追憶の中村吉右衛門/含羞の眼差し、その陰影/ジャーナリスト 上村以和於

2022年2月号 LIFE [追悼「わが吉右衛門」]

  • はてなブックマークに追加

中村吉右衛門逝去の報を知ったのは旧臘朔日(12月1日)のことだったが、じつはそれまでに八カ月に及ぶ空白の日々があった。ホテルで食事中に倒れそのまま入院というニュースを聞いたのは三月の末だったか。それ切り、容態はおろかそのホテルの名も、直ちに入院したというその病院の名も、知らされないままに夏を迎え秋が過ぎ、冬が来ようとしていた。一切が伏せられているという、そのことが却って容易ならざるものを感じさせた。吉右衛門は、ある日卒然とわれわれの前から消え、そのまま、やがて逝ったのである。まず心を領したのは喪失感だったが、その喪失感には、その芸の卓抜さと存在の大きさと意味とを問い、翻って歌舞伎の今後を思い遣ることと、そうしたことだけでは掬い切れない、むしろ多分に個人的な、「わが吉右衛門」とでもいうべき思いとが重なり合い絡み合いしていて、それらを器用に振 ………

ログイン

オンラインサービスをご利用いただくには会員認証が必要です。
IDとパスワードをご入力のうえ、ログインしてください。

FACTA onlineは購読者限定のオンライン会員サービス(無料)です。年間定期購読をご契約の方は「最新号含む過去12号分の記事全文」を閲覧いただけます。オンライン会員登録がお済みでない方はこちらからお手続きください(※オンライン会員サービスの詳細はこちらをご覧ください)。