SFの巨匠が若き日の「懐疑と崩壊」

『市に虎声あらん』

2013年10月号 連載 [BOOK Review]

  • はてなブックマークに追加

ディックといえば、熱狂的なファンをもつSF小説の巨匠である。1982年に53歳で没するまで大量の作品を書いた。そのうち『高い城の男』がヒューゴー賞、『流れよ我が涙、と警官は言った』でジョン・W・キャンベル記念賞、『暗闇のスキャナー』が英国SF協会賞、と輝かしい受賞歴を誇っている。SF小説には縁のない人でも、没後に映画化された『ブレードランナー』や『トータル・リコール』『マイノリティ・リポート』などの原作者だと聞けば、ああそうか、と思うだろう。しかし、ディックの初志は純文学(主流小説=メインストリーム)にあった。売れない作家がSFで糊口をしのぐうちに非主流のスターになったわけだ。主流小説で生前の刊行は『戦争が終わり、世界の終わりが始まった』だけ。『市に虎声あらん』は事実上の長編処女作だが、出版は55年後の2007年、もちろん本邦初訳である。これほどの力作が世 ………

ログイン

オンラインサービスをご利用いただくには会員認証が必要です。
IDとパスワードをご入力のうえ、ログインしてください。

FACTA onlineは購読者限定のオンライン会員サービス(無料)です。年間定期購読をご契約の方は「最新号含む過去12号分の記事全文」を閲覧いただけます。オンライン会員登録がお済みでない方はこちらからお手続きください(※オンライン会員サービスの詳細はこちらをご覧ください)。