「チューリング・マシン」に踊る無知

2015年5月号 連載 [いまここにある毒]

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記憶とは不思議なものだ。20年ほど前に英語で読んだ数学者の伝記(*)が映画化され、映画のタイトルThe Imitation Game(模倣ゲーム)の句が1983年版原書129ページにあったのを思いだした。脳の片隅で明滅したのだ。難攻不落のナチの暗号を解読したアラン・チューリングの一生を、同じ数理物理学者が克明に追った本だ。カントールやヒルベルト、フォン・ノイマンやヴィトゲンシュタインら20世紀の数学の最先端、コンピューター原理の創成に立ち会える、一読忘れ難い評伝だった。「模倣ゲーム」とは、同性愛者のチューリングが正体を隠して生き、54年に自殺に追い込まれたことを指す。同性愛に刑事罰を科した時代ゆえの悲劇だが、英国首相が公式に謝罪したのは55年後のこと。パソコンもインターネットもすべて彼の頭脳に宿った世界の延長だから当然だろう。彼なかりせば「今」はなかった。3月31日、同性 ………

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