世は歌につれ② 圭子ヒカルの「母子舟(おやこぶね)」

2019年3月号 LIFE [世は歌につれ②]

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ダンスパーティーで誰からも誘われない壁の花のように少女は所在なげだった。この少女が何者かを知っているのは天井の高いこの部屋にいる百人ほどの招待客の中でも私ぐらいだろう。招待客の中には誰もが知っている元総理大臣や芸能人がいた。「ワーッ有名人ばかり」と興奮気味の少女に私はこう言った。「一番の有名人はきっと君だよ」内閣総理大臣官邸が新しくなる直前の2002年2月18日夕刻。旧官邸で行われたおそらく最後の公式行事になったであろうブッシュ米国大統領歓迎レセプション。高齢者ばかりの招待客の中でたった一人の十代の少女。歌手の宇多田ヒカルだった。レセプションが始まる前、招待客は列を作って大統領に挨拶をする。私の少し前にいた彼女を総理大臣小泉純一郎は大統領に紹介した。大統領が何かを話しかけ、それにネイティブの英語で答える。周りから小さなどよめきが起こった。その1 ………

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