地方銀行の「超豪華な研修施設」が乱立! 

地銀協会の合同研修所売却や、早期退職導入が迫るなか、研修という名の「お勉強ごっこ」が続く。

2021年5月号 BUSINESS [哀れな行く末]
by 長門武蔵(金融ジャーナリスト)

  • はてなブックマークに追加

写真1 地方銀行研修所

東京駅から三鷹駅まではJR中央線快速で33分で到着する。三鷹といえば、かつては雑木林や畑が広がり、当地で暮らし1948年に入水自殺した太宰治の墓や記念碑やゆかりの地跡が点在する場所でもある。雑多な駅南口界隈からタクシーに乗り、バスに自転車に歩行者が溢れる商店街を通り約10分でたどり着くのが、地方銀行研修所(合同研修所)だ(写真1)。 

筆者も何度か訪問しているが改めて遠いなというのが率直な感想だ。広大な敷地に中庭もあり宿泊施設や独身寮もあり、ホテルのように立派ではある。地銀協によると、個別行で対応が難しい専門的な集合研修を若手や中堅、管理職、役員などの階層別、法人取引や個人取引など業務別に計50程度扱っているという。しかし、日本経済新聞(1月7日付朝刊)によると、地銀協は、この合同研修所を売却する検討に入ったという。同研修所は築40年程で、2030年代半ばまでに20億円近くの補修費が必要となる見込みながら、コロナの影響もあり、加盟行から集める利用料で補修費を賄えない見通しになった。実際、19年度の稼働率は25%程度にとどまったという。

驚くばかりの「3大豪華研修施設」

地銀協、正式には一般社団法人全国地方銀行協会という。設立は1947年、加盟行は現在62行。横浜銀行、千葉銀行、静岡銀行、福岡銀行といった各県を代表するいわゆる第一地銀、大手地銀といわれる銀行が加盟する由緒ある組織だ。地銀協では、行員向け研修だけでなく、会員銀行の意見をとりまとめて提言を行ったり、新たな金融商品や経済の動向についての調査・研究などを行ったりしている。

地銀協の歴代会長は、かつては、大蔵省事務次官出身の横浜銀行頭取と日銀理事出身の千葉銀行頭取が交互に会長を務めていた時代もあったが、いまはプロパー出身の有力地銀5行(横浜、静岡、千葉、福岡、常陽)の頭取による1年ごとの輪番制となっており、現在の会長は横浜銀行の大矢恭好頭取であり、今年6月からは静岡銀行の柴田久頭取が務めることが内定している(図表1)。一部には、老朽化する内神田にある地銀協会館の再開発や、シンクタンクとしても業界圧力団体としても中途半端な地銀協自体の存在意義を問う声もある。

さて、冒頭の地銀協による合同研修所売却との報道の背景には、別の大きな理由がある。大手地銀を中心に、自前で巨大な豪華研修施設が続々誕生しているのだ。人口減少と低金利下で、構造不況業種といわれ、政府や日銀による圧力もあり、地銀再編が叫ばれ、店舗や人員のリストラが進行しているなかで、なんとも驚くばかりだ。

特に、地銀の「3大豪華研修施設」として①静岡銀行「研修センター」、②京都銀行「金融大学桂川キャンパス」、③西日本シティ銀行「ココロ館」が挙げられる。

写真2 静岡銀行研修センター

次期会長行でもある静岡銀行の研修センターは、新本部棟の南側に建つ8階建てで360名を収容できる大会議室や、営業店を模したフロア研修室などを備えている。また、200名以上を収容できる宿泊室や、利便性と快適性に配慮した食堂・カフェ・休憩スペースを併設し、「従業員の成長と満足を実現する施設」「さまざまな人材交流を実現する施設」として活用しているという(写真2)。

京都銀行では14年4月に、約56億円をかけて新研修施設「金融大学校桂川キャンパス」が完成。500人を収容できる大ホール、模擬店舗、機械研修室、和室研修室、241名を収容できる宿泊室、食堂、ラウンジなどを備えている(写真3)。

西日本シティ銀行は17年3月、旧研修所などを建て替え、新しい研修所や独身寮などを備えた「ココロ館」を福岡市中央区に開館している(写真4)。地上12階地下1階で、敷地面積8583㎡、延床面積約18200㎡に及ぶ。

写真3 京都銀行 金融大学校桂川キャンパス

1階にはエントランス、ラウンジの他、歴史・文化サロン、学習室、行員専用の図書室には金融関係中心に約2500冊の蔵書を集めている。2階は、セミナー開催のための大ホール(288席)、研修室があり、広大なルーフガーデンとカフェは地域交流の拠点となるように開放されている。

3~4階には、実際の店舗に導入している最新鋭システムを用いた研修ができる模擬店舗や端末研修室、PC研修室があり、新人向けの研修など、行員の能力向上や専門人材の育成が図られている。

さらに8~12階には、男女別の独身寮、コミュニケーションスペース、多目的ダイニングなどがあるという。なお、地下1階 には、多目的アリーナ(体育館)、剣道場、柔道場まで完備されている。

写真4 西日本シティ銀行 ココロ館

これら「3大豪華研修施設」以外にも、北海道銀行のほしみ研修センター、滋賀銀行のしがぎん浜町研修センター、紀陽銀行の紀陽研修センター、ふくおかフィナンシャルグループの人材開発センターなど、ほとんど全ての地銀が、グラウンドや宿泊施設に模擬店舗や食堂のある立派で豪華な研修施設を所有しているのだ(図表2)。しかも複数の研修施設を有する地銀も多い。

「お勉強ごっこ」ばかりで稼ぐ力なし

足元では、現会長行の横浜銀行も負けていない。今年3月から、川崎支店が入る「横浜銀行川崎ビル」(地上10階、地下2階建て)内に宿泊研修施設「はまぎんラーニングセンター」を開設している。研修室が全12室あり、全ての研修室にWeb会議システムを設置しており、リアルとオンラインを組み合わせたハイブリッド型研修も可能である。4階の一部から10階が研修施設であり、カフェテリアや宿泊スペースもあるという。

都心から離れた三鷹の地銀協の施設を使わなくても、自前の豪華研修施設を競うように新築し、使うようになったのが、合同研修所売却報道の真相だ。

ところで、各地銀は、そもそも、なぜかような豪華研修施設を新設してまで、研修を行うことが必要なのだろうか。

銀行員といえば、研修、研修また研修。立派な設備も完備でそれ研修。銀行業務はそんなに複雑かつ難解なんだろうか。デジタル化や自動化でむしろ行員の業務は簡略化されているはずなのに不思議な話だ。または、銀行員は、そんなにも覚えが悪いのだろうか。研修や勉強で得た知識を実戦で生かす前に定年または退職とならないことを願うばかりだ。

当たり前だが、何でもかんでも研修すればいい訳ではない。本人のやる気も、適性もある。そもそも練習と実戦は全く違う。どんなに豪華研修施設で座学研修し、資格を取得し、ロールプレイングで研修しても、実務や実戦で役に立つとは限らない。

経営陣と人事部など本部主導による過剰な受け身研修や勉強会で均質化された行員が、百戦錬磨の企業経営者の貸出ニーズ、金融リテラシーの高い富裕層や資産形成層の運用ニーズに対して機敏に対応できるのだろうか。はなはだ疑問である。

地銀は、上場する株式会社であるにも関わらず、研修施設や研修制度の導入が、費用対効果やコストの面から語られることもない。研修という名の「お勉強ごっこ」ばかりで、稼ぐ力が伴わず業績に殆ど反映出来ていないといったら言い過ぎだろうか。

スマホ化・デジタル化で余剰人員

さらに問題なのは、金融分野でもデジタル化が進むなか、システム開発者、データサイエンティスト、アプリ開発者、クラウド技能者、ウェブデザイナーなどITスペシャリストの育成や強化が心もとない状況なことだ。みずほのシステム障害に隠れているが、今年に入ってからも、静岡銀行や鹿児島銀行、NTTデータによる地銀アプリなどで、システムトラブルが続いており、地銀におけるデジタル人材の育成と確保は喫緊の課題だ。

当然、豪華研修施設でもこうしたデジタル化に関する研修はどの銀行も対応出来ていない。もっとも、こうしたデジタル人材に関しては特に、既存の人材をいくら行内研修や外部派遣で育成しようとしても限界があるのも事実だ。

外部からの中途採用をすすめる、または、既存行員に対して専門職としてのインセンティブ供与が本質的解決策ともいえるが、今の地銀に喜んで転職するようなお人よしのデジタル人材は皆無に等しい。

デジタル人材の中途採用を強化する一方、新卒採用を原則廃止する施策も必要となろう。銀行業務のスマホ化・デジタル化で余剰人員が増えているのに、新卒一括採用を続けるのは背任行為ともいえる。とりあえず新卒を採用しておくという体質は、とりあえず老朽化した本店や研修所は建替えておこうという発想と同じで愚策であり、とりあえず採用された者はたまったものではない。

地銀のスマホ化と業績低迷が進むなかで、新卒抑制や定年退職など自然減だけでは対応できず、雇用維持前提のビジネスモデルが間もなく崩壊する。その結果、早期退職制度という名の人員削減が、地銀でも始まるはずだ。表向きは、セカンドキャリア支援制度、チャレンジ・キャリア制度、起業・独立応援などもっともらしい前向きな名前となるが、要は早期退職制度だ。その際には、地銀協の合同研修所の売却では済まず、各地銀が自前で持つ豪華研修施設も無用の長物になることだろう。

著者プロフィール

長門武蔵

金融ジャーナリスト

   

  • はてなブックマークに追加