新連載「ウクライナ・ダイアリー」/パンは私たちの「生きる証」/古川英治(キーウ在住)

2024年3月号 LIFE [ウクライナ・ダイアリー]

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1月の週末、首都キーウから南に70㎞離れたヴィタチウ村を訪れた。目当てはベーカリーだ。ウクライナを縦断するドニプロ川を臨む丘に位置する店はキーウなどから訪れる人々でにぎわっていた。ロシアの侵略に抗する戦いが長期化するなかで、ここはウクライナ人にとってパワースポットといえるのかもしれない。ヴィタチウは4世紀には集落ができたとされ、キーウ大公国の要塞も築かれた歴史的な地。ベーカリーのそばには、国民的な詩人で画家のタラス・シェウチェンコが描いた絵を模した伝統的な木造の教会と風車が建つ。そして、焼き立てのパンがある。「先が見えなくて、正直落ち込むこともある。だから時々ここに来る」とキーウ在住の30代のIT技師は話す。「この景色を見ながらいただくパンは最高だ」店主のオレクサンドル・ソブコと妻イリーナは、ロシアの侵略が始まった2022年2月24日の直後にパンを焼 ………

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