比較すると、たった17年で子どもが3割も減っていることがわかります。今春、迎える新入社員たちの顔が浮かび、彼らの生活を今後40年、預かりきれるのかと、子育て支援事業の将来に危機感を覚えました。

二つ目は、子どもたちに夢がないことを示す数字です。毎年話題になる「小学生がなりたい職業ランキング」で、23年の1位はユーチューバー、2位は芸能人、3位は漫画家・イラストレーター・アニメーター、4位はパティシエ・パティシエールと、子どもたちが憧れる楽しそうな職業が並びますが、実はユーチューバー(約10%)を大きく上回る「隠れ1位」があるのです。

スプリックス基礎学力研究所による調査で「なりたい職業はない」と答えた日本の小学生が30・6%もいました。世界11か国で日本はワーストです。11か国中4か国は3%以下で、中国2・9%、インドとインドネシアは1・6%、ミャンマーは1・3%と極めて低い。欧米諸国は、アメリカ8・1%、イギリス14・5%、フランス15・9%とさすがに高めですが、日本の30%は突出しており、信じられない数字です。

将来の目的を見失った子供たち

――「なりたい職業がない」と、学校で何を学び、身に付けたらよいかわかりませんね。

坂井 そのとおりです。実際、不登校の小中学生は29万9049人で過去最多を更新し、前年比22・1%の大幅増となりました。とりわけ深刻なのが小学校1年生から3年生までの増加率で、前年比40%増と低年齢化が進んでいます。にもかかわらず、不登校児への支援は行き届いておらず、22年度の不登校児のうち4割近くが学校内外で専門家らの相談や支援を受けていませんでした。

出典:文部科学省

さらに、小中高生の自殺は過去最多の514人となりました。世代別にみると、若い世代(20歳未満)だけ自殺率の上昇が続いており、若い世代で死因のトップが自殺となっている国は主要先進国でも日本だけです。日本の子どもたちは将来の夢が見つからず、学校に通う目的、もっと言えば生きる目的も見失っていると思います。

保育園や学童クラブの運営をしていて、見えてくる現実があります。たとえば保育園を卒園し、小学生になった子どもたちが直面する夕食問題です。定食屋でお子さんだけで夕食を取る光景を見かけることが増えています。お母さんの帰宅は、19時半頃になることが多いですが、学童クラブでは保育園のように夕飯提供ができません。学童クラブが18時に終わった帰りに定食屋に寄ったり、帰宅後に一人コンビニ食を食べているお子さんが少なくないのです。

一人で夕飯を取る日々が続き、高学年になると学童クラブを出ていかねばなりません。待機児童が多いので、預かれる施設が足りないのです。目的意識のないまま塾通いが始まり、その上いじめに遭おうものなら、それはもう絶望です。「僕・私のことを分かってくれる人なんて、誰もいないんだ」と。

インドネシアのキャリアプログラムに瞠目

――なぜ、日本の子どもはなりたいものがないのでしょう。どこに問題があるとお考えですか。

坂井 私は昨夏、なりたい職業がない子が1.6%しかいないというインドネシアの小学校を回りましたが、まさに「目から鱗」の連続でした。もともとは、ビジネス上の目的もありました。弊社には発達障害のお子さんを専門的立場からサポートする臨床心理士が多く在籍しています。彼らの知見を活かし、発達障害の療育(ケア)に役立つソフトを開発して発展途上国に輸出できないかと考えていましたが、逆に、私が様々な気づきと学びを得ることとなりました。

インドネシアの子どもたちに将来の夢を聞くと、どの子も「〇〇になりたい」ではなく、「私は先生になるんだ」「僕は消防士になるんだ」と、胸を張って断言するのです。あまりに自信満々なので、わざと意地悪く「本当に、なれるの。向いてないかもしれないじゃん」と言えば、「それはない。サイコロジストがもう決めてくれたんだ」と返ってくるのです。彼らの目は、キラキラ輝いていました。

子どもたちとの対話によって判明したのは、インドネシアでは、多くの公立小学校に臨床心理士がいて、町や村と一緒に子どもたちのキャリアプログラムを提供しているという事実でした。子どもたちの性格診断テストを行って、どういう職業に向いているかパターン分析し、結果に合わせて、町や村の様々な職業の人を招いて子どもたちに話を聞かせているのです。

「私たちの国は貧乏です。しかし、子どもたちが将来きちんと生活をしていけるように育成しています。お金はかけられなくても、地域ぐるみで子どもたちに夢を与えることはできる」と語る、臨床心理士の言葉に胸を打たれました。

学童クラブの全施設で「キャリア紹介」プログラム

――まさに目から鱗が落ちる体験ですね。

坂井 私は、子どもたち全員がしっかり自分の人生を切り拓いていけるよう、早いうちにその子に合った可能性の芽をある程度、見つけてあげることは大人の責任だと考えています。学校を出るまで世の中を知らないまま過ごすのでは、何が自分に向いているかもわからず、社会に出て苦労するでしょう。

100万人を超える大人の引きこもりも社会問題になっていますが、これも、なりたい職業がないことが一因と見ています。7年前から小学校のカリキュラムに「キャリア教育」が加わってはいますが、まだまだ不十分だと思います。

学童クラブでは勉強を教えることはできませんが、勉強以外のプログラムを提供することはできます。放課後の時間を使って、子どもたちがもっと夢を持てるような取り組みをできないか、学童を社会課題解決のプラットフォームにしていけないか、との思いから今年スタートするのが「未来(あした)のドア」という、新しいプログラムです。

弊社の学童期における育成理念は、「なりたい自分になる力を育む」です。子どもたちがなりたい職業を言えるようになることを目標に、全施設で毎月1回、いろんな職業の人たちをお招きしたキャリア紹介プログラムを実施していくほか、年に一度は大きな会場で多くの企業にも参加してもらい、子どもたちに夢を見つけてもらうイベントも行っていきたいと思います。

学校では教わらない「行政・政治」のリアル

――学童クラブとしては、前代未聞の取り組みですね。どういった職業を紹介していきますか。

坂井 子どもたちの人気職業といえば、ゲームクリエイター、スポーツ選手、保育園の先生、などが定番ですが、それぞれに子どもたちがまだ知らない関連職業がたくさんあります。たとえばゲームクリエイターになりたい子なら「CGデザイナー」「サウンドクリエイター」にも向いているかもしれません。あるいはスポーツ選手になりたい子は「インストラクター」「体育教師」にも適性がありそうです。つまり、人気の職業に「関連する職業」を集めて、紹介することで「こんな仕事もあるんだ!」と、発見につながる機会を提供したいと考えています。

人気の職業のみならず、全施設で取り組んでいきたいと考えているのは、公の職業紹介です。どんな地域にも役所は必ずあって、そこには福祉課、水道課、土木課、観光課、建築課など世の中の構図が凝縮されています。さまざまな課の人たちから話を聞くことで、世の中への理解が深まり、興味も広がって、公徳心も育まれると思います。

地元の議員にも必ずお声がけしていきます。思想や政党の話はせず、議員とはどんな仕事か、日々どういった活動をしているのかを話していただきます。テレビでは連日、政治の問題が取り上げられ、若い世代の政治不信、政治離れは深刻です。若者が将来に夢や希望が持てない要因の一つと考えています。学校で教わることとは違った政治のリアルを知ってもらい、政治参画へ意識を持ってもらえたら、議員の子どもに対する見方も変わり、子ども寄りの政策も出てくるかもしれません。

私は、世の中はアイデアと情熱と少しの投資で大きく変えることができると考えてます。コーポレートメッセージである「すべてはこどもたちの笑顔のために」の実現をめざし、グループ一丸で、子育てをめぐる社会課題の解決に貢献していけたらと思います。

聞き手 編集部 和田紀央

   

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